京都府北部に位置する丹後半島は、京阪神の都市部から車で2~3時間の距離にありながら、冬の厳しい気候と半島という隔離された地形により、独特の風土を残す土地柄である。昨今、全国どこに行っても開発が進み、同じような大規模チェーンの飲食店や量販店が立ちならび画一化した景観が目に入るが、丹後半島の海岸部に一歩足を入れると、そのような景色はおろか、コンビにすら稀である。
舟屋で有名な伊根町には魚屋は一軒もない。毎朝、定置網の漁船が港に帰ってくると水揚げが始まり、地元の人たちがバケツを持って魚を買いに集まってくる。定置網漁は伊根町の重要な産業であるだけではなく、住民の生活の一部として深く根付いている。冬の定置網漁は過酷である。毎朝、夜明け前に出漁して、4~5mの波の中を漁場に向かい網を引く。また、この地域では過疎、高齢化や嫁不足の問題なども抱えている。しかしながら丹後の人々は朗らかで暖かい。厳しい自然環境の中での暮らしぶりに触れ、かつて日本中どこにでもあった人間らしい暮らしぶりや、生きることの原点をも考えさせられる。
そんな冬の丹後半島を、1980年代から撮り続けてきた。1980年代当初は、「冬の漁場」、「冬の漁村」といった題材は一般的で多くのカメラマンが扱った題材であった。作者も単にフォトジェニックな題材として表面的にとらえていた。しかし、時代が変わり、世の中の流れが、都市部の生活、若者文化、大企業の効率主義などに偏向し一極集中するなかで、最近では「もう一方の現代日本」との意味合いも考えながら撮り続けている。(山崎秀司)
1955年島根県生まれで現在兵庫県在住。半導体メーカーのエンジニアとして勤務するかたわら1982年頃から写真活動を始める。当初の約10年間は写真集団 忍冬社に参加し、故 関本寿男先生に師事。
その後、カメラ雑誌月例コンテスト等を中心に写真活動を行ない、冬の山陰から北陸にかけての漁村・漁場などで人々の暮らしぶりをメインテーマとして撮り続ける。
【主な活動】
受賞歴:1989年フォトコンテスト誌(現在のフォトコン誌)黒白写真部門年度賞1位、2006年アサヒカメラ誌モノクロ部門年度賞1位、2009年日本カメラ誌カラープリント部門年度賞1位、2009年フォトコン誌自由作品部門年度賞1位、2011年フォトコン誌モノクロ作品招待席年度賞1位、1995年ニッコールフォトコンテスト準推薦、1997年毎日写真コンテスト文部大臣賞、2006年エプソン・フォトグランプリ年間準グランプリ、国際写真サロン(全日本写真連盟) 審査員特別賞3回・入選7回 など
個展:2009年 「入賞作品展」(ぎゃらりー&喫茶やまだ)