「木々が鬱蒼と茂る、未開の地」。熊野を表現する有名な言葉だ。温暖多雨が育てた森と、そこから流れでる川。「開発」という忌まわしい言葉がまだなかったころ、この言葉通りの場所は日本のいたるところにあった。人間は里山に助けられ、多くを学んできた。本来の意味でのライフラインを自然の中で人間たちは共有してきたのだ。
熊野は、そのような本来あるべき形をいまなお残している。その反面、悲しいことに、「過疎化」という言葉が熊野全体を覆い尽くしている。
作者である横野雅久氏は、三十年間ほぼ毎年ここを訪れた。氏はファインダーを通して、熊野をどう捉えてきたのだろうか。その答えは、今回の写真で見つけることができるだろう。見方、感じ方は人それぞれだが、少なくとも、今回の氏の熊野との再会は、新たな発見があったはずだ。いや、それとも、「また出会えたね」という安堵感だけかもしれない。その安堵感は、自然が破壊されず、その裏に隠された熊野の尊厳を確認して得られるものだ。時間と空間の軸を超越して結実した三十年の邂逅であるこれらの写真群は、観る者の心を必ずわしづかみするはずだ。(作家/織江耕太郎)
1962年 東京都港区出身
事故で身体障がい者となる。
5年ほど前から独学でカメラを始める。
現在使用しているカメラは、D7200。