僕の生まれた島根では郷土芸能が盛んで、秋には夜を徹して神楽が奉納される。この『石見神楽』には、演目に合わせた様々な神楽面がある。日本では木彫りによる面が多い中、和紙の面を使ってこれほど盛大に舞い踊られる神楽は他に例を見ない。面の絵付けでは対峙するキャラクターの違いによって、シンクロするように制作者の表情も変化する。その様子に魅了され気づけば足繁く工房に通い鬼・神・姫など向かう対象によってさまざまな表情を見せる制作工程を子供ながらに見守っていた。 今回は数十年ぶりに今なお健在な作家と2代目となる息子さんが制作する工房を訪ねた。神楽面に魂を吹き込む瞬間をはじめとした制作仕事における、親子それぞれの作家の表情を時間が許す限り撮影した。同時に、製作された面をつけた演目のキャラクターのポートレート撮影も行った。島根県浜田市には誇れる伝統工芸品が受け継がれ、見る者を魅了する素晴らしい郷土芸能があることを、この作品で触れて頂きたい。 (河野 英喜)
1968年島根県出身。独学にて写真を習得。1990年有限会社アドフォーカス入社。1992年よりフリーとして23歳で広告・ファッション誌を中心にプロフォトグラファーとしての活動を開始する。その後、女優や俳優、各界のアーティストなどの撮影に携わり、数多くの写真集を手掛ける。出版された写真集・書籍類は150冊を超す。またライフワークでフィルムによる伝統工芸職人のポートレートなどを撮影している。公益社団法人日本写真家協会(JPS)会員。