仕事を早く、的確に行うためのルール作り。
仕事の効率化のため、いろいろと工夫されていることも多いと思います。カメラの設定などで、決めているルールなどは有りますか?
仕事の内容によって、FXフォーマットとDXフォーマットを使い分けています。スタジオのポートレート撮影は、もちろんFX。外部での撮影は基本的にDXです。外で使う主なカメラがDXシリーズという事も有りますが、外の仕事はそれほど画素数を必要としませんから。
また、外で撮影する写真は全てJPEGに統一しています。学校関係の仕事を行う時は、何人もの外注フォトグラファーを使いますが、必ずJPEGで撮ってもらいます。腕の良いフォトグラファーはJPEGでもきれいな画が撮れますからね。
特にニコンのJPEGは、以前から肌色がきれいでした。外で使う機種を早い時期からニコンに統一したのは、その様な理由も有ります。
学校での撮影はかなりの撮影枚数になるでしょうから、JPEGでないとデータ量が膨大になりますね。
学校内で撮るスナップ的な写真は、D90でさえ「JPEG、Sサイズ、Nomal」設定で撮っています。また、保存するデータ量もそうですが、JPEGでないと後処理が大変。JPEGなら、現像などが必要無い分、後処理が楽です。撮影設定をしっかりしておけば、さほど知識の無いフォトグラファーがRAWで撮るより仕上がりは良いのではないでしょうか。
例えばどのような設定をされていますか?
一つには「ピクチャーコントロール」です。学校行事を撮影する際、私の他、何人もの外注フォトグラファーが参加します。すると、使うカメラをニコンで統一しても、D90、D700、D3というように機種が全く異なってしまう事もしばしば。だからといって、色味に差があっては困りますよね。ですから、ピクチャーコントロール設定を、全てのカメラで統一するようにしています。これで、それぞれの機種の色味にほとんど差は出ません。
隈川写真館 ピクチャーコントロールを活用した撮影設定例
■スナップ・集合写真を撮影するカメラの設定(学校撮影用カメラの場合)
- 「スタンダード」を微調整しています。
輪郭強調+2 (輪郭を強めに出す)
コントラストアクティブD-ライティング
明るさアクティブD-ライティング
彩度ノーマル
色相+1 (Yを若干強めにする) - 原則的にプログラムモードを使用し、露出補正とストロボ調光補正をして撮影しています。
- WBはオート、又は太陽光。
■アルバム用ポートレートを撮影するカメラの設定(学校撮影用カメラの場合)
- 「ポートレート」を微調整しています。
輪郭強調ノーマル
コントラスト-1
明るさノーマル
彩度ノーマル
色相+1 (Yを若干強めにする) - 絶対にアクティブD-ライティングをONにしないこと。
卒業アルバムのポートレートは、同一ページに40名程掲載します。そのためアクティブD-ライティングをONにすると、服装によってカメラが明るさ等をコントロールしてしまい、統一感の無い「明るさ」や「色味」になってしまいます。 - マニュアル露出モード使用し、モノブロックストロボのパラソル反射光で撮影。
- 露出は1/10の誤差まで露出計で追い込み撮影。
- 最初のカットに弊社独自のカラーチャートを写しこみます。
- WBは太陽光、又は5260K指定。
■スタジオポートレートを撮影する場合
- ピクチャーコントロールは、「ポートレート」をニコンのホームページよりダウンロードして使っています。
- RAW+JPG-Sで撮影。JPG画像は、お客様に写真をセレクト戴く時だけに使うものなので、「ポートレート」をそのままの設定で使用しています。
- WBはシルクグレーカードでプリセット。
- 像範囲設定は5:4モード。約2000万画素になる上、HDDも圧迫しません。ありがたい仕様ですね。
ホワイトバランスの調整はどうされていますか?
