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ニコンサロン写真展年度賞受賞作品展第20回三木淳賞 田川基成「ジャシム一家」

会期

2019年2月 7日(木) 〜 2019年2月13日(水) 日曜休館

10:30〜18:30(最終日は15:00まで)

開催内容

2012年、あるきっかけから、日本に住むムスリム(イスラム教徒)のバングラデシュ移民家族と知り合い、親しく付き合うようになりました。家族の父、シクダール・ジャシムさんは日本社会がバブルの絶頂にあった時代に来日し、建設や解体の現場で働いてきた人です。ジャシムさんと妻のディパさん、三女一男の家族は千葉県の郊外にある団地で暮らしています。田園が広がるその地域は、水と緑にあふれた母国・ベンガルの風景とも似ているせいか、バングラデシュや南アジア出身のムスリムの人々がゆるやかなコミュニティをつくり、建設業や中古車の貿易などの仕事をしながら生活しています。

ジャシム一家の暮らしには、われわれがムスリムに対して連想しがちな、熱心に毎日必ず五回礼拝するような姿はありません。郊外に住む日本人の家族と同じように車でスーパーに行って食材を買い込み、自宅でカレーを作って食べたあと、Youtubeやテレビを見て過ごす。お盆には団地の公園の夏祭りに出かけ、花火を観て夕涼みしたかと思えば、断食月が明けた朝には、近くにある日本家屋を改築したモスクで礼拝し、大勢のムスリムと一緒に祭礼を祝う。イスラムとバングラデシュという2つのアイデンティティを大切にしながらも、日本の言語や文化・風習にも親しみ、ひょうひょうと生きている。私はそのことにかえって移民の生活のリアリティを感じます。

彼らと過ごした時間は、想像よりもずっと静かで、淡々と流れていきました。それはたしかに日本でありながらも、どこか知らない場所にいるような、不思議で豊かな時間でした。この国に根を張り伸ばそうとしている彼らは、これからどのような未来を迎えるのでしょうか。いまは期待と少しの心配を胸に抱いています。(田川基成)
カラー47点

授賞理由

「そこに写っているのは、確かに日本の典型的な光景である。一寸異なっているのは、写真に写る人々が女性はサリーを男性はサロワカなどの伝統衣装を来ていること」。逆にそれは、「バングラデシュの家族を取材したドキュメンタリーである。しかし、その背景には典型的な日本の郊外が写っている。」と見ることも可能だ。日常の中に少しの違和が溶け込んだ日本の今をドキュメントした写真群であるが、どちらを中心に見るかによって、その違和の意味や位置付けが変わることを教えてくれる。

田川氏は学生時代からイスラム圏を旅行し、ムスリムの人達に接し関心を持つようになる。そして昨今の世界情勢から、日本における移民の問題に興味を持つようになった。そんな中、ムスリムのコミュニティにてバングラデシュ人の家族ジャシム一家に出会った。2012年からは、彼らの撮影が始まる。ステートメントには「この国に根を張り伸ばそうとしている彼らは、これからどのような未来を迎えるのでしょうか。いまは期待と少しの心配を胸に抱いています。」と書く。

「ジャシム一家」にとっては平凡な日常も、典型的な日本の社会の中では少し違和を感じさせる。同時に、それは日本社会の典型的な側面を浮き彫りにして止まない。日本は小さな島国であり民族の単一性という神話が根強い。今後はグローバリズムとローカリズムの狭間で様々な軋轢が生じる可能性もある。シリアの問題もロヒンギャの問題も、日本からは距離があるので切実さは無いが、今後そんな潮流も同じように話題に上る日が来るのかも知れない。
田川氏は、真っ直ぐな眼差しで、余り目立たないがしかしグローバルな世界に焦点を当てた。その、社会を等距離に見つめる視線には優しさも感じる。今後我々が目指すべき未来はダイバーシティを受け入れる社会であり、それを体現していて、また新人賞としての三木淳賞に相応しい新鮮さがある。全員一致でその評価を得た。(選評・佐藤時啓)


■最終選考に残った候補作品は次の通りです。
黑田菜月「わたしの腕を掴む人」
関 健作「OF HOPE AND FEAR」
田川基成「ジャシム一家」

プロフィール

田川 基成(タガワ モトナリ)

1985年生まれ。長崎県の離島出身。
これまでに暮らしてきた土地と旅を通して、移民や文化の変遷、宗教に関心を持つ。日本のイスラム社会のほか、故郷である長崎の海とキリシタン文化、日本のベトナム難民、北海道などをテーマに撮影している。現在、東京を拠点に活動中。

【経歴】
2018年 三木淳賞受賞(第20回)
2015年 東川町奨学生として第10期 International Summer School of Photography
    (ラトビア)に派遣
2014年 ブラジル・南米に1年間滞在
2013年 フリーランスとして独立
2011年 東京で編集者・記者として働く傍ら、写真作品を撮り始める
2010年 北海道大学農学部森林科学科卒業
2006年 陸路と船でユーラシア大陸を横断。イスラム圏に長期滞在する

【写真展】
2018年「ジャシム一家」(札幌市教育文化会館) 個展
2017年「ジャシム一家」(銀座/大阪ニコンサロン) 個展
2016年「Between the Rivers」(北海道・東川町国際写真フェスティバル) グループ展

https://www.motonaritagawa.com/

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