第72回ニッコールフォトコンテスト

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自由部門(組写真)

金賞
銀賞
銅賞
入選
応募点数 4,240点
講評 小林 紀晴

講評 ニッコールクラブ アドバイザー 小林 紀晴

写真の向こう側で物語が動いていている

 今年も多くの組写真の応募をいただきました。私は組写真を拝見する時間がとてもすきです。同時にかなり時間と労力を要することもでもあります。何故なら、作者が意図していること、テーマ、コンセプトとしてかかげていることを読み取るのに時間がかかることがあるからです。複数の写真を並べ、ストーリーを構築し、観る者の感情を揺さぶったり、ときに気付きを与える。けっして簡単なことではありません。
 上位に入賞された方々の作品は、題材もテーマもまったく別ですが、しばらく拝見しているあいだに、ある共通項の存在に気がつきました。それは確実に写真の向こう側で物語が動いていたり、うごめいているということです。そのほんの一角を見ている気持ちになります。使い古された例えですが、氷山の一角だけがちょこんと顔をだしていて、その向こう、手の届かないところに物語がこの瞬間も繰り広げられている。そんな気持ちさせられました。
 金賞には吉村 俊祐さんの「女子旅」という作品が選ばれました。奥様とお子さんをモデルにした作品です。現実の世界を捉えていますが、幻想的な要素を含んでいます。ご自身が見た夢を再現したかのようにも感じられました。現実とそうでないものの「あわい」が強く感じらたからです。ここにもやはり氷山の一角だけが露呈しています。親子「女子旅」がいったいどこへ地に向かい、どんな会話が交わされ、目的は何であるのか。それらは一切わかりません。だからこそ想像が膨らみます。私は勝手に「海に触れに行く」のが目的だと解釈しました。
 銀賞に選ばれました洞筒 雄太さんの「丘で迎える夏」にも同じことがいえます。被写体は北海道の雄大な風景、そこに生息する野生動物、さらに人物のシルエット。こちらは兄弟でしょうか、幼い子供たち。さきほどの「女子旅」と何もかも大きく違います。それでも、私たちの手の届かないところで、いまも物語が繰り広げられている。そんな気持ちにさせられます。どちらも作者のなかに明確なイメージやストーリーがあって、それに基づいて、写真が撮られたり、セレクトされたはずです。数枚という制約がありながら、さまざまな可能性が組写真にはあることを感じさせてくれます。それぞれの宇宙が広がっています。
 銅賞に選ばれました土岐 令子さんの「ノスタルジー」という作品も、とても印象に残る作品でした。3枚という少ない枚数でありながら、さまざまなことを想像させてくれます。廃線になりかけた路線が地域の方たちの熱意で存続しているとのことです。その事実を知った上で拝見すると、2枚目の駅員さんの写真はいろんな感情を呼び起こします。果たして、これまでどのような人生を歩まれてきたのだろうか、何を想っているのだろうか。そして、これからのこと。次々と連想させられます。
 改めて全体をみると、やはり最後は人の感情、その行方といったものにたどり着きます。動植物や風景をとらえた作品でも同じことがいえます。それらに対峙したときの作者の心の動き、興奮といったものが、ダイレクトに伝わってくるかどうかが鍵になるからです。ひとことで言えば、人の体温に人は心を動かし、動かされるということでしょう。