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Lesson20:モノクローム写真のカメラ設定と撮影のコツ

色のない世界で写真を表現するモノクローム写真。今回は、モノクローム写真の基礎知識から撮影のコツ、さらにフィルターやコントラスト調整などのカメラ設定についてもご紹介します。モノクローム写真にチャレンジしてみたいという方はもちろん、どうやってモノクローム写真を仕上げていくのかを知りたい、自身のモノクローム作品をもうワンランクレベルアップさせたいという方も必見です。

※ 今回は「Z 7II」を例に説明を行います。その他のカメラでは設定方法が異なる場合がありますので、詳細は各カメラのマニュアルをご確認ください。

撮影監修:斎藤勝則

1.モノクローム写真を撮るコツ

モノクローム写真の基礎知識

モノクローム写真とは?

「モノクローム」は「単色」という意味を持ちます。一般的に白黒写真と同様の意味合いで使われますが、厳密には白黒だけでなく、セピアやブルー、レッドなども含めた1色のみの濃淡、階調で表現された写真のことをモノクローム写真と呼びます。
目の前のカラフルな世界が色を失い、光と影が強調された単色の世界に変換される。カッコいい、レトロ、プロっぽい写真だと感じる方もいるかもしれません。
たしかに、プロフォトグラファーや写真歴が長い方にはモノクロームにこだわって作品づくりをされる方も多くいらっしゃいますが、実は、モノクロームは写真の実力を磨くのにもいい影響を与えてくれる、初心者にもおすすめの撮影方法なのです。

モノクローム写真で写真技術を磨く

その被写体がどんなものなのかを読み解くとき、色はとても重要な情報源となります。たとえば美しい夕暮れの空を写した写真、それがどんな色なのかはモノクローム写真では想像するしかありません。カラフルなシロップがかかったかき氷も、それが何味なのかは色がないと判断できないでしょう。被写体から色の要素が取り除かれるということは、形や陰影のみでその被写体の魅力を伝えなければならない。夕暮れの色がわからなくても、何味のかき氷かはわからなくても、その被写体を魅力的に写すことが大切になるわけです。

夕暮れ時、波打ち際の一部分を切り取った写真。夕日が海面を美しく染め上げている様子がうかがえます

色がなくなることにより「夕景である」という情報が抜け落ち、「打ち寄せる波を切り取った写真」になります

さらに言い換えると、ただ何となくシャッターを切るのではなく、その被写体の魅力を伝えるためにどう切り取ればいいのか、しっかり見極めて撮影しなければならないということです。結果、撮りたいものや伝えたいことを写真で表現する、という写真表現の本質部分を鍛えることができるのです。

魅力的なモノクローム写真を撮るコツ

では、被写体の魅力をモノクローム写真で伝えるためにはどんなところに意識を向ければよいのでしょうか。そのコツやポイントを説明します。

光の明暗差を意識する

モノクローム写真は白から黒の階調で表現されますが、その濃淡を作っているのは光です。光が強く当たるほど白く、弱まるほど黒く写ります。光の強弱で像を映し出しているわけですから、明暗差のある被写体を狙ったほうが立体感のある、メリハリあるモノクローム写真に仕上がります。逆に光の強弱があまりない被写体を撮影する場合には被写体をどう魅力的に見せるか、構図やカメラ設定など撮りかたに工夫が必要です。
一般的に、順光や逆光よりも斜光のシチュエーションの方が被写体の立体感が出て、また美しい階調を生み出すこともできるので初心者の方にはおすすめです。

色に惑わされず、形、ハイライト部分を意識する

目で見ている世界はカラーですので、どうしても色に引っ張られて構図を決めてしまいがちです。次の花の写真を比較してみましょう。

緑の葉の中に咲く鮮やかなピンクのサザンカ。カラー写真では花が主役の被写体としてしっかり目立っているように見えます

モノクロームになると花の立体感が消え、背景の明るい部分にも目線が動いてしまうため花が主役として目立たなくなります

では、同じ花を別角度から撮影してみましょう。花の周辺部分の背景は暗く、花の形もしっかりわかる位置から狙っています

モノクロームになっても花にスッと目がいきます。撮りたい被写体がちゃんと主役になって写っています

モノクロームに置き換えてもしっかり主役を目立たせるためには、色ではなく形を捉えること(形がより伝わるアングルを探すこと)、またモノクローム写真は一番明るい部分(ハイライト部分)に目が向きやすくなりますので、構図内の明るく写る部分が主役を邪魔しないかどうかを見ることも大切です。

モノクローム写真を撮るには?

