撮影・解説:山野 泰照
タイムラプスムービーによる表現の新しい可能性
これまでタイムラプスムービーは、撮影機材の進化だけではなく、撮影者のインターバルタイマー撮影における工夫とポストプロダクションの画像処理や編集の工夫によって、表現の幅が広がってきました。それでもまだ、難しいテーマがあります。特に、撮影を開始した後に、明るさや色が大きく変化するような場合は、あらかじめ適切な設定を、自信をもって決めることができないからです。
そういう難しい被写体の例として、夕方から夜になり満天の星空が見えてくるまでのタイムラプスムービーにチャレンジしてみました。
夕方から夜、満天の星空までを撮る
日が暮れてから撮影を開始し、次第に暗くなって最後は満天の星空になるまでの過程を、D850に搭載されている機能を駆使して撮影することを試みました。
撮影機材
今回の目的に対して大切なのはレンズの選択です。暗い星をしっかり捉えるには、撮影間隔の中で実現できる露出時間、画質の面で許容できるISO感度の制御上限感度を前提にして、必要なレンズの開放F値が求まります。
露出時間は、露出中に画面上で星の動きがほぼ認められない露出時間として5秒程度、ISO感度は高感度でのノイズの増加を考えるとできるだけ感度は上げたくありません。そうなると必然的に開放F値が明るくて、しかも絞り開放でも安心して使える性能のレンズということになり、画角面でも選択肢に入るのならF値が1.4のレンズ群の中から選択したいところです。今回は新しくて性能で評価が高いAF-S
NIKKOR 28mm f/1.4E EDを選択しました。
カメラの設定
タイムラプスムービーのための撮影においてカメラの設定で難しいのは、撮影開始時には予測できない明るさや色の変化にどのように対応するかということです。
今回は、夕方から夜になり星が出てくるまでの明るさの変化に対してずっと適正露出で撮影したいので自動露出で、さらに空が暗くなったときにより暗い星まで写るように絞りは開放固定で撮影できる絞り優先オートを選択しました。絞り優先オートでは、制御できる長い方の露出時間が撮影間隔で制限されますから、ISO感度も変化させて対応できるようにしておくと、明るさに対応できる範囲が広くなります。今回は、ISO感度設定を64とし、感度自動制御をON、制御上限感度は
1SO 25600にしました。ISO感度は、本当ならISO 6400程度までで止めておきたいところですが、今回はD850の高感度の画質がどうなのか、またどこまで暗い星が写るのかを確認する目的もあって制御上限感度を25600にしました。低速限界設定は5秒にすることで、被写体の明るさが次第に暗くなるにつれ、まず露出時間が長くなり、それが5秒になれば、次は感度がISO
64からISO 25600までの範囲で上昇して、暗い被写体でも適正露出にしようしてくれるという設定です。
《図1》ISO感度はISO64のままで、露出時間が変化して適正露出にしています。
《図2》露出時間は低速度限界の5秒のままで、ISO感度が上昇することで適正露出にしようとしています。
《図3》低速度限界5秒、ISO感度は感度自動制御が働いて9000まで上がり、夜の星空を安定的にとらえることができました。
見せるための最適条件をさぐる
タイムラプスムービーの楽しいところでもあり、難しいのは、被写体がいろいろ変化した時にどう仕上げれば最も快適に、また美しくみえるかということです。
たとえば星空の場合、1枚1枚の撮影間隔が長ければ、タイムラプスムービーに仕上げた時にあっという間に星が流れてしまい、ゆったり感がないどころか落ち着きのないものになってしまいます。また色に関しては、夕方の空としての魅力的な色、夜の空として相応しい色が違うなど、どうすれば見栄えのする作品になるかというあたりは、答えが決まっている訳ではありません。撮影間隔の方は、経験から時間の圧縮がどの程度なら心地よいかが分かりますから、撮影前に自信を持って設定することができますが、特に色に関しては撮影を開始したあとにどのように変化するか分からないため、撮影後のRAW現像処理などの編集段階で最適化するのが一番安全なようです。
まずは一番編集耐性の高いRAW画像で、適正露出を狙って記録しておいて、RAW現像する段階で調整し、後でムービーにするという算段です。 今回の色に関しては、RAW現像の段階でオートホワイトバランスにしてみたり色温度設定を変えてみるなど何回かトライアンドエラーをした後、最後に見えてくる天の川を最も印象的に見せたいという狙いから、4170Kという色温度を選択しました。4170Kだと、夕暮れのシーンで現実とはかなり違う色になるのですが、それはそれで幻想的なイメージになることを確認し、全体を4170Kで統一することにしました。ボディ内でのRAW現像の一括処理により、負荷の大きかったRAW現像処理が快適にできるようになったことが、これまで躊躇していたトライアンドエラーを可能にしてくれたことには大変感謝しなければなりません。
おわりに
ここまで示したものは、D850の新たに搭載された機能を駆使して撮影し、カメラ内のRAW現像機能を効果的に使い、多くの方に使われているPhotoshopを用いて動画化したひとつの事例です。同じRAW画像という素材からでも、RAW現像やその後の編集作業で全く違うイメージの作品に仕上げることも可能です。
表現の工夫として代表的なのは、星の動きをもっと早くする/遅くする/変化させる、明るさを明るくする/暗くする/変化させる、色温度を高くする/低くする/変化させる、というような話です。特に途中で変化させるというのは、RAW現像の段階や編集の段階で使われる動画編集ソフトやタイムラプス作成用の専用ソフトの得意な分野です。タイムラプスムービーでさらに高度な表現を望まれる方は、そういう多機能なソフトをいろいろ調べてみると良いでしょう。
最後になりましたが、もう一度撮影の話をしておきましょう。 今回は、最も簡単で一般的なタイムラプスムービーの作り方ということで、撮影機材として三脚1本を使うだけの撮影を紹介しましたが、世の中にはタイムラプスムービー向けのインターバルタイマー撮影中にカメラの位置を移動するためのドーリーや、カメラを回転させるローテーターという撮影支援機材があります。いずれも、最終的にタイムラプスムービーにした時に自然なスピードによるように、極めてゆっくり動作させるための機材です。
画面の中で動きをつけたい場合、ズームやパン、チルトは、記録画素数に余裕があれば、編集時にそういう効果をつけることが可能ですが、視点移動は撮影時に行うしかありません。したがって、タイムラプスムービーを用いた表現目的に対して、編集時に対応できる効果なのか、撮影時の工夫としてやっておかなければならない効果なのかを判断しながら撮影計画を立てることになります。
その前提として、編集時にどういう効果をつけることができるかは、所有しているパソコンの能力と、ソフトウェアの機能、使いこなすスキルに依存していますし、撮影時につける効果についてはドーリーやローテーターというような機材を用意できるかだけでなく、撮影前に適切な設定ができるかということも重要になってきます。
簡単に始めることができ高画質な動画を楽しめるタイムラプスムービー、一方では表現の自由度が大きいだけにどこまでも奥が深いという楽しみがあります。そういうタイムラプスムービーの世界をぜひ経験して頂きたいと思います。
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目的に応じた設定と動画化