第67回ニッコールフォトコンテスト
応募点数 | 17,213点 |
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講評 | 大西 みつぐ |
カメラを通して未来を見つめる
民俗学では「ハレ」と「ケ」というとらえ方があります。また「ケガレ」という分類も出てきます。そうした循環の下に私たちの暮らしは成り立ってきました。年に1回のニッコールフォトコンテストの作品を拝見しますと、特にこのカラーの部において、そうした古来より続く、日本人の生活リズムといったものを感じさせる作品が、多く寄せられているように思えます。
入賞作品を俯瞰しますと、ハレの日である地域の祭りや歳時記といった作品に対し、いわば「日常」といえる、静かで穏やかな時間が写された作品がきれいに混在しています。それらはすべて、皆さんの暮らしの中における実感であり、ひとつの庶民史を記しているのだと感じています。そこに私たちの愛や夢や希望といったものが、いかに描かれているのか、写真を拝見する私たち審査員の共通した見方がそこにあります。今年は元号が新しくなったためか、「前に向かって歩んでいく!」といった作品が目立ったことやU-31世代の熱心な作品が力を持ってきたことなど、うれしい場面にたくさん支えられながら、審査をさせていただきました。
ニッコール大賞は吉村俊祐さんの「ヒトスジの想い」。2枚組という難しい構成に挑戦された、大胆で美しい作品です。アニメーション作家であり、映画監督としてヒット作をつくる新海誠さんの「君の名は。」や「天気の子」などの世界観を彷彿とさせるものがあります。現実を直視しながらも、幾ばくかの希望をそこから見出していってほしいという願いや、子どもたちに託していく私たちの真っ当な意思を確認せずにはいられません。地球環境、政治、経済、社会を超越していく宇宙的、神秘的なイメージが魅力です。
推薦は遠井信行さんの「日暮れまでに」。一見しますと、淡々と農作業を終えようとする姿が写っています。しかし渡良瀬遊水地のヨシ原は、自然環境の浄化という問題や古来よりこのイネ科ヨシ属の多年草と、私たちが共に生きてきたことを知らせています。色調を統一させ、情報量を抑え、日本の農・風土における原風景として提示されています。特選・U-31賞となった鈴村雄誠さんの「生きる場所と死ぬところ」は、最近よく知られるようになったフィリピン・マニラの墓地で暮らす人びとをとらえた組写真です。経済や貧困の問題にも行き着く内容を含みながら、奥深いドキュメント写真としての可能性を感じます。同時に、若い世代のカメラマンならではの「とりあえず、なんでも見てやろう!」という積極性がよく出ている作品です。
特選、山中健次さんの「宿題」と有田 勉さんの「祭りの青年」は、それぞれ単写真としての力強さを発揮しています。それは「何気ないひととき」ではなく、そこに写った少年や青年の未来といったものを、この写真から連想していく豊かさがあるからです。それらはニッコール大賞の作品にもつながります。私たちが写真を通して築き上げていきたいイメージは、そのようにすぐ近くにあるということが、上位入賞作品はもちろんのこと、入選作品にもきら星のごとく見いだせるはずです。
その入選作品の一つ、内藤歌子さんの「7年目の夏空」にかつてのニッコールクラブ顧問であり私たちの友人だった、故・管 洋志さんの遺影が写ったカットがありました。管さんが夢見た写真の未来を私たちは今生きています。そのことを受け止め、さらに真摯にカメラとレンズで世界と人間を探求していきたいものです。