高画素を生かした、フォーマット切り替え撮影。
ところで今もD3Xによるワークフロー例をお聞きしましたが、高解像度ならではの使い方などはありますか?
そうですね。ではDXフォーマットの活用法などどうでしょう。
例えばファッション写真。FXフォーマットでは、高画素に加え51点のフォーカスポイントにより、オートフォーカスでも高精細な撮影が可能です。しかし画面端など、フォーカスポイントから外れた部分のピントまで、カメラまかせというわけにはいきません。ところがDXフォーマットに切り替えることで記録範囲が狭まり、結果、画面全体にフォーカスポイントが配置されることになります。さらに3Dトラッキング機能を効かせると一度ピントを合わせた被写体を追い続けるので、さほどピントに神経を使わなくても撮り続けることが可能です。つまりどのタイミングでシャッターを切っても、常にピントのあった画像になるわけですね。
FXフォーマットとDXフォーマットの切り替えについて
フォーマットの切り替えは、簡単に行えるのですか?
ファンクションボタンにこの設定を登録することで、瞬時に切り替えることができます(取り扱い説明書P336参照)。この切り替え、対談などの撮影時にも便利です。まずFXフォーマットで、対談している全体の様子を撮影します。そして個々を撮影するときは、レンズ交換などせずにDXフォーマットに切り替えるのです。対談風景は見開きに渡ってレイアウトされる場合があるため高画素が必要ですが、対談中の個々の写真は通常さほど大きくレイアウトされることはないので、2000万画素も必要ありません。加えて、仮に24-70mmといったレンズを使用している場合では、DXフォーマットに切り替えることで約1.5倍、実質36-105mm相当のレンズとして使用することも可能になります。
でもDXフォーマットでは、かなり画素数が制限されるのではないですか?
確かにD3では、DXフォーマットにすると画素数が少なくなるため、あらかじめ最終的なサイズが明確になっていない撮影にはおすすめできません。しかしD3XのDXフォーマットは、約1000万画素。画素数的にはD3のFXフォーマットと同等の撮影が可能です。またすべてを2450万画素のまま撮影していると、当然データ量も大きくなります。後処理のことも考えると、FXとDX、2つのフォーマットを使い分けて撮影すると良いでしょう。後からトリミングすることもできますが、初めから最適な大きさで撮影できるにこしたことはありませんね。例えば報道の分野でも、DXフォーマットがテレコンバーターの替わりとして使われています。なによりシャッターチャンスが重要視される現場では、その場でのスピーディな対処が必要。テレコンバーターを脱着している時間も惜しい、ということはよくあります。ある程度の画素数と画質をキープしながらワンタッチで切り替えられるので便利です。
長く銀塩をやっている方には、このような使い方はイメージしにくいかもしれません。これまでは必要に応じて4×5判、6×7判、35mm判とそれぞれ用意していたのですから。でもデジタルカメラは単にフィルムがメモリーカードに変わっただけではなく、独自の特性を持ったカメラです。その特性を理解することで、仕事の幅や効率は大幅に変わってきます。
新しいワーキングスタイル構築のすすめ。
これもまさにデジタルならではの使い方ですね。
撮影にデザイナーが立ち会う場合、撮影した画像をその場ですぐにデザインフォーマットにはめ込んでみたい、などということがあります。事務所に戻ってから画像をレイアウトに当てはめてみたところうまく収まらなかったので撮り直し、などということはまずできません。ところが、前回のCapture NX 2のインタビューでもお話ししたようなシステムで仕事をすれば、撮りながらレイアウトも平行して進めることが可能です。新たな仕事の仕方を提案することで、クライアントからは「あのフォトグラファーと組むとスムーズに仕事が進む」という評価が得られ、次の仕事にもつながるのです。
デジタルの利点を活かした新しいワークフローを、フォトグラファー側から提案していくことで、他との差別化ができるということですね。
ニコンユーザーの方は、腕もカメラも良いのに、そういったパフォーマンスが少ないように思います。このようなシステムをトータルで活用すれば仕事も早くなるし、クライアントの印象も強くなります。例えばPC-Eレンズを使用するときでも、決められたカットを事務的にこなすのではなく、可能であれば予定外の角度から撮ってあげたりする。すると、そのような思わぬ写真にデザイナーや編集者がインスパイヤされ、デザインにより良い展開が生まれる、などということもあります。そうした積み重ねが、信頼につながるのだと思います。
ニコンにはカメラ、レンズ、周辺機器、ソフトウエアと、組み合わせることで最高のパフォーマンスを発揮する商品群があります。特に「撮って出し」も可能とするD3Xが開発されたことで、これまで以上に「高い質」「速さ」「確実性」のある仕事を行えるようになりました。これは現在、他社ユーザーに対し大きなアドバンテージ。まさに今がニコンユーザーにとって、チャンスといえます。単体で使うことに加え、ぜひシステムとして活用することもおすすめします。
これからまだまだニコンのカメラは進化していくと思いますが、今後D3Xに期待することなどありますか?
ヘッドマウントディスプレーを備えたMEDIA PORT「UP300」との連携ができればと、常づね思っています。動物や昆虫、あるいはモータースポーツなどを撮影する人は、かなりローアングルで撮ることがありますよね。そんなとき、カメラとUP300をつなげて自然な体制で撮影、なんて大変便利ではありませんか。D3Xはハイビジョン出力に対応しているので、MEDIA PORT UPのハイビジョン化したディスプレーで被写体を確認できれば、シビアにピントをあわせることも可能になると思うのですが、いかがでしょう?さらに無線LANにも対応できるようになると、従来の表現を超えた撮影も可能になるのではないでしょうか?
