レンズの先端に取り付けるだけで写真にさまざまな効果を与えることができるフィルター。使いこなせば写真表現の幅が一段と広がりますが、種類も多く、何をどう使えばいいのか迷っているかたもいるかもしれませんね。今回は持っていると便利なフィルターを中心に、その効果と使いこなしのコツをお伝えします。
撮影監修:斎藤 勝則
ひとくちにフィルターといってもその種類と役割はさまざまです。まずは、代表的なものから押さえておきましょう。
レンズ表面に取り付けることでレンズを保護します。レンズの色調(可視光域)に影響を与えないニュートラルカラーフィルターのほか、画質に影響を与えにくい高性能保護フィルターもあります。
被写体の光の反射をコントロールするために用います。風景写真撮影時に使うと表現の幅が広がります。
「減光フィルター」とも呼ばれ、レンズに入る光の量をコントロールできるので低速シャッター表現をしたいときに利用されます。
色を強調する、写りをふんわりやわらかくするなど、表現に合わせて各種のフィルターがあります。左の画像はクロスフィルターを使って点光源に光の線(光条)を発生させてキラキラ感を強調したものです。
さまざまなフィルターがある中で、今回は「円偏光フィルター」と「NDフィルター」についてその効果を具体的に見てみましょう。
円偏光フィルターは2枚のグレーのガラスを重ねた構造になっています。外側のガラスの枠(前枠)を回すことで反射除去効果を強めたり弱めたりできます。ファインダーを覗きながら、またはライブビュー画像を確認しながら前枠を回し、狙った効果が得られる位置を探って撮影します。被写体の表面で輝いている反射光を調整するものなので、被写体に前面から光が当たっている順光時に大きく効果を発揮します。
被写体表面の反射を弱めて緑や青空を色濃く写したいとき、逆に反射を強めてきらめきを表現したいときなどに使用します。具体的な活用シーン例を写真とともに見てみましょう。
順光時の風景撮影では、木々の葉の表面に反射した光が白く光ってしまうためにきれいな緑色に写らないことがあります。この反射を円偏光フィルターで取り除くことで、鮮やかな緑を表現することができます。同時に空は濃い青に、雲は陰影が強調された写りとなります。反射を除去することでのっぺりした平面的な印象になることもあるので、撮りたいイメージに合わせて効果の程度を選びましょう。逆に、反射を強めて使えば、ギラギラした日差しを表現できます。
水に泳ぐ魚を写したいときなどは水面の反射を弱めることで映り込みを消し、水の中を写すことができます。しかし、反射をすべて消してしまうとまるで水が消えたように写ってしまうので、適度な反射を残した使いかたをするのがおすすめです。反射を強くして、水のきらめきを表現する使いかたもできます。
天気のいい日の屋外や、夜の街などでショーウィンドウなどを撮影するときにガラスに周りの風景が映り込んでしまうことがあります。このガラスへの映り込みも円偏光フィルターで弱めたり強調したりできます。
たとえばガラスケースの中にいる動物を撮影したいとき、ガラスへの映り込みを除去することできれいに撮影することができます。
フィルターの反射除去効果を最大にすれば「いい写真」になるわけではありません。反射を取り除くことは、言い換えれば輝き感が失われるということです。反射を強める効果も含めて、表現したいイメージに合わせたフィルター効果を得るようにしましょう。また、順光時に効果を発揮するフィルターなので、撮影位置によっては画面の片側だけに効果が偏ることがあります。とくに広角レンズを用いて広く空を写すときには濃度のムラとなって写真に現れることがあるので、気をつけましょう。
NDフィルターは、写真の発色に影響を与えずに光量のみを減らす効果があります。光量を1/4にする「ND4」、1/8にする「ND8」など、減光の度合いによって数字が大きくなります。NDフィルターにはグレーの色がついていて、効果の高いものほど色が濃くなります。どのくらいの効果を必要とするのか、目的によって選びましょう。
明るい環境の中で絞りを開放にして撮影しようとしたら、シャッターボタンが下りなかったり、明るく写り過ぎてしまったりすることがあります。カメラの上限シャッタースピードでも撮れないほど被写体が明るすぎるということです。こうしたときにNDフィルターで光の量を減らして撮ることができます。夏の晴天下や晴れた日の雪景色などで活用できます。
滝などの水流を糸のように表現したいときは意図的にスローシャッターにして、水の流れをぶらして撮影します。シャッター速度を遅くしたいけれど絞りを開けたくないときや、昼間の撮影のためシャッタースピードを遅くできない場合などにNDフィルターがあると便利です。
小刻みに揺れる水面をスローシャッターでぶらすことで平面的に写すことができます。下の写真では25秒という長い露光時間にするためにND1000を用いました。水面の揺らぎがぴたりと止まり、夕焼けが色濃く映り込んでまるで鏡のように表現されています。雲の流れもぶれて、実際には見ることができない独特な雰囲気の風景写真となりました。
フィルターを選ぶときには、まず取り付けたいレンズのアタッチメントサイズ(フィルターサイズ)を確認して同じサイズのものを選ぶようにしましょう。
取り付けの際は丸枠を持ち、レンズ先端のネジ山に回して取り付けます。ガラス面に触れないように取り付けましょう。
フィルターは重ねて使うこともできますが、厚みを増したフィルター枠が写真の四隅に写り込む「ケラレ」の原因になったり、光学性能が落ちて画質に影響を与えたりする場合があるので注意が必要です。画面の四隅に写った黒い影がケラレです。
フィルターが汚れていると写真の写りが悪くなってしまいます。汚れたら掃除をしましょう。お手入れ方法は基本的にはレンズと同じです。ブロアーでほこりを吹き飛ばしてから拭き上げます。
レンズのお手入れの詳細はLesson13で動画を用いてご紹介しています。
フィルターの役割や効果を知ることで、レンズ単体ではなしえないさまざまな表現があることがお分かりいただけたのではないでしょうか。ぜひ積極的に利用して、イメージ通りの作品づくりの強い味方にしてみてはいかがでしょうか。