サポートからも見える、ニコンの企業姿勢。
何台ものニコンのカメラをお使いの隈川さんですが、操作面で気に入っている点はありますか?
仕事をしていて助かるのは、ストロボをつけた時、露出とストロボの調光が連動する点ですね。露出をプラス側に振ると、ストロボもプラス側に振られる。私が使っている他社の機種では、全面的に暗い場所で撮ると露出補正を変えても全然画が動きません。
暗い場所でストロボ光を使わなければいけない時も、露出補正簡易設定を入れておけば、ダイヤルを動かすだけで調整出来てしまいます。
逆に、厳密な写真を撮る時は設定を解除する必要が有るので、面倒と感じる方がいるかもしれません。ただし私たちの仕事は、厳密な作品を撮るのが目的ではなく、お客様に満足いただく為に、過不足のないクオリティーを提供する事です。その為のツールとして、ニコンのカメラは私にとって最適なカメラなんです。
ところで、先程からピクチャーコントロールの話が何度か出てきました。他社にも似た様な機能があると思うのですが、何か違いが有るのでしょうか。
実際に他社のカメラを使ってみて感じたのは、機種やクラスによっては微妙に違う様なのです。アマチュア向けの機種は、同じ設定でも少しビビット気味です。この様な事では、何台かのカメラで色味の統一をしたい場合は、困ってしまいます。
その点ニコンでは、どの機種でもピクチャーコントロールの設定は統一されています。だから複数台のカメラで撮らなければならない場合でも、安心して使えるのです。他社のカメラでは、同じ撮影現場で機種違いのカメラを混在して使う事は出来ません。撮影後に余計な手間が発生しますから。
ほかにどんなメーカーのカメラをお使いでしたか?
ニコンのボディを使った他社のカメラも使っていました。良かった点は、ダイナミックレンジを拡張する様な機能がどのメーカーにも無かった時代に、ダイナミックレンジを4倍に拡張する技術を採用していた点です。だから輝度差の激しい所では、断然良かった。さらにコンパクトでしたから、機動性も申し分ない。その上、ボディはニコンからのOEMだったので、ニコンのレンズがそのまま使えましたし。
ただし現在では、ダイナミックレンジの問題は解消されています。写真館では他社のカメラを使っているところも多い様ですが、今後の事も含め、サポートの点でもニコンがお薦めですね。
ニコンのサポートは、どの様な点が良いと感じますか?
「ユーザーの立場に立った、プロの仕事」をしている点です。
購入後、少々手を加えたカメラを修理に出しても、本体動作に不具合を生じさせる様な改造でなければ、他社と違って咎(とが)める様なコメントをして来ません。修理を依頼した箇所以外にも、気を配って見てくれます。この様なところにもユーザー本意の企業体質が見えますね。
先日も写真イベントの最中、イベントに使うアプリケーションのアップデートに関し連絡をしたら、わずかな時間で即対処してくれました。私の周囲でも、ニコンのサポートに対する評価は高いですよ。
ニコンに対する要望。
ニコンに対し、今後期待する点はありますか。
まず操作面で、いくつか改善して欲しい点があります。
露出補正を操作する際、インジケーターの表示が気になります。横長のインジケーターの場合、通常プラスの数値は右に置かれるところ、なぜかニコンは逆。なぜこの様な事になったのか理解出来ません。上位機種では、インジケーターの表示の左右入れ替えとコマンドダイヤルの回転方向の設定で使いやすい様に出来るのですが、問題はこれが出来ない下位機種です。この点がしっくりこないので、ぜひ改善して下さい。
それから、ストロボ背面液晶のイルミネーター点灯について。
ニコンのストロボは「イルミネーター点灯ON」が標準の状態です。ストロボは主に暗い場所で使うわけですから、そのための配慮なのでしょう。でも学芸会などを撮影する際、舞台下で常時点灯されると、後ろから見ている生徒や保護者から目立ってしまいます。もちろん手動でOFFにも出来ますが、イルミネーターを点灯させたい時はカメラ側と連動しているので、標準はOFFで良いと思います。これも変更して欲しいですね。
また、初期設定では撮影直後の画像確認をしないという設定になっている機種があるという問題もあります。
ニコンのカメラを勧めた人から「撮った画像が表示されない」と連絡がありました。他のメーカーでは撮影画像が表示されるのが当たり前ですから、その点も改良して欲しいですね。D3000は初期設定で撮影直後に画像が表示されるでしょう?ぜひ上位機種もその様にして下さい。
撮影機能面では、いかがでしょう?
