力強く見ごたえのある作品が集う
第68回ニッコールフォトコンテストの審査は、今まで経験したことのないコロナ禍の中で行いました。
応募期間は3月12日から7月7日でした。まさに、新型コロナウイル感染症の感染が拡大する中で、緊急事態宣言が4月7日に発令され、 5月25日に解除されたとはいえ、ずっと自粛期間が続いていた厳しい状況です。はたして、例年のようによい作品がたくさん応募されてくるのだろうかという不安が強くありました。が、蓋を開けてみるとどうでしょう、例年に勝るとも劣らない、素晴らしい作品が集まりました。ご応募の皆さま、ありがとうございます。
特に感じたことは、応募作品のプリントの美しさや、仕上げの丁寧さです。「プリント応募のみ」に徹して2年目ですが、今のようなリモートワークが推奨される状況では、Webでの応募が適切のように思えるかもしれません。ただ、写真作品はプリントまで含めて完成させるもの、という信念で決めたことでした。
皮肉にも、自粛のために、じっくりと自分と向き合い、時間をかけて作品と対峙することができたからかもしれません。写真のセレクト、用紙の選択、仕上げの作業に充分な時間をかけられたのではないでしょうか。それぞれの作品の深みや完成度の高さ、自信に満ちた表現にも、ハッキリとそれが表れているような気がしました。
第1部モノクロームのニッコール大賞、福岡育代さんの「母の刻(とき)」は、一見するとやや冷淡にも感じられる作品です。しかし、情を振り払って客観的に見つめようとする眼差しと、老いは避けられず明日は我が身かもしれないという思いと、いくつかの感情が混在した葛藤の中に、この上なく深い愛情と生きるチカラが表現されているように思います。また、応募票の「母に私は寄り添う覚悟を決めた」というコメントに心を打たれました。そして、栄えある長岡賞も受賞されました。
第2部カラーのニッコール大賞は、後藤安男さんの「日日の記2020.4−6」。自粛期間の不自由な行動制限がある中で、周囲を気遣いながら、近所の堤防を散歩する途中で生まれた作品です。そして、それは2020年を共に生きた夫婦の貴重な記録でもあるのです。
第3部ネイチャーのニッコール大賞は、峯田翔平さんの「神環」でした。石鎚山の頂きから超広角のレンズを駆使して、雪化粧した天狗岳を撮影した力作です。30歳の峯田さんは、U-31賞とのダブル受賞になりました。これから新しい風景写真でのご活躍を期待しています。
第4部TopEye&Kidsのニッコール大賞は、村松真帆さんの「爽快」。文字通りとても爽やかな作品で、青い色調が青春を感じさせます。キラリと光る才能の更なる芽生えと開花を楽しみにしています。
上位作品はもとより、入賞作品のすべてが力強く、見応えがありました。作者それぞれの思いの深さや率直さ、情熱、そして、生きる喜びやチカラを強く感じます。また、審査をする中で、自己をしっかりと見つめることは、結果として、逆に、俯瞰して大きな視野でモノを見ること、洞察力を持って注意深く見据えることに繋がる、ということに気づかされました。このような状況下で、価値観やモノの見え方が変わったのかもしれませんが、今まで出会ったことがないような、素晴らしい作品の数々に出会えたことを感謝いたします。
来年も今年以上の作品を期待していますので、ぜひご応募ください。
ニッコールクラブ顧問 | 大西 みつぐ、小林 紀晴、佐藤 倫子、ハナブサ・リュウ、三好 和義 |
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ゲスト審査員 |
(株)風景写真出版代表 石川 薫 写真家 藤岡 亜弥 |