「単焦点レンズ」は、言葉通り“単”=“ただ1つ”の焦点距離しか持たないレンズです。焦点距離は、撮影画像の画角(撮影範囲)に影響する数値です。焦点距離の数値が小さいほど画角が広くなり、数値が大きいほど画角が狭くなります。ズームレンズならある一定の幅で焦点距離を選択できるのに、なぜわざわざ焦点距離をひとつだけしか持たないレンズがあるのでしょうか?
Lesson2ではそんな単焦点レンズの特長をご紹介していきます。知れば知るほど一度は使ってみたくなるレンズになるかもしれません。
単焦点レンズの大きな特長を1つだけあげるとするならば、これしかないでしょう。
「明るいレンズが多い」
“レンズが明るい”とはどういうことで、何がメリットなのでしょうか? 順に説明していきましょう。
カメラはカメラの中に光を取り込むことで、レンズで捉えた情報を像として写し出しています。取り込む光の量は、レンズの中にある「絞り」を大きくしたり小さくしたりして調節することができ、この絞り具合を数値化したものを「絞り値(F値)」といいます。
レンズの明るさを知るためには、そのレンズの「開放絞り値(開放F値・最大絞り)」がいくつになっているかを見ればわかります。この値はレンズ名の中に隠されています。
たとえば「AF-S NIKKOR 50mm f/1.4G」という単焦点レンズでは、“f/1.4G”という部分が開放絞り値を示しています。この数値が小さければ小さいほど多くの光をレンズに取りこむことができる=明るいレンズとなり、単焦点レンズはこの数値が小さいものが多いのです。
また「AF-S NIKKOR 24-85mm f/3.5-4.5G ED VR」というズームレンズのように、焦点距離に応じて“f/3.5-4.5G”の間で開放絞り値が変化するレンズもあります。
“明るい”“単焦点レンズ”には、2つの大きなメリットがあります。
ピントの合った被写体が印象的に浮き上がり、その周辺がふんわり美しくボケた写真。一眼レフカメラを手にしたら誰もが一度は撮ってみたくなる写真ではないでしょうか。ボケた写真を撮るにはレンズの絞り値を小さくして撮る必要があります。開放絞り値が小さい単焦点レンズであれば、それだけ大きくボケた写真を撮ることができるのです。ポートレートやテーブルフォトを始め、ボケを活かす作品は写真表現の幅をぐんと広げてくれます。
『レンズの絞り値を小さくすることでより大きくボケた写真を撮ることができる』。それは一体どういうことなのでしょうか? まずは、こちらの作例をご覧ください。
これは「Beach」というアルファベットの置物と灯台の置物を同じレンズで同じ位置から撮影した写真です。4枚の写真を比べるとAは奥の方まで見えていますが、B、C、Dになるにつれ奥の方からだんだんとボケていくのが分かります。レンズも撮影位置も同じなのになぜボケ方が変わるのか、それは絞り値を変えているからです。
上の4枚の写真について、絞り値とピントの関係をあらわしたイメージ図をみてみましょう。
絞り値は「F16」「F8」「F2」などFといくつかの数値で表示されます。絞り値が大きいほどピントの合う範囲が広くシャープな写真に、逆に絞り値が小さいほどピントの合う範囲が狭く、大きくボケる写真になります。
なお、ピントの合っている範囲のことを「被写界深度」と呼びます。ピントの合う範囲が狭いことを「被写界深度が浅い」といい、ピントの合う範囲が広いことを「被写界深度が深い」といいます。
ここまでの説明を踏まえた上で、下の写真を見てみましょう。
これは単焦点レンズ「AF-S NIKKOR 50mm f/1.8G」と標準ズームレンズ「AF-S NIKKOR 24-85mm f/3.5-4.5G ED VR」を使い、開放絞り値で同じ場所を撮影したものです。
単焦点レンズの開放絞り値はf/1.8、対して標準ズームレンズの開放絞り値はこのときf/4.2でした。比べてみれば、開放絞り値の小さい明るいレンズほどより大きくボケるということがわかります。
光を取り込むことで像を写し出すことができるカメラ。明るいレンズは多くの光を取り込めるため「シャッタースピード」がより速く設定でき、また「ISO感度」を必要以上に上げずに済むなどさまざまな利点があります。