もちろんホワイトバランスも統一していますよ。イベントで写真を撮る時は、オートホワイトバランスは外しています。
例えば運動会の応援合戦。チームによって着ている「はっぴの色」が極端に違うことがありますよね。そんな時オートホワイトバランスだと、角度によって色が大幅に転んでしまうのです。ですから基本的に「太陽光」の設定で統一して、後でバッチ処理するようにしています。
オートによって色がまちまちになるより、特定の設定で撮って後から一括補正した方が、多くの写真を短時間で、手間も少なく、ある程度のクオリティを維持しながら補正することが可能です。だから雨が降りそうになっても、ホワイトバランスを変えないように、同行したフォトグラファーには伝えています。
外注の方のカメラまで設定をコントロールするのは大変ですね。
外で撮影する際、設定を統一出来そうな環境では、事前に撮影テストをして、設定のパラメータを決定しておきます。それを元に指示書を作り、外注フォトグラファーに渡す。さらに撮影に出かける前に、その場でフォトグラファーに設定を変えさせて、必ず私が設定に間違いが無いかチェックしています。たまにおかしな設定をしている人もいますからね。
外注のフォトグラファーさんも皆ニコンですか?
もちろん他社の人もいますけれど、ひんぱんに仕事をお願いするのはニコンユーザーの方です。またニコンを使うフォトグラファーさんには、ギャラの面でも優遇しているので、可能であればニコンに変えてもらっています。中には他社のカメラを処分して、全てニコンにしたという人もいましたよ。
「最適な対応」によって実現する、効率化と高品質。
アルバムの個人写真は、どのカメラで撮っているのですか?
驚かれる方も多いのですが、D3000を使っています。結構お気に入りなんです! このカメラ(笑)。
非常に軽くコンパクトなので、学校などで証明写真を1日1000枚撮っても苦になりません。バッテリーも1000人程の撮影ならば十分保ちます。最高で3000人ほど写せた事も有りますよ。証明写真は、被写体との距離が決まっていますよね。1枚ごとにレンズを大きく駆動させる必要が無い為、電池の消費も少ないのです。
D3000というとアマチュア向けのエントリーモデルといったイメージなのですが。
もちろん基本性能でいえば、上位機種に比べる事は出来無いでしょう。でも、先程お話しした、ピクチャーコントロールで設定をきっちりとすれば、ニコンのカメラは廉価な機種だからと言って、安い画作りになる訳ではありませんよ。
D3XでもD3000でも、3×4cmの証明写真であれば、さほど結果は変わりません。必要以上のクオリティにしない事によって、手間や負担を抑え、効率を上げています。そういえば先日、D3000の後続機・D3100が発売されましたね。あの価格であの動画機能はとても魅力的です。EXPEEDも「2」になり、AFも11点に増え、ホワイトバランスも良くなったと聞いています。是非とも購入したいですね。
学校で個人撮影をされる時など、カラーマネージメントなども行っていますか?
スタジオはもちろん、特定の光で撮影する場所では、きちんとカラーマネージメントを行っていますよ。多くの方はカラーチャートを使っていることでしょう。でもうちは私自ら作ったチャートで色を合わせるようにしています。
ところで先程RAWの話が出てきましたが、写真館の撮影でRAW撮影のメリットはなんでしょう?
画質はもちろんですが、私にとっては安心感が一番ですね。
「スタジオ撮影でも、カメラが良くなったからJPEGで十分!」と言う方もいます。でも私はスタジオ写真だけはRAWで撮って現像をしています。JPEGだと設定ミスをするケースがありますから。
またRAWであれば、現像の際に画質を落とさずイメージに近づけることが出来ます。修正・整形はあたりまえとお客様自身が考えている今、補正をしながら画質の劣化を極力防ぐには、やはりRAWでないといけません。
隈川写真館の仕事をサポートする、カメラ&アクセサリー。
お仕事上、随分多くのカメラをお使いになっていらっしゃいますが、カメラの購入頻度はどのくらいでしょうか?
