大量データの保管と送信。
デジタルになったことで、仕事は変わりましたか?
確かにいろいろ便利になったことは多いですね。ただ、仕事の面から言うと、ポジに比べてオリジナルの概念・価値が崩れたと感じています。
デジタル画像はオリジナルを幾らでもコピー出来ますよね。フォトエージェンシーとしては「オリジナルのポジを持っている」という強みが薄らぐわけです。特にスポーツの撮影ポイントはまさに一瞬。その意味で本来、オリジナルの価値はかなり高いジャンルだったのですが…。無許可で二次使用・三次使用されることがないように管理するのも難しくなったように思います。
スポーツフォトグラファーの方は、とにかくたくさん撮影されますよね。写真の保管はどうされていますか?
まずパソコンで撮影した写真のINDEXを作成します。その後、パソコンに落としたデータは、HDに溜め込まずDVDに保存しています。
さらにDVDも、通常仕事に使うものとバックアップ用の2枚作成します。それも、あえて違うメーカーのDVDに焼くようにしています。DVDは劣化しますから、違うDVDに焼くことで、バックアップが同時期に2枚とも使えなくなるリスクを減らすためです。ちなみに、完全なバックアップ用のディスクは、通常使用するディスクよりクオリティの高いものを使っています。
データの保存について、皆さん悩まれていますよね。
「絶対にずっと大丈夫」といった方法は無いのではないでしょうか?みなさんそれぞれに工夫と苦労をされているようですよ。
私もしばらく前に撮影した作品のディスクを時々見ながら、劣化の状況などを確認し、必要に応じてバックアップを取り直しています。
出張先から大量のデータを送らねばならないときは、どうされていますか?
高画素の写真が至急必要、といったことでもなければ、ある程度ファイルサイズを落として送ります。
フォート・キシモトのサイトにアップしている程の画像でしたら、1カット1MBくらいに圧縮して送っています。
また雑誌の依頼等で高画素のデータを渡さねばならないときは、ひとまずサムネール用の低画素データを送り、後から本データを渡すといった事も行っていますね。
日本はある程度通信環境は整っているでしょうが、海外はいかがですか?
確かにしばらく前までは、十分に環境の整っていないところが多くありました。でも随分と良くなりましたよ。デジタルがまださほど普及していない頃は、フィルムスキャナをカメラと一緒に持ち歩き、現像した写真をスキャンして送っていました(笑)。
出張先のホテルからアナログ回線で、1MBのファイルを15分程かけて送っていたように思います。
今では大きな大会を行う競技場のプレスセンターには通信環境が完備され、センター内では無線LANでデータが送れます。
サッカーのワールドカップの会場では、フォトグラファーが座る椅子ごとに有線のケーブルが付いていましたし。随分仕事はやりやすくなりました。
藤田氏がニコンに切り替えた理由。
スポーツの撮影特有の苦労というと、どんなことがありますでしょうか。
まず被写体が遠いことですね。さらに動きが速い。ゆえに機材も大きくなります。
我々の標準レンズは400mmです(笑)。
しかも三脚は使えません。野球などは例外として、最近は一脚しか許可していない会場が多いですね。スペース確保の為もありますし、三脚だと何かあった時に動きにくいでしょう。ファインダーを覗いていると全体の状況が見えにくいので、注意が必要です。撮影していて、実際に私もボールが当たったことがありますよ。
長時間、400mmを一脚で撮るのは大変そうですね。
ずっとそう撮ってきましたから、特に苦にはなりません。300mmは手持ち、400mmから一脚といった撮り方が当たり前。本当は400mmが手持ちで撮れればいいなと思っているのですが。
そういえば先日、新しい200-400mmのレンズをニコンから借り、アジア競技会で使ってみました。レスリングを撮ったのですが、これは楽でしたね。
動きの速い無軌道な被写体に対し、こちらは動けない。今までこのような状況では、きちんとフレーミングするために200mmと400mmのレンズをつけたカメラを用意し、交互に撮っていました。それが一本のレンズでまかなえるのですからいいですよね。F値は一段落ちますが、クオリティという点では普段使っている単焦点のレンズとほとんど遜色ありませんでしたよ。
室内競技の撮影は、露出とシャッタースピードのバランスが難しくはないですか?
D3を使ってからは、その問題は随分軽減されました。十分な光量のない場所でも、高感度設定で撮影すればほとんど問題なく撮れます。これまで1/250でしか切れなかったところを1/500や1/1000で切れると、撮り方も変わってきますよね。
例えばフィギュアでスピンをするシーン。1/250だと綺麗に止めて撮るのは厳しい。どうせ撮ってもムダだとなれば、撮らなかったりすることもあります。あるいはスピンが遅くなったところから撮り始めるとか。
ところが1/1000でもいけるとなれば、その条件で画作りができます。表現の幅が一気に拡がりますよね。
藤田さんは最初からニコンをお使いなんですか?