それからRAWによるパノラマ合成に対応してほしいですね。PCレンズで撮影したゆがみのない画像同士を合成すれば、かなり自然な写真に仕上がると思います。なにより5000万画素超の写真も可能になるのですから。こちらのハードルはそれほど高くないと思うので、ぜひ期待したいところです。
他にも三脚使用時のブレ検出アラート、タル型や糸巻き型のゆがみ補正機能、ワイヤレストランスミッターの小型・省電力化、ワイヤレススピードライトコマンダーSU800のマニュアル光量を全段3分の1ステップ化など、周辺機器も含め要望はいろいろあります。
開発の方は大変ですね(笑)。
でもユーザーは遠慮せずに、メーカーに対し意見や要望を伝えるべきだと思います。発展途上のデジタルカメラには、開発者も想定していなかった新しい可能性がまだまだ秘められているはず。メーカーもユーザーの意見から気づかされることが、多々あるのではないでしょうか。
その点ニコンは、昔からそういったユーザーの声に、積極的に耳を傾けてくれました。銀塩時代、それこそプロサービスに相談に行くと、その場でカメラを加工してくれるようなこともあったくらいです。優れたカメラだけでなく、開発から対面サービスまでプロが安心して使える環境を提供してくれているという点も、私がニコンのカメラを使い続けている理由の一つです。そんなわけで、これからもどしどし意見を述べていきますので、どうぞよろしくお願いします(笑)。
主要各社がたどり着いた、2000万画素オーバー機という新たな領域。しかし他の2000万画素機とD3Xの本当の性能差は、「主なスペック」表記にはあらわれないところにありました。例えばEXSPEEDの倍率色収差補正。また、正確なピント合わせを可能にするガラスペンタプリズムの精度。そして本体の能力を引き出すために用意された最新レンズ群、など。
高画素化が進むほど、これまで以上に光学的なノウハウや技術力の差が顕著になるということを、あらためて実感するインタビューとなりました。
三浦 健司 みうら けんじ
1956年 北海道生まれ。
大手出版社・広告代理店・情報出版社等のフォトグラファーを経て1991年独立。エムツー代表。以後、広告から出版にいたる広い範囲で活躍。得意分野は伝統工芸、IT産業、最先端テクノロジー。作家活動は、1970年から桜を中心に日本各地の自然を撮り続ける。写真展やカメラ雑誌への掲載も多数。所蔵点数は約10万点。
デジタルカメラはニコンD1から。理由はフィニッシングソフト、Nikon Captureに「デジタル時代の未来を見たから」。以降、RAWモード撮影と、その現像テクニックの普及に勢力を注ぎ、「ニコン塾」や「PHOTO IMAGING EXPO」などでNikon Captureに関するセミナー講師を勤める。また、同時にCapture NXに関する執筆も多数こなす。日々「写真が楽しくなるフォトフィニッシング」を信条に、新たな画像調整テクニックを開発中。
主な英文出版物
講談社インターナショナル
1981 | The Genius of Japanse Design(日本の文様) |
1983 | SHIBORI(有松絞り) The Inventive Art of Japanese Shaped Resist Dyeing |
1984 | KOREAN FURNITUER(朝鮮の家具) Elegance and Trdition |
1984 | TANROKUBON(丹緑本) Rare Book of Seventeenth-Century Japan |
1985 | YOSHITISHI(芳年) |
1986 | UTAMARO(歌麻呂SHARAKU(写楽) |
ANA WINGSPAN ANA国際線機内誌(英語版)
1995 | 特集 Hardly a Pipe Dream(FAMILY ALBUM) 親子三代パイプ作り物語 |
2002 | 特集 Hokkaido The cheese Frontier 北海道・チーズの開拓者(半田ファーム) |
2003 | 特集 Almost a Dynasty (FAMILY ALBUM) 親子三代陶芸家 山本 出 |
2007 | 特集 CRYSTAL IN THE MOUNTAINS (ガラス工芸)月夜野ガラス |
2007 | 特集 JUST ART (Japanese Things)鹿児島・菖蒲園 |
2008 | 特集 HOT SPOT FOR POTS (Japanese Things) (陶芸/益子焼) |
IKEBANA INTERNATIONAL
2002-2003 | EMBROIDERED GARDENS OF FLOWERS |
2002-2003 | Photo essay Rain |
2003-2004 | Photo essay Sakura |
2003-2004 | Five Contemporare Japanese Potters |
2003-2004 | KUNIHARU The Cutting Edge of Technology |
2003-2004 | The Japanese Morning Glory |
2004-2005 | Coloes of Delight The Japanese Art of Paper Embellishment |
2004-2005 | Rozashi Needlework of Dreams |
2004-2005 | Photo essay Higanbana |
2004-2005 | Contemporary Japanese Art of Glass |
2004-2005 | Photo essay A Song of Antumn |
2005-2006 | Subtle Elegance |
2005-2006 | Silk Unraveled |
2006-2007 | Photo essay Water Landscapes |
2006-2007 | Life with Furoshiki |
2006-2007 | NINTH WORLD CONVENTION 2006 |
2005-2006 | Photo essay Mirrors of Life |
2005-2006 | Kumihimo A Creative Approach to japaanese Braiding |
2007-2008 | The flowers that bloom in the spring |
淡交社・Weatherhill Inc
1990 | The WAY OF THE CAROENTER(日本の大工道具) Tools And Japanese ARCHITECTER |
日本語
文化出版局
1995 | 北村光世著「ハーブさえあれば」表紙用カット撮影 |
2002 | 赤岩 保著「my made 表装」全カットデジタル撮影 |
2005 | 寺村裕子著「植物染料による絞り染め」全カット撮影 |
テレビ東京
1989~1991 | テレビ番組「極める」 人間国宝の方や伝統工芸保持者の撮影。 |
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