ブツ撮りから建築物まで、三浦氏推薦のプロ仕様レンズ群。
ところで、あらためてこちらのレンズについて教えていただけますか?
これらは先ほどもお話ししたように、「アオリ」撮影が可能なレンズです。最近、4×5フィルムでの撮影が少なくなってきました。4×5カメラは確かに高精細な写真が撮れますが、撮影にはどうしても時間とコストがかかってしまいます。その分クライアントも気軽に依頼できないのでしょう。そんな4×5カメラの替わりをしてくれるのが、D3XとPC-Eレンズの組み合わせ。4×5カメラといえば、高精細な商品写真や建築写真などに使用されていますが、D3Xを4×5カメラと同様の使い方をするにはゆがみを補正するレンズが必要になります。そこで開発されたのが、この3本のレンズというわけです。4×5カメラに比べると、いわゆる前板しか動かないような状態ではありますが、それでも通常のレンズに比べ4×5判に近い画は撮影できます。この3本のPC-Eレンズは、特にコマーシャル系の方々には強くおすすめしたいレンズです。
これらを持つことによって、一般的な被写体はほぼカバーできると言うわけですね。
そうです。ピントの浅い写真や逆アオリの写真などに使用する85mm、一般的な物を自然に撮りたい時に使用する45mm、手前から奥まで全ピンにして撮るときに使用する24mmというラインナップです。コマーシャル系の仕事をされる方は、皆さん2~3本はPCレンズをお持ちでしょうが、ニコン最新の技術を投入したこれらのレンズは有害光などを抑え、これまでとはひと味違う画を提供してくれることでしょう。
具体的な特徴などを教えていただけますか?
ではまた右の比較画像を見て下さい。
ここでも他社同等機種とD3Xを使い、ほぼ同等のレンズでレンズキャップを撮影してみました。
こうして見比べるとよくわかりますが、このニコンのレンズはマイクロ撮影も可能なため、近づいて撮れるのです。
例えばケーキなど、ピントの浅い写真を撮ろうとしたときに、中間リングなど使用しなくてもしっかりとピントの合った写真を撮ることができるというわけです。だいいち中間リングを使うと、アオリ効果が半減します。さらにクローズアップレンズを付けようものなら、激しく解像感が損なわれてしまいます。それでは中判カメラと同等に使うことはできませんよね。
通常撮影とティルト(アオリ)撮影
かなり自由度が違いますね。
そうなんです。次に見てほしいのが、24mmのレンズ。
これらの写真、並べてみるとパッと見、あまり変わらないように感じますが、よく見ると違いは明白です。今回使った他社のアオリレンズ、実は同社純正の現像ソフトに対応していないのです。つまり倍率色収差を十分に取り除くことはできません。ですからこの写真は、ソフトウェアメーカーのソフトで現像しました。D3Xの場合は撮ったときにカメラが自動的に倍率色収差を補正してくれるので、そのままでもきれいです。
中判デジタルカメラに対するアドバンテージ。
ところでD3から変更された点として、撮影感度がありますね。
そうです。メーカー発表ではD3の常用撮像感度はISO200~6400でしたが、D3XはISO100~ISO1600、減感・増感によりISO50~ISO6400相当となっています。
やはり2450万画素となると、部分的な描写力が気になるところ。特にブツ撮りなど、スタジオで浅いピントの撮影を行うことも想定して、低感度撮影も可能にしたようです。
実際どこまでの感度設定が実用範囲なのか、気になる方も多いと思いますが…。
では、いくつかの感度設定で見え方がどのように違うか見ていきましょう。
例えばこのような作例。ISO50でもコントラストのはっきりとした画像になっています。感度を上げた画像も比較してみます。こうして見比べてみると、D3Xでもノイズは発生しますが、ISO1600くらいまではほとんど気になりません。実質的にISO6400くらいまでは使える範囲と考えて良いでしょう。少なくともぶらすよりは、感度を上げて撮った方が良いと思います。
それから比較といえば、中判デジタルカメラとの画質の違いも気になります。
デジタルカメラバッグと撮り比べた画像も用意しました。もちろんセンサーの大きさが違うので単純に比較はできませんが、とりあえず絞りをF11に統一し、RAWで撮って生成しています。いかがでしょう?同じとは言いませんが、かなり健闘しているように思います。
デジタルカメラバッグは3000万画素ですから、特に拡大するとディテールのシャープさには差があります(A)。ですがデジタルカメラバッグの画作りがもともと先鋭感の高い画像ということも、その差の一因と思います。 実はD3Xのこの画像ですが、よりデジタルカメラバッグの画作りに近づけるため、通常設定する3倍ほどの数値のシャープネス補正を行っています。ご覧いただいてわかるように、それだけシャープネスをかけてもD3Xの画像は破綻していません(B)。強い補正にも耐えうるRAW画像を持っている。これも大きなポイントです。D3Xはデジタルカメラバッグの約3分の1の価格という差から考えても、コストパフォーマンスは高いと考えます。
ここまでのお話では、中判デジタルカメラに対しD3Xでも遜色ない印象ですね。
とはいえ、ぼけ味はやはりデジタルカメラバッグの方がきれいに出ます。撮像素子の大きさが違うこと、また35mmカメラは50mmが標準レンズであるのに対し6×4.5カメラは80mmが標準であることなど、物理的な違いからくる性能差を埋めるには限度があります。ただしナノクリスタルコートといったレンズのポテンシャルや、レンズの多様性という点において、D3Xも負けていません。ワンランク上のデジタルカメラの購入を検討する際でも、機動性やフレキシビリティ、加えて価格差なども考慮すると、D3Xは中判デジタルカメラの比較対象にも十分なりうると思います。
確かに中判デジタルカメラに対し、フレキシビリティは大きなアドバンテージですね。
D3Xは1台でスポーツ、ブツ撮り、料理まで、何にでも使えます。デジタルカメラバッグはパソコンと接続させながら使うことを前提としているようです。特定の用途だけで仕事をする人はよいでしょうが、大抵のフォトグラファーは様々な撮影をこなす必要がありますから。さらに撮って出しですぐに使える。仕事を早く進めるために、この点も大きなポイントです。
ちなみにこの105mmのレンズには、ナノクリスタルコートに加え手ぶれ防止機能がついています。これなら手持ち撮影も可能です。さらにこの撮影には、ニコンのSB-900というスピードライトを使用しました。SU-800というワイヤレススピードライトコマンダーと組み合わせることで、シャッターを押すだけで自動的に露出も合わせてくれます。ケーキなどのブツ撮りも手持ちのままどんどん撮影できます。撮影した画像は無線でパソコンに飛ばし、Capture NX2上でデザイナーやクライアントに確認してもらう。問題がなければそのまま使ってもらえます。このスピーディさは、中判カメラではまねできませんよね。