一眼レフカメラ動画の良い点・気になる点。
ほかにD800ではどのような撮影をされましたか?
先日化粧品のCMで使ってみたんですが、とても良かったですね。14歳のデビューしたての女の子を撮ってみたところ、滑らかな肌の質感など、弾むような若さが表現出来たと思います。
それに大きなムービーカメラより威圧感がないので、このような若いタレントさんや一般の方には、リラックスしてもらえるかもしれませんね。
通常俳優さんを撮る時は、「よーいスタート!」でカメラを回し始めるのですが、ミュージシャンなどの場合は黙って撮り始めてしまうんです。あるいはカットがかかっても、まだ回している。その方が良い画になることがあります。そんな風にさり気なく撮影出来るのも良いですよ。
ほかに良い点というと、どんなことが挙げられるでしょう?
なんといっても、普段から持ち歩けるというのは大きいですね。
僕らは、とにかく映像を通して世界と関係しています。多分普通の人が思っている以上に、僕らには目で見るものが映像的に見えていて、そんな僕らと世界の接点がカメラといった感じです。だから絶えず持っていたい。そのためにはコンパクトであるということに意味があるのです。
その点で、特にこのD800のサイズはいいですよね。D3Xはその写真のクオリティに納得して購入したのですが、あれを終日持ち歩くのは大変です(笑)。
逆に気になった点はありましたか?
これは一眼レフムービー全般に言えることですが、性能面で気になったのはローリングシャッター現象ですね。センサーの上と下で記録にタイムラグがある。だから走るものはどうしても歪みがちになります。カメラを揺らすと少しふにゃふにゃしたり…。
通常の撮影では、このような問題は気にならないのですが。
動画撮影に使用しているレンズ。
動画の場合、レンズはどうされていますか?
そこが一番の問題です。今カメラに付けているのはMFのレンズです。動く被写体の場合、常に被写体にフォーカスを合わせ続けなければならないので、AFでは追いきれないのです。
それから一般的なレンズだと、フォーカスリングが無限遠を超えても回ってしまうじゃありませんか。それではフォーカスプラーも微妙なリングの調整が難しくなります。ですのでMFレンズが良いのです。絞りも変えられますし。
最近MFレンズは少なくなってきていますけれど、動画を撮影する立場からすると逆にもっといろんなレンズを出してもらいたいですよね。
よく使うレンズはありますか?
基本的には35mm、50mm、85mmなどです。人間の目に近い、この3本があれば何でも撮れてしまうのではないかと思います。
そしてやはり単焦点はいいですね。僕はレンズの枚数が少ないほうが、被写体との距離が近い感じがします。あくまで被写体との距離を大事にして撮影しています。
ただし動きが激しいシーンでは、クイックに被写体の動きに合わせなければならないため、ズームレンズを使うこともあります。
ワークフローについて。
写真をメインとしている方の中には、映像制作のワークフローがイメージ出来ないという方も多いのではないかと思います。村上さんは、どこまでご自身でやっていますか?
基本的には、現場で撮影データを編集担当者にお渡しするスタンスです。動画の色彩を補正するカラー・コレクションなどは、翌日行う方も多いですよね。でも現場で決めたほうがホットじゃありませんか。現場には別途モニターを持ち込み、撮影後、その場で追い込んでしまいます。
動画の編集は、別の方がやっているのですね。
CMやPV、映画などの制作現場では、通常カメラパーソン(フォトグラファー)の仕事は動画を撮るまでです。後の工程は編集者にお願いします。
でも最近は、編集機材やソフトも安くて高性能のものが多くありますから、簡単な編集なら自分でも出来るでしょうね。
今は初心者向けのソフトから、プロが使うようなソフトまでいろいろ出ています。僕も買って使ってみました。ただ、自分で編集するのは難しい。カメラパーソンは自分で撮った映像がもったいなくてカット出来ないんですよ(笑)。やはり監督を見ていると、ズバッとカットするのが上手いですね。
僕の場合は、「撮っている段階できちんとパフォーマンス出来ていると思うので、あとは好きに繋いでください」というスタイルなんです。
それからD4などもそうですが、外部レコーダーに非圧縮動画が出力出来る点も、監督や編集者にとって大きなポイントだと思いますよ。
ニコンDムービー D4・D800を使用したワークフロー例
機動性を活かしたり自分で編集したりも出来ますが、一眼レフで撮るからといってスタッフが少なくなるわけではないということですね。