シャッタースピードが速くなれば、それだけ被写体の速い動きを捉えやすくなります。また光が届きにくい室内や暗めの場所でも、手持ち撮影で手ブレしにくくなったりISO感度を上げずにキレイに撮ることができたりと、明るいレンズは撮影の自由度を上げることができるのです。
開放絞り値の違うレンズで写り方の違いを比べてみましょう。単焦点レンズとズームレンズを使って夜景を手持ち撮影しました。手ブレを防ぐためISO感度を上げ、1/30秒のシャッタースピードを確保しています。
単焦点レンズは絞り値を開放絞り値のf/3.5に設定し、ISO感度を3200まで上げて撮影しました。対してズームレンズの開放絞り値はこのときf/4.2だったため、シャッタースピードを確保するのにISO感度を6400まで上げています。ISO感度を上げるとシャッタースピードは速く設定できるのですが、上げすぎると画質に影響が出る場合があります。明るいレンズはレンズ自体が光をより多く取り込めるのでISO感度を上げすぎることなくより滑らかな画質で撮影することができるのです。
いかがでしたでしょうか。明るいレンズのメリットを知り、それを活かした作品を撮ってみると表現の違いに驚かされることも多いはずです。
ひとつの焦点距離しか持たない単焦点レンズは、ひとつの写り方を追求しているレンズであるともいえます。そのためよりきめ細かくシャープに撮れたり、ボケもふんわりと美しく撮れたりと、単焦点レンズは描写力に優れたレンズだといわれているのです。
またレンズの収差(写真の周辺に出る写りのゆがみ)が少ないのも特長で、広角レンズで撮った写真でも周辺までよりくっきり、キレイに写すことができます。単焦点レンズはよりこだわった画づくりをしたい人におすすめのレンズといえるでしょう。
単焦点レンズは写真の上達に一役買うといわれています。実際、写真の基礎勉強として単焦点レンズを使うという方も多くいるようです。他のレンズと何か違いがあるのでしょうか?
ズームレンズは焦点距離に幅があるため、その場から動かなくても寄ったり引いたり構図を変えて撮ることができます。一方、単焦点レンズは構図を変えたいと思ったら自分が動かなければなりません。実はそこに、写真を上達させる上で大切な“2つのスキル”を身につけるためのヒントが隠されているのです。
焦点距離がひとつだけの単焦点レンズは、その場で焦点距離が変えられるズームレンズとは異なり画角(撮影できる範囲)がひとつに限られます。そのため、選んだ被写体に寄ったり引きで周りも写し込んだりしたいと思ったら、そのひとつの画角の中で"撮りたい構図"を探し考えながら撮るようになります。つまり、そのレンズ(焦点距離)が持っている「被写体との最適な距離感」を、自分の目と身体で自然と覚えられるようになるのです。
この感覚は、写真を撮るための大切な基礎力となります。被写体との最適な距離感がつかめるようになると、被写体を見つけたときに撮りたいイメージに合わせてどのレンズでどの位置から撮影すればよいかが分かるようになるため、より自分の思い描いた画が撮れるようになっていきます。
また、被写体に近づいたり離れたりと自分が動くことで自然と構図への意識も高まります。被写体を中心に作品の全体まで配慮しながら撮影された作品は、何も意識しないままに撮られた作品に比べそのクオリティに差が出てくるものです。
単焦点レンズはズームができない分「このレンズ(焦点距離)でどう切り取ろうか」と考えるため、被写体を注意深く見るようになります。それは、その被写体を理解し、どう撮るのがベストなのかを考えることにつながるのです。被写体を理解した上で撮った写真は、ただ漠然と撮られたものと比べればやはり、よりクオリティの高い写真になっていることでしょう。
単焦点レンズは、撮影者に「どう撮ろう」という思考を与えてくれるレンズです。自分の写真を変えたい、もっとうまくなりたいと思ったら、「その場からただズームして撮ってみる」という習慣を単焦点レンズで変えてみてはいかがでしょうか。きっともっと、写真が楽しくなるはずです。