みなさんは手話という言葉をご存知だろうか。
手話は「手で話す」と書くため、手だけを使う言語だと思われがちだが、身体はもちろん、顔のパーツひとつひとつがよく動く。そしてそれら全てに意味があり、手の形よりも大切な言葉がそこには隠されている。
そんな言葉に触れるうち、僕は世界のちょっとした秘密に気がついた。
すごく嬉しかったことやとても辛かったことはしっかり覚えているのに、
ほんの少し楽しかったことやちょっと落ち込んだことはすぐに忘れてしまう。
何もないと思っていた日常は、そうした忘れていく小さな感動の連続だった。
自分でも気づかないぐらいの、ほんの一瞬、
少しだけど、たしかに心が動かされていたはずの光景。
いつしか僕は、そんな一瞬を誰かと共有したくなった。
消えゆく言葉を、紡ぎ視た世界は、
いつもより少し、色づいて見えた。
(栗田一歩)
1987年 京都府生まれ
2010年 手話と出会い学び始める。
2015年 手話という言語の撮影を始める。
2016年 手話通訳者の資格を取得。
2019年 現在も活動を共にしながら、彼らの声を撮り続けている。