第71回ニッコールフォトコンテスト
ニッコール大賞 | |
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推選 | |
特選 | |
入選 |
応募点数 | 1,108点 |
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講評 | 小林 紀晴 |
思春期特有のナイーブな心境やまなざしが作品に表現
数年前「TopEye」の審査をしばらくやらせていだだいておりましたが、そのころのことを思い出しながら拝見しました。そのためか、少し懐かしい気持ちにもなりました。何故なら思春期特有のナイーブな心境や、ささやかな出来事へのまなざしといったものを作品のなかに見つけることができ、ハッとさせられたからです。
ニッコール大賞には高校生の柳生陽音さんの「青い世界の僕たち」。タイトルの青にはさまざまな意味が含まれていると感じます。実際に作品全体がかなり青みを帯びています。高架下には二人の同世代と思われる青年が二人。もしかしたら一人は作者かもしれません。そんな想像が働きます。手前の水面には二人の姿がゆらぎ、心もとなさを強調しています。彼らには本当に世界が青く見えているのかもしれませんし、甘美な青春なんて言葉が入る余地すらないのかもしれません。「まるで僕たちしかこの世界にいないと感じるほど静かでした」と撮影メモにはありましたが、ある種のリアルさ、切実さをもって感じられました。
推選には15歳の金野理子さんの「春来」という作品が選ばれました。撮影メモには「新春到来」とだけありました。お正月のことをさしているのでしょうか。詳しい状況はそれ以上わかりませんが、何故か目が離せない作品でした。冒頭でも触れましたが、ささやかな出来事へのまなざしを強く感じるからです。正確にいえば何も出来事が起きていないともいえます。それでも作者が柴犬へ向けるまなざし、そして自身の手の中にあるタンポポの種が飛んでいくさまから、心の内に触れることができるから不思議です。おそらく作者も簡単には言葉にできない感情が内に溢れているのではないでしょうか。写真というメディア特有の表現がここに成立していることを実感します。てらいない撮り方がより、それを感じさせます。
特選には松本 朔さんの「西と東の不思議な地」。香港を題材にした作品ですが、タイトルからもわかる通り、その狭間で揺れる姿を新鮮な目線で撮影しています。外の世界に触れながら、自身の心の内にも触れているさまが映っています。同じく特選には16歳の寺門美咲さんの「バイバイおばあちゃん」という作品。遠く離れた場所で暮らす祖母の葬儀を中心に撮影したものです。どこか浮遊感があります。同時に祖母の死を自身でどう受け入れていくのか、その心の過程を感じます。なかでも祖母の部屋を撮った一枚にそれを強く感じました。一見、何でもない写真が強く響いてくるからです。普遍的な一枚ともいえるでしょう。同じく特選に入った18歳の加藤春樹さんの「源兵衛川の夏」。富士山の伏流水を源流とした川ですが、そこに憩う人々の姿が大胆なフレーミングにより表現されています。水面ギリギリのローアングルや逆に俯瞰のアングルなどで工夫されています。何よりその場の空気感が見事にとらえられています。素敵な作品です。
ほかにも学園生活での一コマなどを撮影したものなど、素晴らしい作品がありました。全体の印象としては、コロナ禍ではマスク姿の写真ばかりで、正直閉塞感がいなめませんでしたが、ここに来てその呪縛から解放された感覚を強くおぼえます。このことを、大変うれしく思っています。いつの時代でも若者こそ、果敢に外界に触れるべきだと思うからです。これからも積極的に外へ、そして同時に心の内に向かい、写真を通して自身に向き合っていただけたらと願っています。