デジタルカメラでモノクローム写真を撮るには2つの方法があります

1.[ピクチャーコントロール]→[モノクローム]で撮影する

写真の仕上がりを自分好みに設定できる、モノクロームの基本の撮影方法です。

メニュー画面からタブを選ぶと、[静止画撮影メニュー]が表示されます。[ピクチャーコントロール]から[モノクローム]を選択することでモノクローム撮影ができます

[モノクローム]を選んだ状態でマルチセレクターの▶を押すと[コントラスト]や[フィルター効果]など好みに合わせて写真の仕上がりの設定ができます

2.[ピクチャーコントロール]→[クリエイティブピクチャーコントロール]で撮影する

あらかじめ仕上がりのテイスト、イメージが作りこまれた[クリエイティブピクチャーコントロール]の中からモノクローム撮影できるモードを選んで撮影することもできます。

[クリエイティブピクチャーコントロール]は同じく[ピクチャーコントロール]の画面から、その下部に項目が並んでいます

[チャコール/グラファイト/バイナリー/カーボン]から好みのモードを選択することでモノクローム撮影ができます。ぞれぞれ[適用度]で効果の効かせ具合を調整することができます

[ピクチャーコントロール]、[クリエイティブピクチャーコントロール]についての詳細はこちら

2.自分好みに仕上げるカメラ設定

ここからは、モノクローム写真をより自分好みに仕上げるためのカメラ設定について説明します。

どんな調整ができるの?

[モノクローム]の設定では、さらに以下の項目について写真の仕上がり調整を行うことができます。

[クイックシャープ]画像のシャープさを調整する[輪郭強調]、[ミドルレンジシャープ]、[明瞭度]の各項目をバランスよく調整します。各項目を個別に調整することも可能です。
[輪郭強調]画像の精緻な部分や、被写体の輪郭部分のシャープさを調整します。
[ミドルレンジシャープ][輪郭強調]と[明瞭度]の中間の細かさの模様や線に対してシャープさを調整します。
[明瞭度]画像の階調や明るさを維持しながら、画像全体や太めの線のシャープさを調整します。
[コントラスト]画像のコントラストを調整できます。
[明るさ]白とびや黒つぶれを抑えながら画像の明るさを調整します。
[フィルター効果]白黒写真用カラーフィルターを使って撮影したときのような効果が得られます。
[調色]印画紙を調色したときのように、画像全体の色調を調整します。

この中でモノクローム写真の仕上がりイメージを大きく変えるのは[明瞭度][コントラスト][フィルター効果]の3項目です。これらの特徴をつかみながら、被写体に応じて設定を変えることがモノクローム写真を自分好みに仕上げていくコツとなります。

明瞭度

[明瞭度]は画像内の明るい部分(ハイライト)と暗い部分(シャドー)の階調を損なうことなく画像をくっきりシャープにしたり、逆にふんわりとソフトにしたりすることができます。

カラー写真

[明瞭度]を-3.0に設定

[明瞭度]0に設定

[明瞭度]+3.0に設定

設定値がマイナスになるほどふんわり、プラスになるほど固い印象になります。作例のようなポートレートの場合、一般的には肌をふんわりと見せるため[明瞭度]をマイナスにする方が効果的だとされています。逆にプラスにすると、顔の凹凸、陰影が目立ってきます。

コントラスト

コントラストのかけかたによって、被写体の形がしっかりと見え引き締まったような画づくりを行うことができます。

カラー写真

[コントラスト]を-3.0に設定

[コントラスト]0に設定

[コントラスト]+3.0に設定

コントラストを弱めると黒くつぶれ気味だったシャドー部が明るく持ち上がり、ビルの窓や奥に向かって立ち並ぶ木々の様子など細部まで伝わります。コントラストを強めると陰影が濃くなり建物は立体的に、全体に引き締まった印象になります。好みに応じてどれくらい調整をかけるかを見極めるのがコツです。

フィルター効果

被写体内の特定の色の明暗を変えたい、写真全体のコントラストを変えたいというときに使用するのが[フィルター効果]です。フィルムカメラでモノクローム写真を撮影する際に使われている白黒写真用の「カラーフィルター」を模したもので、以下の4種類があります。

[Y](黄)コントラストを強調する効果があり、[Y]→[O]→[R]の順にコントラストが強くなります。青の部分を暗く写すため、風景撮影で空の明るさを抑えたい場合などにも使用されます。また同系色(暖色系)の色味を明るく写します。
[O](オレンジ)
[R](赤)
[G](緑)緑の部分を明るく、赤の部分を暗くするため、風景写真で緑が暗くつぶれないよう仕上げたり、ポートレートで肌の色や唇などを落ち着いた感じに仕上げたりする際に使用します。

