Nikon Imaging
Japan
プレミアム会員 ニコンイメージング会員

vol.17 フォトグラファーの可能性を拡げる Dムービー。

2. 一眼レフカメラで動画を撮るためのポイント。

写真とは異なる撮影のポイント。

フォトグラファーの方々が動画を撮る際、意識したほうが良いことはありますか?

一眼レフをプロ用ムービーカメラの代替品と考えている方もいるようですが、まずそのような考え方は変えるべきだと思います。CMやPVなどの撮影は、通常大規模なセッティングをして行いますよね。でも一眼レフカメラはムービー専用機と同じように使うよりも、むしろ現場の状況に応じた撮り方に向いているのではないでしょうか。
映像の場合は通常キーライトを作ってから撮影を行うのですが、それよりライトは足りないところを抑えるだけにして、その場の空気感を活かす。そのほうが面白いと思いますよ。
感度も映画用のフィルムだとISO500くらいなのですが、それに比べたら暗い場所に圧倒的に強いので、その強みを映像にどんどん反映させるべきでしょう。

技術的な部分でフォトグラファーの方々が気をつけた方がよいことなどはありますか?

そうですね。いくつかありますが、例えばパン撮影(固定したカメラの向きを振ること)でしょうか。カメラをパンするのは意外と難しいんですよ。だから三脚の雲台なども、安定して動かせるように良い物を使うべきですね。
手だけで動かすとカクカクしますから、動かす時は体全体で動かします。特に60度以上になると、スムーズに動かしにくくなるので注意が必要です。
それからフォーカスですね。常に合わせ続けなければいけませんから。そのため動画の場合、撮影時にはピント合わせ専門のアシスタント(フォーカスプラー)がつきます。

フォーカスを調整するフォーカスプラー。(左)
パン撮影は、体全体を使いながら。

フォーカスプラーはどのようにピントを合わせるのでしょう?

僕はカメラ本体の液晶を見ながら撮影をするのですが、フォーカスプラーはこのようにカメラのそばに立てたサブモニターなどを見ながら、横からフォーカスリングを回します。
もちろん基本的なフォーカスは僕が合わせます。それを被写体の動きに合わせて調整するのがフォーカスプラーの役割です。
例えば人物がこちらへ近づいて来るようなシーンでも、フォーカスプラーはずっと合わせ続けてくれます。もちろん自分でも出来ない事は無いでしょうけれど、撮影中フォーカスだけに集中するわけにもいかないですよね。
たまにわざとリングを大きく回してピントを外し、再度フォーカスプラーに合わせてもらう、といった撮り方をすることもあります。意図的に一瞬ぼやけさせてまたフォーカスするといった表現も面白いですよ。固く考えすぎず、大胆に撮影してみるのも良いんじゃないですか。

左:カメラシューにモニターをセットした状態。
右:ブレ防止のための動画用機材。

一眼レフは従来のプロ用ムービーカメラより機動性を活かした撮影もしやすいかと思いますが、反面、手ブレなども気になるのではないでしょうか?

そのために、例えば背中からアームで吊るなどのブレ防止の為の動画用機材はいろいろあります。
でも最小限の状態で撮るのでしたら、カメラの下に一脚をつけるだけで違うと思います。あるいはカメラシューにモニターをつければ、カメラ全体が重くなって安定します。
ちなみに、カメラやレンズのブレ防止機能も意外と表現として使えるんです。もともと動画をメインに作られているわけではないので、シームレスに動くものを追い続けると少し画面に癖が出ます。その癖を把握して画作りに利用するというもの面白いですよ。

設定について。

NDフィルターは必須。
ホワイトバランスで青みを加え、朝のような雰囲気の映像に。

先ほど感度の話が出ましたが、お使いのD800の動画で実用感度はどのくらいとお考えですか?

必要であれば、ISO6400でも撮れるのではないですか。もちろんノイズが少しは乗るでしょう。でもセンサーサイズが大きいので、ひどく暴れているようなノイズは出ません。それより本来ならライティングが必須のような状況でも、撮影出来るということの方が大きいですよね。ノイズが乗っても、それはそういう表現として撮れば良いと思います。
むしろ難しいのは、非常に天気の良い時。野外で少し絞りを開けて深度を浅く撮りたいという時には、感度を落とすためにNDフィルターを使います。通常D800は、ISO100までは落ちますが、状況によりさらに落とす必要があるでしょう。
動画の場合、シャッタースピードはそれほど上げられません。基本1/60秒や1/120秒まででないと画がカクカクしてしまうのです。ですから、どうしてもNDフィルターは必要ですね。

その他によく使う設定は何でしょう?

写真と同じようにホワイトバランスなどを手軽に変えられるのは良いですね。フィルムカメラであれば、フィルターを交換しなければいけなかったわけですから。その場で朝のような雰囲気を出したり、夕方のような雰囲気にしたり、簡単に出来てしまいます。
映像の雰囲気はあくまでカメラパーソン(フォトグラファー)が主導ですが、現場で監督やスタッフと色味なども確認しながら撮影を進めることも出来ます。

それから解像度ですが、フルHDといっても1920×1080ピクセルです。動画を撮るのに現在の一眼レフのような高画素は必要ないようにも思うのですが。

撮影した動画のサイズは、結局フルHDサイズに間引かれてしまいますからね。単純に考えれば、画素数の多さと動画の解像感は直接的な関係はない気がします。個人的な印象では、画素数は解像感に影響しているようにも思いましたが、実際関連しているのかどうかは開発者ではないのでわかりません。
ちなみにニコンは、クリアでリアルな映像を目指しているように思いました。ただしメーカーそれぞれに特長があり、何が良い悪いではなく、自身の好みによって考えれば良いことではないでしょうか。

ほかにも機能の注意点などはありますでしょうか?

