シャッタースピードを変えて撮影することで、目で見ているものとは違う、カメラだからこそ表現できる世界を切り取ることができます。今回は幻想的に仕上げたり躍動感を出したり、スローシャッターを使った撮影テクニックをご紹介します。
撮影監修:斎藤勝則
空気が澄んだ冬の日の夕方、高層マンションが立ち並ぶ川面の風景をスローシャッター(長時間露出)で捉えた1枚です。流れのある川の水面は常に波打ち揺らいでいますが、スローシャッターで写すことで独特のボケ感が生まれ、風のない日の湖面を思わせるかのような静寂を感じます。肉眼では決して見ることができない、幻想的な川の風景写真に仕上がりました。
都心にある大きな川の遊歩道から、対岸にそびえるマンションをメインに川の風景を切り取りました。撮影したのは2月。冬は空気が澄んで空がきれいに抜けるため、夕焼けになる直前の美しい空の色を繊細に捉えることができました。スローシャッターでの撮影のため、三脚を使いました。
水面をこのように平面的に写すためには、ある程度長くシャッターを開けておく必要がありますが、絞りを絞ったとしても夕景のこのシチュエーションでは明るすぎるため露出オーバーになってしまいます。そこで、レンズから入る光の量を減らすことができる「NDフィルター」を使用しました。撮影モードは自分好みの設定で撮影できる[M マニュアル]で、絞りはf/16、ISOは100に設定。NDフィルターによりシャッタースピードを120秒確保することができました。
このように被写体が暗くない場合、また絞りを開いたままスローシャッターで撮りたいときなどはNDフィルターがなければ撮影できないケースも多いため、スローシャッター撮影の必須アイテムとも言えます。
二股に分かれた夜の交差点、走っていく車の様子をスローシャッターで撮影しました。シャッターが開いている間、動いている車を捉え続けるため、ヘッドライトやテールランプの軌道がこのように線状に写ります。今回はさらに同じ場所で撮った2枚の写真を合成し(多重露出)、光跡を増やしています。夜の交差点を走り抜ける光の線、ドラマチックな1枚です。
交差点にある歩道橋の上から、通りの様子全体を写す広角画角で撮影しました。三脚を使っての撮影となるため通行者の邪魔にならないよう、またあまり長時間の撮影にならないよう配慮しましょう。また三脚を使ったスローシャッター撮影の場合、手ブレ補正機能がかえってブレを引き起こすことがあるため、設定をオフにしましょう。
光跡を捉える撮影の場合、シャッタースピードは車の走る速度や交通量、どの程度長く光跡を捉えたいかによって調整します。今回は二股に分かれた両方の道路、奥の方から手前までの長い距離を光跡で埋め尽くしたかったため、かなり長い秒数、シャッターを開ける必要がありました。光量が少ない夜のシチュエーションとはいえ、あまり長いと露出オーバーになってしまいます。そこで露出オーバーにならない程度のシャッタースピード(10秒)を確保しつつ、それぞれ違う場所を車が通るタイミングで撮影したものを後から合成(比較明合成)、いわゆる多重露出の効果を使って仕上げました。
シャッタースピードをコントロールするため撮影モードは[M マニュアル]で、絞りは光跡を奥の方まではっきり写したかったためf/16に絞って、ISO感度は100で撮影しました。
夜、空港の滑走路に着陸してきた飛行機。スローシャッターで、飛行機の動きに合わせてカメラを振りながらシャッターを切る「流し撮り」で撮影を行っています。カメラの動きに合わせたことで、飛行機は止まっているように写り、背景にあるターミナルビルや誘導灯の明かりは光の帯のように流れています。動いている飛行機の動感を表現することで、スピードが強調された1枚です。
空港にある展望デッキから、上下のブレを抑えつつカメラを左右に振ことができるビデオ用の三脚を使い撮影しました。展望デッキには安全のためのワイヤーフェンスが張られていますが、ワイヤーフェンスの写り込みをなるべく避けながら、飛行機が下りてくる位置や流して写す背景の場所を確認して構図を決めます。フェンスにレンズを近づけ、望遠の焦点距離でワイヤーフェンスをボカしながら撮影しましょう。
流し撮りのコツとしてはまず、カメラのフォーカスモードをAF-Cに、またAFエリアモードは被写体に応じてダイナミックAFやワイドエリアAFに設定しましょう。シャッタースピードは被写体の速度に合わせて設定しますが、まず1/60秒くらいから試して撮り、少しずつ遅くしていってみると、被写体がピタリと止まり背景が適度に流れて写る最適なシャッタースピードを探しやすくなります。今回は上下のブレを抑えるため動画用の三脚を使って撮影していますが、もちろん三脚がない場合でも撮影は可能です。カメラの構えかたに気をつけ、上下にブラさず被写体を左右に追う動きを意識しましょう。
流し撮りはカメラを動かしながら撮るため、被写体自体がブレてしまったり、シャッタースピードの数値によっては背景があまり流れなかったりと失敗も多い撮影方法です。ですがその分、上手く撮れたときにはそれなりに達成感も得ることができます。成功するまでぜひ、チャレンジしてみてください。