第71回ニッコールフォトコンテスト
応募点数 | 11,342点 |
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講評 | 佐藤 倫子 |
作者の感情をいかにシンプルに表現できるか
ニッコールフォトコンテストに入賞された皆さま、おめでとうございます。今年も数多くの力作が応募され、今回の審査も白熱した時間となりました。
カラー写真というのは多岐にわたりますが、何より感情を表現しやすく、視覚的なストーリーを強調できるのが魅力だと私は思います。その色使いは見る側に感情や物語を伝えます。
ニッコール大賞に輝きました中井秀樹さんの「Resonance(共鳴)」は、まさにカラー写真で見せる感情、ストーリーを見事に表現されている作品だと思います。4枚の組写真それぞれのトーンが綺麗に写され、落ち着いた空気感を作り出しています。モデルを使ったスタジオでの撮影とのことですが、室内もクラシックな洋館を上手に使い、自分がイメージした世界観を表現されています。限られた一日の中で同じスタジオという舞台でバリエーションを考え組まれていることも優れている理由のひとつでしょう。また直接的ではありますが、本の演出を用いて文学的な匂いを淡々と写し出すことで、物語を視覚化しています。異国情緒のある雰囲気を、洋館、外国人 などの要素を巧みに使い表現できています。そしてこの作品の面白みは、いわゆるコンテストに応募する写真としてこれでもか! と気負った作品でないように感じるところ。もっとスマートで、自然な気持ちが、伝わってきました。
推選の岡本早苗さんの「カメラと暮らす」は、徳島県の山間部の2軒しかない集落に一人で暮らす女性の組写真ですが、心情というものを3枚の写真にぎゅっと詰めたことが痛いほど伝わる写真です。亡き夫が残していったカメラを大切に持っている女性の健気なそして愛ある気持ちに、込み上げるものがありました。よくまとめて組まれており、写真から女性の生活、息遣い、心にある大切なものが写真となり写し出されている作品です。
特選の高橋海斗さんの「Shishmaref」は写真家・星野道夫氏に憧れて、星野氏が滞在していたアラスカのシシュマレフで撮影してきた組写真。ドキュメントと詩的を混同した作品といえるでしょう。写真から星野氏への敬意が伝わってくるようで、その写真隅々に星野氏の痕跡が感じられます。もちろん、作品は、作者が現地で、そこの空気や景色を自身の目を通して感じたものですが、何か星野さんの視点と重なる錯覚を覚え、不思議な感覚になりました。1枚目の海の写真を他の3枚とは全く違う画角に変えたものにした点からも、これからの高橋さんの成長を期待して行きたいと感じました。
このように感情をどう作品に写し出すかが、カラー写真の魅力でもあり、難しさでもあるでしょう。ですが、今回入賞した作品全体を通して思えることは、感情を伝えるため重要な要素、構図、色を作者の想いにシンプルで欲張らずに表現されていた作品が一番写し出せていたのではないかと思いました。
今のカメラやレンズは性能がとても良いです。写真に表現することをあまり難しく考えず、何を伝えたいかをはっきりとブレずに作り上げれば、心を揺さぶる写真を誰もが作り上げることができるでしょう。
来年のコンテストもまた楽しみにしております。