カラー写真

[フィルター効果]をOFFに設定

[フィルター効果]を[Y](黄)に設定

[フィルター効果]を[O](オレンジ)に設定

[フィルター効果]を[R](赤)に設定

[フィルター効果]を[G](緑)に設定

コントラストが変わるだけでなくリンゴやチェリーなどの赤い果物、ブドウやイチゴの葉の緑の部分、お皿の青い部分など、フィルターによって特定の色の部分の明暗が違って写っているのがわかります。

モノクローム撮影におけるカメラ設定のポイント

ホワイトバランスを確認しておく

モノクローム写真では[ホワイトバランス]を何に設定しているかでも、仕上がりイメージが大きく変わります。事前にホワイトバランスをどれにするのか確認しておいてから撮影に臨むのがおすすめです。

カラー写真

[ホワイトバランス]を晴天に設定

[ホワイトバランス]を晴天日陰に設定

[ホワイトバランス]を電球に設定

露出補正とアクティブD‐ライティング

「露出補正」や[アクティブD‐ライティング]は写真の明るさに関わる設定ですので、もちろんモノクローム写真の仕上がりにも影響します。ただしこの設定に関してはモノクロームだからということはなく、通常の撮影同様、撮ってみて「暗いから露出をプラス補正しよう」「逆光シーンで明暗差があるから[アクティブD‐ライティング]をかけよう」というように、撮影状況に応じて設定変更していくとよいでしょう。

逆光のシーン。窓の部分の明るさに対し、顔の部分が暗くなってしまっています

[アクティブD‐ライティング]を強めに設定。顔の部分が明るくなりました

RAW画像で撮影しておく

モノクローム撮影は、RAW画像で保存し撮影するのがおすすめです。RAW現像できるということは、フィルムカメラでいう暗室作業ができるということです。撮影後にじっくり作品に向き合いながら写真を仕上げるのも、モノクローム写真の楽しみのひとつです。

Lesson5:JPEGとRAWの違い

Lesson17:撮った写真をカメラで編集してみよう

3.モノクローム作例

最後に、モノクロームで撮影する際のポイントを交えながらいくつか作例をご紹介します。

ポートレート

ポートレートは顔にどのような光があたっているかを見極めて撮るのがポイント。強い光の場合は変な影が顔に落ちていないか、逆にやわらかな光の場合は立体感のないぼんやりした印象にならないか、光の向きを読んで撮影します。こちらは曇りの日の室内撮影でさほど光も強くなかったため露出を+0.7補正しつつ、ミドルレンジシャープを+1.00に、明瞭度を-3.00に設定。バランスを見ながら肌の質感を整えています。背景にグラフィカルなポスターを入れていますがモノクロームの効果によりうるさくなく、クールな表情によく合っています。

光と影を意識したスナップ

色の情報がない分、モノクローム写真では光と影がより印象的に表現されます。このように照明から落ちる人工的な光も、強い太陽光に照らされ道路に落ちた木々の影などもメインの被写体として魅力的に映ります。光源となる部分、落ちる影にも目を向け主役として捉えてみましょう。

質感を活かしたスナップ

被写体の質感が強調され、より印象的に映し出すことができるのもモノクローム写真の特長です。特に金属、コンクリート、アスファルトなど無機質な物はモノクローム写真と相性が良くカッコよく写り、また木片のザラザラ感、布などの繊維感、ふわふわした綿など表面に凹凸がある素材も白から黒の階調で繊細に表現します。順光ではなく、斜光、逆光、半逆光の光の方がより質感を際立たせてくれます。

調色でレトロな趣を出す

[調色]を変更すると、写真全体の色調を変えることができます。こちらの作例は[Sepia]に設定、古い写真のような趣ある仕上がりになりました。

高感度のザラつきも味になる

ISO感度:100

ISO感度:12800

夜間や室内などの光量が少ないシーンで手持ち撮影をしなければならない場合には、思い切って感度を上げてしまうのもモノクロームでは有効です。高感度によって発生する写真のザラつきも、白黒フィルムで撮影しプリントしたときに出るようなザラザラした感じを演出できるため、味として写すことができます。

ミニマルフォト

必要最小限の要素のみを写したシンプルな構成で、撮りたいものを明確に主張できる「ミニマルフォト」。このミニマルフォトはモノクロームとも相性が良く、色の情報が排除されることでさらにより強く被写体の存在感、形、質感を強調することができます。シンプルな分、被写体をどう切り取るのかが大切です。構図をしっかり見極めて撮影しましょう。

自分の写真がいつもとは違う新鮮な印象で写るモノクローム写真。何気なく撮ってみるだけでもきっとモノクローム写真の魅力を感じることができるはずです。そして、知れば知るほど本質的な写真の楽しさ、作品づくりの楽しさも味わえる奥の深い世界でもあります。まずは気軽にチャレンジしてみてはいかがでしょうか?

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