最初は他社のカメラを使っていました。ニコンに切り替えたのは2007年のD3登場からです。
発売直後に使ってみて、鮮烈に感じたのは画質の良さ。
作品は何年も残るものでしょう。ピントの俊敏性とか機動性とか、カメラを評価するポイントは幾つかありますが、やはり画質にはこだわります。
具体的には、インドアでの撮影時に特に差を感じました。
感度をISO3200まで上げて使ってみたんですよ。印象としてISO400~800ほどに感じられました。その上、シャドー部のノイズもほとんど見受けられず。
一般的な撮影シーンでは、インドアで1/1000のシャッタースピードは必要ないかもしれませんが、私たちの仕事では十分あり得ます。一般の人からするとほとんどわからないようなわずかな差が、プロの世界では大きいのです。それでニコンに変えました。
ただ変更した当時は、レンズの装着の仕方などが逆であったため、しばらく戸惑っていましたが(笑)。
藤田さんの周りで、ニコンに切り替えている方は見受けられますか?
現場での実感として、ニコンユーザーは増えているようです。デジタルカメラが普及し始めた当時は、スポーツ撮影の現場では確かに他社のカメラがかなり目立っていました。しかしD3の登場以降は、状況が随分変わったと思います。
実はユーザー数の比率は、競技会によって違うんです。また、フリーランスが多いか、新聞社などの取材が多いかによっても変わりますから、どちらがどれくらい多いとは一概には言えません。でも、最近ではむしろニコンの方が多いようなケースも見受けられるようになってきました。
スポーツシーンに最適なD3Sと新ズームレンズ。
藤田さんがお使いのカメラはなんですか?
現在メインはD3Sです。D3でも問題は無いのですが、屋内でより速く明るい写真を求めるとなると、やはりD3Sになりますね。
海外へ出るときはD3SとD3の2台を持って行きます。レンズは400mmをメインに一通りといったところです。あちこち動き回るため機動性も重要ですから、必要以上にカメラを持っては行きません。高性能で汎用性も高いこの2台を使っています。
一つ問題は、非常に高機能な点は良いものの、私自身がまだ機能を使いこなしていない点でしょうか(笑)。
でも大会期間中、2台だけでは、万一のことを考えると不安ではありませんか?
いえ、今回のアジア競技大会もそうでしたが、海外でも大きな大会ではNPS(ニコン・プロフェッショナル・サービス)がサービスデポを行ってくれているので、安心です。掃除をはじめ、何かあった時にもすぐ会場内のコーナーに駆け込めるので、トラブルの心配をせず撮影に取り組めます。
そのため取材を行う大会では、事前にNPSがサービスデポの設置をするかどうかを確認するんです。さらに、代替えを持ってくるのか、あるいはレンズの貸し出しもしてくれるのかなど、どのようなサービスを提供してくれるのかも確認をしています。大会の規模によってNPSのサービスデポの規模も変わりますからね。それによってこちらの事前準備や、カメラにトラブルがあった時の現地での動き方も変わってきますので。
ところで、NPSのコーナーを見ていて興味深かったのは、アジア競技会のような大会になると、新興国のフォトグラファーの方は大きなレンズを持っていないケースも多々あるということ。ですから機材貸し出しの場所の前には行列が出来ていて。普段高価なカメラやレンズを使えない人にも是非使って貰いたいということで、ニコンにとっても意義のあることでしょうが、対応が大変そうだなぁと眺めていました(笑)。
ニコンのカメラに対する要望などはありませんか?
高感度性能をはじめ、現在のニコンの写真のクオリティに関しては、かなり満足しています。仕事柄という点でさらに望むとしたら、フォーカスの追従性ですね。継続的に被写体を捕捉し追いかけてくれる機能は、D3が出た頃と比べても良くなっていますが、私たちにとってフォーカスの瞬発力はいくらあってもありがたい。例えば陸上のスタートの瞬間、レスリングの技を仕掛ける瞬間など、不規則な動きにもう少し高い精度でついていってくれることを今後は期待したいですね。
確かにスポーツでは、急に動きが変化する場面も多いですよね。
とはいえ私たちは長年の経験で、被写体を追いかけながら撮るというより、「待って撮る」という技術が身についてはいます。被写体の動きを追いかけると、どうしてもシャッターを押すタイミングが微妙に遅くなります。だから一瞬先にレンズを向け、そのエリアに被写体が入ってきたところでシャッターを押す、といった感じで撮っています。カメラもその感覚に近づいてくれると助かりますね。
最近気になる商品などはありますか?
先程話した200-400mm F4のレンズが気になっています。今更言うまでもないことですが、F2.8がF4になるということは被写界深度も変わりますよね。その関係でしょう、先日使ったときにピントが来やすく感じたのです。F2.8は明るい分、ピント合わせがすごくセンシティブで、それに比べると随分使いやすい印象でした。
その時はレスリングの写真を撮りました。2人を1枚に収めるため、深度の深いF4の方がイメージに近い画作りができたんです。
これまで望遠系のレンズはF2.8が当たり前と思っていたので、F4のレンズを試したことがありませんでした。現在ではカメラ本体の高感度性能もレンズの質も上がりましたから、300mm・400mmのF4でも十分使えます。
このレンズを使ったことで、少し自分の中での常識が変わったような気がします。