アクティブD-ライティングを頻繁に使っている人でないと分からないかもしれませんが、アクティブD-ライティングの効き方が気になりますね。
アクティブD-ライティングはダイナミックレンジの広い写真を提供してくれるものの、若干アンダー気味になりがち。その様な時は露出をプラス補正する訳ですが、時に+3くらい露出を上げなければいけない時が有ります。
本来、自動的に適正画像にしてくれる機能なのに、+3も補正しなければいけないのは、いかがなものでしょう?
ぜひ対応をお願いします。
デジタルによって可能になる、多店舗との差別化。
今回立派なスタジオを新築された訳ですが、館内を拝見出来ますか。
はい。まずはスタジオ(写真A)から。スタジオは照明の角度・照度の調整から、背景紙の切り替えまで、全てオートメーション化しています。繁忙期でもスムーズに仕事が進む様、徹底して効率化を図っています。
こちら(写真B)が美容室とフィッティングルーム。忙しい時期にはプロの着付師と美容師に専属で張り付いてもらいます。撮影の段取りや着物の注意点などは別のスタッフが事前に説明するので、フォトグラファーは撮影に集中出来ます。
こちら(写真C)がPCルームです。部屋の中までの配線はもちろん施工業者にやってもらいましたが、部屋内のネットワークは全て私が組みました。
さらに、より安全で効率よく仕事を進める為の仕組み作りも行っています。例えばデータサーバーとバックアップシステム、PCが故障した際の素早い復旧策、アプリケーション操作のオートメーション化など、私自身の作業の効率化はもちろん、スタッフにまかせてもスムーズに仕事が進む様、さまざまなノウハウをつぎ込んでいます。
本当に細かな部分まで、効率化されているのですね。大規模な写真館が全国展開している中でも、日々忙しく活躍されている隈川さんですが、経営面で意識している事・行っている事は何でしょうか?
基本的に安いチェーン店さんと価格競争をしようと思っていません。「安価で、サービスも安い価格相当で良い」と言うお客様も多くいらっしゃる事でしょう。
人の好みや判断はそれぞれなので、共存共栄で良いのではないかと思っています。ただしその為には、明確な差別化が必要です。
うちの差別化ポイントは、グレードが高く幅広いメニューの写真サービスの提供です。安い写真館では出来ない修正や色出し。衣装部屋や美容室の完備。明るく柔らかい雰囲気の内装。親しみを感じてもらえる様な、気持ちのこもった接客。とにかく、かゆい所に手が届き、気分良く利用して頂けるお店作りをしています。
おかげで昨年も一番忙しい七五三のシーズンでは、多い日に40組ほど撮影をしました。そんなときでも、お客様に対応するシステムをきちんと作り上げておけば、お客様を待たせず、仕事の効率をアップする事も可能になります。
付加価値の提供を心がけているのですね。
お客様の望む半歩先の提案をする事が大事だと考えています。先に行きすぎた提案は、理解されません。逆にチェーン店さんの様に、決められたフォーマットに沿って撮影するだけでは、お客様の満足度は上がりません。撮影の時でも、私たちは一般的なカットに加え、お客様が想像していなかったようなカットまで撮っています。するとお客様の印象に残り、さらに口コミで拡がるのです。
具体例など教えていただけませんか?
例えば、夏のお宮参り。お母さんがノースリーブの場合、赤ちゃんを抱いて写すと、二の腕の太さが強調されてしまう事があります。うちではそれをそのまま納品せず、出来るだけ自然に細く補正してお渡ししています。このようにお客様に言わずに行うボディの修正が、実は沢山有るのです。そして修正した写真を見たお客様は「あのお店はうまく『撮って』くれる」(笑)と思い、リピーターになってくれます。
誕生日の写真などは、100枚以上撮るケースもあります。でもお客様に見せる前に6割は捨ててしまう。選択肢を有る程度少なくしてあげるとお客様も選びやすいし、こちらも早く作業が進むので良いのです。残った30~40カットを、お客様と一緒に5カットくらいに絞り込みます。そしてその5枚から、今度は1枚まで絞り込まれない様にがんばります(笑)。結果3枚売れてくれると嬉しいし、5枚全て売れる事も有る。こういったお客様とのやりとりは重要ですね。
会員制度も設けているとの事ですが。
リピート客増加の為の仕組みです。入会時に5000円の会費をいいただきますが、一度会員になると以降の料金は3割引き。1回の撮影におけるお客様の平均単価からすると、お客様は会費を払っても一度の撮影で元が取れる事になります。実際にお客様にも、そのように伝えて、会員になっていただきます。すると、せっかく入会したのだからという意識も働いて、以降、固定客になってくれる率が高いのです。
なかなかこのような営業のシステムを作る事に、意識が向かない写真館さんも多いのでは?