カメラは毎年買っています。そしてだいたい3~4年で交換でしょうか。やはり良い技術は早く仕事に取り入れたいですから。
交換のスパンが短いと思われるかもしれませんが、デジタル化によって削減出来た費用を新しいカメラに回しています。現像代などの様に消費されるものではなく、仕事の質を上げる為の投資ですから、有意義ですよね。
他社のカメラも使っていらっしゃいますか?
私は基本、ニコンです。ただし一時期、他社の方が画素数で優位に立ったことがありました。RAWで撮る分には画作りに大きな不満も無かったので、他社も導入したのです。ただしD3Xが出て画素数の問題も解消されました。ですから今は、このD3Xがメインの機種になります。
D3Xの使い勝手はいかがですか?
満足しています。最近のカメラは本当に性能が良くなっていますよね。後続機のD3Sも高感度性能がすばらしい。定常光メインで撮りたいなどというスタジオではD3Sが最適かもしれませんね。うちは定常光よりストロボ光メインですし、解像度も重要視しているのでD3Xを使っています。
それにしてもD3Sの高感度性能はすごい。例えばキャンプファイヤーのシーンで、生徒が持ったローソクの光だけで、顔が明るくなっている状態も撮れてしまう。ISO12800でも十分にきれいな写真が撮れました。ただし、かなり遠くに有る自動販売機の光まで拾ってしまったのですが…(笑)。
ピアノの発表会などでも活躍しそうですね。
お気に入りのレンズなどはありますか?
ナノクリスタルコートは良いですね。黒い傘の出番が半減します。
例えば修学旅行。朝9時に京都の清水寺にて、門の前での集合写真となると、思い切り太陽の光が入って来るのです。傘でカットしなければいけないのですが、そうすると今度は背景の収まりが悪くなる。そんな時でも、ナノクリスタルコートを使えば、フレアやゴーストをかなり抑えることが出来ます。今度欲しいナノクリスタルコートは、新しくなるAF-S NIKKOR 24-120mm f/4G ED VRですね。D700にこのレンズを組み合わせれば、学校等の外撮影は大半をカバー出来ます。開放値が多少暗くても、ズーム全域で変化しないのは助かりますよ。
クリエイティブライティングシステムなどはお使いですか?
もちろん重宝しています。私がいつも使っているのはSB-800、600、400です。SB-900は確かに良いけれど、なにより大きいのが残念。外での撮影が多いフォトグラファーにとっては、とにかく小さい方が良いのです。メインはSB-800ですが、SB-600も非常にコストパフォーマンスに優れたワイヤレスストロボです。ちなみに一番好きなのはSB-400なんですが…(笑)。
林間学校で山道を登らなければならない。そんなケースではD90に18-70mmの軽いレンズをつけて、SB-400と組み合わせます。非常に取り回しが良いですね。しかも高価なシステムでは無いので、カメラを落としたりする様なトラブルが仮にあったとしても安心ですし。重いカメラやレンズだと、山道などでは、撮る以前に動きにくい。さらにSB-900を付けようものならカメラ自体の重心もずれて、あちこちぶつける原因になります。SB-400ならそのような事はありません。ところで、私が「SB-900は大きい」と言ったのがニコンに聞こえたからでしょうか。コンパクトなSB-700が発表になりましたね(笑)。小さいのに多機能な点が魅力です。
最近のカメラはハイビジョンの動画撮影も出来るようになりましたね。
動画に関してはいかがですか?
是非やりたいと思っていいます。明るいレンズに大きなCMOS。これからはボケ味のきれいな動画がスタンダードになって行く事でしょう。
例えば、今までのスタジオ撮影では壁の前でポーズをしたシーンだけでしたが、スチールとは別にお客様がお店に入って来るところから、着付けをし、実際に撮影をされる過程を動画にするのも面白いと思います。それを写真とパックにして販売する。と言うのも良いですよね。