プロの現場ではさほど変わらないですね。現段階ではまだ、従来のプロ用ムービーカメラで撮影することが多いですし。
まぁ、少し予算が厳しいという理由で、一眼レフが選択されるケースもあります。そのため同時に、同じように予算的な理由でスタッフも少なくなることはあると思いますが。
現場では、撮影の合間にスタッフと画について確認をしながら撮り進めるといった感じなのでしょうか。
そのようなこともありますね。でもフィルムの時は、映像は撮影者しか見られなかったわけですよね。だからディレクターによっては、役者さんに演技指導はするけれど、その場で映像は確認しないという方も意外と多いですよ。AKB48の映像で組んでいる高橋栄樹さんもそのようなタイプの監督です。画の方は任せてくれる。そういう監督がカメラパーソンとしては一番嬉しいですね。もちろん逆に、カメラパーソンとして監督のことを理解しているということも重要です。
これから動画を始める方へ。
村上さんがこれからやりたいことはなんでしょう。
やはり従来のようにCM、それからPVは続けていきます。カメラパーソンとしての感覚を成長させるにも PVはいいですよ。現場でのインスピレーションとかグルーブ感などが鍛えられます。
もちろん、また映画にも取り組む予定です。以前、犬童一心監督の『金髪の草原』という作品を撮らせてもらいました。僕としてはあのような、監督の初期の輝きを焼き付けるような仕事がしたいですね。
この映画は、全編手持ちで撮りました。それは手持ちならではの味を出そうとしたというより、役者の演技が始まったら撮りたいアングルにすぐ移動したかったからです。あの時このようなカメラがあれば、もっと高画質で撮れたでしょう(笑)。高橋栄樹監督もそうですが、意欲的で息の合う監督と映像を作るのは本当に楽しいですよ。
他にも、もちろん写真も毎日撮っていますし、制約のない自主映画の制作もいいですね。やりたいことはたくさんあります。
ニコンに望むことはありますか?
まず個人的に機能として望むのは、1秒間の撮影枚数の向上ですね。D800の動画は1280×720サイズでは秒60コマで撮れますが、それが90コマ、120コマとアップしていってほしいという希望はあります。
もっと大きな視点では、映像に関わるものとしてニコンのこれからの動向が気になります。
D90が出た時、「動画撮影機能などいらない」といった意見も多かったと聞きました。でも今は、動画が撮れるのは当たり前ですよね。その点でニコンの打ち出した方向性は間違っていなかったと思うのですが、テレビや映画が4K解像度(4096×2160ピクセル)へ向かっている現在、ここからさらに動画に力を入れるのか、あるいはあえて写真に特化するのか。ユーザーとしては、今後の展望を聞きたい気がします。
最後に「これから動画の撮影をしたい」と考えている方に、一言いただけますでしょうか。
現場や仕事内容により状況は変わりますし、最初は撮影をしていて戸惑われることもあるかもしれませんが、先ほども言いましたように写真と動画ではそれほど大きく勝手が違うということはないはずです。
現状としても、メディアにおける動画のウエイトは大きくなっていると思います。WEBでは企業広告から個人サイトまで、動画の公開は当たり前でしょう。
写真家としてキャリアのある方もそうですし、特に若い方でこれからプロを目指すなら動画は撮れたほうが良いですよ。
こんなカメラが、学生の頃にあったらよかったろうに思います。フィルムはランニングコストが大変でしたから。カード1枚数千円でしょう?絶対やるべきです。
どんどんチャレンジしてください。ライバルが増えるのはOKですよ(笑)。
インターネットの急速な普及、さらにはテレビとネットの融合も進む中、動画の需要は今後ますます高まることでしょう。しかし、村上さんの様に本格的に静止画も動画も撮影出来る方は多くないと思います。
若い方でも手軽に始められ、長年のニコンユーザーの方もこれまでのニッコールレンズの資産を活かした多彩な表現が行えるDムービーは、挑戦する価値のある分野ではないでしょうか。
先駆者でありながら、自分もまだまだチャレンジャーだという村上さん。
常に新たなことに挑む勇気と好奇心が、自分自身の可能性も開くのだとあらためて感じたインタビューでした。
村上 拓 むらかみ たく
1957年生
日本大学藝術学部 映画学科撮影録音コース卒業
東映CM入社後フリー
主にTVCFとMusic Videoの撮影を仕事とし、その数は約1000本。
自動車メーカー、食品メーカー、化粧品メーカー等多数のTVCFを手がける。
また、有名タレントのMusic Video作品、映画、ドキュメンタリーの撮影も数多く行っている。