解説:山野 泰照
フォーカスシフト機能でできることと楽しみ方
フォーカスシフト機能
D850に搭載されたフォーカスシフト機能は、主に深度合成用の素材を得るのに便利な機能です。
深度合成とは、複数枚の画像からピントの合っている領域だけを選択しながら合成することにより被写界深度の深い画像を得る手段で、これまで深度合成をするのに必要な専用のソフトはありましたが、難しいのは高画質の適切な素材を得ることでした。
具体的には、ピント位置をわずかずつ一定量変化させながら撮影するのが難しかったのです。一定量ピント位置を変化させることも難しいですが、一連の撮影を素早く行わないと光線条件が変化するなど、素材として適切なものにはならない可能性があるというようなこともありました。そういう課題を解決するためにD850に搭載されたフォーカスシフト機能は、ピント位置を一定量変化させながら、所定の枚数を連続的に撮影する機能ということになります。
深度合成
深度合成というと、「そんな手間のかかることをしなくても、レンズの絞りをしっかり絞ればいいんじゃないの?」という質問が飛んできそうですが、実はそう簡単ではないのです。FXフォーマットカメラのような大きい撮像素子の場合、小型の撮像素子と比べると、同じ画角を得るための焦点距離のレンズを用いて同じ絞り値で撮影した場合、大きい素子の方が深度が浅くなりますから浅い深度表現には得意ということが言えますが、深い深度を確保しようと思えばぐっと絞らなければなりません。一方、絞りを絞り込めば深度は深くなりますが、回折現象により像がぼやけてしまいます。
そういう状況の中で、絞りをあまり絞らずに高い解像感を維持したまま深い深度を得るための方法が深度合成です。 プリントサイズがB0以上の大プリントにおいて高い解像度でかつ深い深度表現ができると、深度合成写真で代表的な昆虫などの高精細写真だけでなく、コマーシャルフォト、また大判プリントで作品発表をしたいと考えている風景写真家のみなさんに喜んで頂ける機能と思います。
設定の仕方1
総論フォーカスシフト撮影は、静止画撮影メニューから入り、必要な項目を設定します。設定項目には、[撮影回数]、[フォーカスステップ幅]、[待機時間]、[露出平滑化]、[サイレント撮影]、[撮影開始時の記録フォルダー]([新規フォルダー作成]、[ファイル番号リセット])がありますが、深度合成の結果に大きく影響を及ぼすのは、[フォーカスステップ幅]と[撮影回数]です。それとメニューの項目にはありませんが、絞り値と撮影開始時のピント位置です。以下、順を追って説明していきましょう。
絞り値
一枚の撮影で深い深度を確保することは考えなくて良いですから、ここではできるだけ一枚一枚解像度、解像感の高い画像を得るための絞り値を考えると良いでしょう。具体的には、レンズが最高の性能を発揮する絞り値を考えるということになります。回折現象に着目するとその影響を最小にしたければ開放絞りということになりますが、実際には、レンズの特性を考えながら画面周辺までの画質も考慮して、開放から2~3段絞り、f/2.8~f/8あたりというのが一般的でしょう。
撮影開始のピント位置
フォーカスシフト撮影では、撮影開始時のピント位置から無限遠方向に向かって連続して自動撮影が行われます。ですので、撮影開始時のピント位置は、深度内に収めたい被写体の最近接の部分かそれよりも近いところに設定しておきます。
私は、画面内の最近の被写体位置でピント合わせをしたあと、少し近距離側にピントをずらして撮影を開始するようにしています。
フォーカスステップ幅
[フォーカスステップ幅]は、1から10までの10段階で設定できます。フォーカスステップ幅の数値によって一定のピント移動量が決まるのではなく、レンズの焦点距離や設定した絞り値などさまざまなレンズ情報を用いてカメラがピント移動量を計算してくれますから、何度か経験しながら決めていくのが良いでしょう。
フォーカスステップ幅の設定で失敗するとしたら、大きな数値を設定してしまうことによって、深度合成した時にピントの合っていない領域ができてしまうことです。それを防ぐためにはフォーカスステップ幅は5以下を選択しておくと安全なようです。
撮影はいたって簡単なので、撮影枚数が増えることをためらう必要はありませんから、私は大判プリントの作品を作りたい時などは2あるいは3に設定して撮影することが多いです。
撮影回数
[撮影回数]は、1から300枚の間で設定できます。経験から言えば、上述したように絞り値をf/5.6位、フォーカスステップ幅が2~3位に設定した時に、被写体が昆虫など小さいものでマクロ撮影をするような場合には、深度をカバーするためには100枚以上の撮影が必要になることが多いです。一方、手前から遠くの風景までをカバーしたい場合には、特にレンズが広角レンズの場合には、1枚ずつの深度が深いこともあり、数枚で十分な場合もあります。
D850のカメラのフォーカスシフト撮影では、撮影を開始してピント位置が次第に遠方に移り、無限遠に達したらそこで自動的に撮影を終了するという機能が付いているため、無限遠に行きついても撮影が続くというような無駄なコマがたくさんできてしまうということはありません。また撮影前に、レンズの焦点距離やフォーカスステップ幅から「最低何枚撮影しておけば良いか」がなかなか判断しづらいため、多めに撮影しておいて、深度合成する段階で「合成に使うコマを選択する」という考え方をしておくと撮影の現場で悩まなくて済みます。
設定の仕方2
その他(待機時間、露出平滑化、サイレント撮影、撮影開始時の記録フォルダー)まず[待機時間]は基本的には0で良いでしょう。0にしておけば、撮影後、すぐに次の撮影に入りますから、一連のフォーカスシフト撮影が最も短い時間で終了するからです。0以外に設定しなければならないのは、すべてフラッシュ撮影をする場合、十分に充電時間を確保しなければならないなど、強制的に一定の時間を空けなければならないときです。それ以外は0と考えておけば良いでしょう。
[露出平滑化]は、撮影中に生じるかもしれない被写体の明るさの変化に対して露出レベルをスムーズに追随させるための機能ですが、深度合成のための素材撮りは光源などの撮影環境が変わらないようできるだけ短時間で終えるようにしたいものです。普通はカメラの初期設定であるOFFで良いですが、光線条件が変化するような状況下で撮影しなければならない場合にはONにすると良いでしょう。
フォーカスシフト撮影の場合は、被写体は静止物でカメラは三脚に固定されている場合が多いでしょうから、メカシャッターを用いた通常撮影でもサイレント撮影でも良いです。私は、積極的に音を出した撮影が必要な場合以外は、カメラのミラーやシャッターなどのメカ機構の耐久性を心配しなくても良いという背景もあり基本的には[サイレント撮影]を選択しています。
[撮影開始時の記録フォルダー]では、[新規フォルダー作成]と[ファイル番号リセット]を選択することができます。記録される画像ファイルは、一連のフォーカスシフト撮影毎にまとまっていると撮影後の深度合成処理がやりやすいですから、新規フォルダー作成はONにし、ファイル番号も1から始まるようにしておけば良いでしょう。
後編の「フォーカスシフト撮影2 深度合成処理」に続きます。