写真屋は技術職だという意識の強い方が多いようです。でも商売をする以上、「お客様第一」でなければいけません。お客様が望むもの、あるいはお客様が望んでいるよりもちょっと先のものを提案してあげて、喜んで帰っていただく。それを提供し続ける事が、経営の上では大切な事だと考えます。
その為には「デジタルで有る事!」が重要なのです。今やデジタルで仕事をするという事は、「競争力をつける」と言った事ではなく「競争出来る土台に上がれる」という事。フイルムで撮っていたら、もはや競争に参加する事自体出来ないと思います。デジタルでなければ出来ない事が沢山有る以上、そして、お客様がそれを知っている以上、デジタルしか選択肢は無いのではないでしょうか。
今後、ますますデジタルの画質は上がり、フイルム市場はさらに縮小する事でしょう。私が始めた頃と違い、カメラはもちろん、機材も運営の為のノウハウも今は大変充実しています。まだ本格導入されていない方は、ぜひチャレンジする事をお薦めします。
少し懐かしい空気を感じる駅前の一角に、ひときわモダンな新スタジオ。そこはまさに、隈川氏がこれまで培ってきたノウハウとこだわりが凝縮された空間でした。いかに、スムーズで確実に仕事を進めるか。そのための工夫が、隅々まで行き届いています。
同時に、インタビューの途中、入れ替わり訪れるお客様はもちろん、挨拶に来た業者の方にも明るく声を掛けられる隈川氏。この暖かな人柄も、写真館の魅力の一つになっているのでしょう。
「単なる効率化だけではなく、『お客様第一』と考えるゆえのデジタル化」。そんな隈川氏の言葉に納得されられる、今回のインタビューでした。
隈川 英孝 くまかわ ひでたか
生年月日 | 1967年1月9日 |
血液型 | RH+O |
会社名 | 株式会社隈川写真館 |
役職 | 代表取締役 社長 |
住所 | 埼玉県富士見市鶴瀬東1-8-20 |
創業 | 1940年(私で3代目) |
事業形態 | スタジオ撮影・学校アルバム・貸衣装 |
設備 | スタジオ・美容室・衣装室・屋外ロケスタジオ |
従業員数 | 4名(正社員)+2名(パート社員)+他・学校写真の契約フォトグラファー |
経緯 | 大学(社会心理学専攻)卒業後、すぐに入社 他館等での修行経験は無し |
資格等 | 国家資格 労働大臣認定一級肖像写真技能士 普通自動車免許 普通自動二輪車免許 二級小型船舶海技免状 (趣味で) |
賞歴 | 埼玉県フォトコンテスト 銀賞・優秀賞・他 KPAフォトコンテスト 入選 |
組織 | 埼玉県写真館協会 幹事長 社団法人日本写真文化協会 会員 協同組合日本写真館協会 会員 PGCパイオニアグリーンサークル 会員 |
思い | 修行をせずに自店に入社したため、「師」は無し。 そのため、手探りで仕事を覚える。 この「手探り」は、「お客様から学ぶ」こと。 新商品開発・不具合の発見・納期短縮をはじめとして、フィルムからデジタルへの移行など全てお客様に確認したり、アンケートをとったりして決定しています。 お客様に迎合するのではなく、お客様の痒いところに手の届く・・・・・そんな商売をしていきたいと思っています。 そして、営業写真館・営業フォトグラファーは、アーティストや芸術家では無く、サービス業なのだから、自分本位の勝手な押し付け的撮影は絶対にしないようにしようと心がけています。 カメラやコンピュータが発達した現在、フォトグラファーの労力はできる限り「お客様の笑顔」を引き出すことに使う。 「写真は口で撮る」をモットーに日々仕事をしています。 スタジオ撮影でも学校アルバム撮影でも。 会社経営は、浮き沈みの無い安定経営を目指し、景気に左右されにくい「学校写真・卒業アルバム」と利益率の良い「スタジオ撮影」をバランスさせて行う。 |
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