細かいことは色々あるかもしれませんが、過剰に意識されるほど写真と動画はさほど変わらないと思いますよ。
例えば写真でモデルさんを撮るとき、ポーズを変えてもらったり、あるいはこちらが動いたり、結果的に連続で撮影し続けているじゃないですか。それが一つにまとまっていると思えばいいんですよ。
流れの中で出て来るさまざまな変化をきちんと捉える。
動画撮影のやりかたがわからない、というかたも、あまり構えるのではなく、そのような考え方から始められてはいかがでしょう。

実際の作品をもとに解説。

先日村上さんが撮影されたというDムービー、拝見しました。

あれもD800で撮影しました。
撮影の時の話ですが、ロケハンを1日行いライトやフォーカスを決めた後、確認のため撮影前にもう一度集まろうという話になりました。でも、僕は断ってしまったんですね。なぜかというと、あまり決め込まず、現場でのインスピレーションで撮りたかったのです。それが、このような一眼レフで動画を撮る撮影意義でもあるのではないかと。いずれにせよ1日しか撮影時間はないわけだし、そういう挑戦をしたかったんですね。本当はそんな撮り方は怖いんですけれど(笑)。
実は撮影を行う前になって、決めていた場所での撮影許可がおりなくなった、などということもありました。そこで別の場所に移動し、急遽「ここで撮ろう」と撮影をしました。光の位置関係などを見て、その場の雰囲気を活かしながら撮っています。一眼レフだからこそ、このように臨機応変な撮影も比較的手軽に出来るのではないでしょうか。

急遽場所を変更して撮ったシーン。
実際の撮影風景。
その場の状況を活かし、ローアングルで撮影。

室内もかなり明るく撮れていましたね。

何シーンか撮影しましたが、いずれもライティングしていなかったんですよ。ライトを当てると、いかにもセッティングした普通の映像になってしまいます。むしろそのままで、この状況の良さを見つけたほうが面白いでしょ。
まずは朝にカフェで撮影したシーン。お店の雰囲気を活かすため、ここもノーライティングです。実際に営業しているカフェですから、午前中しか許可がおりなかったので、11時終了を目ざしてスピーディに撮影しました。
それから、港の見える丘公園にある古い家屋に移動。ちょうど部屋に光が差し込んでいたので、その状態を逃さないように素早く撮っています。ローアングルのシーンは最初の打ち合わせにはなかったのですが、その場でカメラを床に置く事を思いつき、そのまま撮ってしまいました。その時の気持ちを瞬時に焼き付けることが出来るというのが、一眼ムービーの良い所ですよね。

店内のライトだけで撮影。
暗所でもノイズのないクリアな映像。
実際に撮影した動画から切り出した画像。

夜のシーンもかなりきれいでした。

あれは高感度性能の良さがよく出ていましたね。
それから色温度。最近のお店の照明を活かした撮影は難しいんですよ。昔なら夜のシーンはタングステンフィルムで撮影していましたよね。今は色々な光源が混ざり合うことも多いので、かつての撮り方が成立しなくなって来ています。でもそういった状況でも、実際の現場でさっと撮り方を決められますよね。

実際に撮影した動画から切り出した画像。

映像の中には、ゴーストの比較もありましたね。

ナノクリスタルコートのレンズで撮った映像はクリアでしたね。あそこまでゴーストを抑えられるとは…。時代が変わったなという印象です。実際に僕が持って行ったレンズと、ナノクリスタルのレンズで同じシーンを撮り比べてみたのですが、明らかに差が出たのでちょっとショックでした(笑)。
ただし動画の場合はいろいろと表現の仕方があって、あえて柔らかいフィルターをつけることもあるので、必ずしもクリアでシャープに撮れるレンズだけが良いというわけではありません。わざとハレーションを出したい時もありますし…。
だからレンズはいっぱい持っています。同じ50mmや85mmだけでも何本も。明るさや軽さ、それに味わいがそれぞれに違います。写真館でもそうじゃありませんか。ビンテージレンズを何本も持っていて、昔のレンズならではのソフトフォーカスを売りにしているお店もありますよね。だから動画でも、かつて使っていたレンズをあえて試してみるのも面白いかなと思っています。
フィルムの頃には気が付かなかったのに、デジタルカメラにつけたら明るさが増してソフトフォーカス気味になったり…。写真撮影で使うのは難しくても、動画なら味の一つに出来ることもあるんですよ。

ナノクリスタルコートによるフレアやゴーストの低減

「ナノクリスタルコート」は、ニコンが最先端の半導体露光装置を開発する過程で生み出したレンズ反射防止コーティングです。
ナノサイズ(1ナノメートルは、1/1,000,000mm)の極めて微細な結晶粒子からなる超低屈折率層を持ち、可視光域(380nm~780nm)の全領域で、従来の反射防止コーティングの限界を超えた極めて高い反射防止効果を実現。フレアやゴーストを効果的に低減し、クリアな表現を実現します。

ニコンイメージングプレミアム会員
ニコンイメージング会員