ローカルトレイン

いままでどれくらいの人々を送っては迎えてきたのだろう。
駅や車内に響き渡る楽しげな声や、移りゆく車窓に映る物憂げな眼差し。
その土地の匂いと乗客の数ほどある想いを乗せて走るローカル列車が私は好きだ。
変わらぬ日常と過ぎ行く時間を刻み続ける二条の光が、いつまでも絶えることの無いように……。
そう願いながら、今日も線路際でシャッターを切る。

  • 0108

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    キハ47形
    兵庫県 山陰本線 鎧~余部

    カメラ:D7500 画質モード:RAW(14-bit) 
    撮影モード:マニュアル、1/2.5秒、f/5.6 
    焦点距離:480mm ホワイトバランス:白色蛍光灯 
    ISO感度:ISO 6400 ピクチャーコントロール:ビビッド



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    無人駅と最終列車の共演

    兵庫県香住区の山陰本線に鎧という無人駅がある。日本海の荒波が生んだ美しいリアス式海岸の入江に佇む小さな漁港を見下ろす海辺の駅で、ドラマや旅行ポスターの舞台となったことでも有名だ。だが、普段は乗り降りする人もまばらな地方ローカル線の無人駅というひなびた趣を見せる。私は山陰本線の撮影に行くと必ずと言ってもいいほどこの鎧駅に立ち寄る。ちいさな漁港とその集落に溶け込むのんびりとした「停車場」の雰囲気に郷愁を感じるからだ。この日鎧駅に到着したのは20時30分頃。完全な闇夜だったが、超高感度撮影が得意なD7500をAF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6 ED VRの相棒に選んだ。このカメラなら夜でも走り行く列車を写し止めることができる。 森の哲学者、フクロウの鳴き声に耳を澄ませているとそれをかき消すかのように最終列車であるキハ47形のディーゼル音が響いてきた。だんだんと大きくなる光が目の前を過ぎると列車は鎧駅に到着。そして程なく誰が降りることもなく鎧駅を出発した。列車の窓灯りを頼りにD7500がキハ47形の動きを予測して追いかける。先頭部がトンネルの入り口に差し掛かる瞬間にシャッターを押した。モニターに浮かび上がった作品を確かめると、人気の無いホームの寂しげな灯りとキハ47形の赤いテールライト、そして窓から扇状にこぼれる車内灯の光芒が何とも言えず美しい。再びフクロウの鳴き声が聞こえてくるまで、しばらくその光景の余韻に浸っていた。
  • 0208

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    C57形「SLばんえつ物語」
    新潟県 磐越西線 咲花

    カメラ:D5 画質モード:RAW(14-bit) 
    撮影モード:マニュアル、1/500秒、f/8 
    焦点距離:360mm ホワイトバランス:晴天 
    ISO感度:ISO 400 ピクチャーコントロール:ビビッド



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    桜を纏う鉄の貴婦人

    薄紅色の桜をみてワクワクしない日本人はいないだろう。桜はまさに日本人の心の花だ。鉄道に桜を添えて撮ることができる名撮影地はあまたあるが、磐越西線の咲花駅付近はその名のとおり駅の周りに様々な桜が咲き乱れ、訪れる人々の目を楽しませてくれる。 今年も春風に誘われた花人達が線路際に集まった。もちろん狙うのは「SLばんえつ物語」だ。駅近くの踏切からホーム横の桜を大きく入れて撮るのも良いが、桜と新緑に包まれるSL列車をイメージして、踏切からさらに100mほど後方の土手から超望遠レンズで狙うことにした。遠くの被写体を大きく写すだけが望遠・超望遠レンズではない。手前から奥までの風景を遠近感の無い圧縮した世界に表現するのもまた、望遠・超望遠レンズの技である。今回はその圧縮感を活かした構図を選んだ。焦点距離は360mm。超望遠ズームレンズのAF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6 ED VRだからこそできる絶妙なフレーミングだ。 汽笛が山々にこだますると、黒い煙と共に「SLばんえつ物語」がゆっくりと姿を現した。先頭のC57形はほっそりとしたボイラーが特徴で、そのシルエットの美しさから「貴婦人」とも呼ばれている。人々の羨望のまなざしを一身に集め、多くのカメラが向けられたその様は、まさに大女優の登場といったところだろうか。やがて長い汽笛の後、舞台から歩み出た「貴婦人」が嵐のようなシャッター音をかき分けてトンネルに消える。すると小さな駅は再び静寂を取り戻した。
  • 0308

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    C58形「SL銀河」
    岩手県 釜石線 陸中大橋~洞泉

    カメラ:D850 画質モード:RAW(14-bit) 
    撮影モード:マニュアル、1/640秒、f/8 
    焦点距離:450mm ホワイトバランス:晴天 
    ISO感度:ISO 800 ピクチャーコントロール:ビビッド



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    急坂を征する黒鉄の勇者

    鉄道写真を嗜む者にとって、車両を中心とした編成写真は順光で撮影することが基本だ。だが、私は蒸気機関車の撮影では少々違った見方をしている。側光や、時には逆光で撮影したほうが蒸気機関車の無骨なディテールが浮き出て「黒鉄の勇者」という二つ名にふさわしい貫禄を見せることができるからだ。 9月初旬、秋の気配を見せ始めた釜石線を訪れた。お目当てはもちろん「SL銀河」である。「SL銀河」は土休日ダイヤの1日目が下り釜石行き、2日目が上り花巻行きになるが、私は決まって2日目の花巻行きは洞泉駅と陸中大橋駅の間の勾配がきつくなる区間から撮影を開始する。徐々に勾配が上がるカーブをC58形機関車が黒煙を立ち上がらせながら登ってくる場所だ。編成写真も撮れる撮影地だが、私は超望遠による印象的なアップイメージで狙うことにした。光線状態は完全な逆光だが、私にとってはこれこそがベストコンディションである。 やがて汽笛とともに姿を見せた「黒鉄の勇者」は、力強いドラフト音を響かせながらゆっくりと私に向かってきた。ここぞとばかりに連写をスタート。すかさずモニターで撮影したカットを確認した。各部のディテールが立体的に表現され、ナンバープレートやヘッドマークのコントラストも素晴らしい。鮮やかで重厚感のある最高の一枚に仕上がった。 しかしながら最新鋭高画素機であるD850の高い解像感を余すところなく引き出す、AF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6E ED VRの描写力は脱帽ものである。
  • 0408

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    キハ54形「しれとこ」
    北海道 釧網本線 摩周~美留和

    カメラ:D810 画質モード:RAW(14-bit) 
    撮影モード:マニュアル、1/160秒、f/8 
    焦点距離:700mm ホワイトバランス:晴天 
    ISO感度:ISO 800 ピクチャーコントロール:ビビッド
    ※ AF-S TELECONVERTER TC-14E Ⅲを装着


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    夏を連れ去る列車

    北海道の道東を縦断する釧網本線。沿線には釧路湿原やオホーツク海など、北の大地の絶景が広がる全長約166kmの長大ローカル線だ。 この日も雄大な北海道らしい風景を求めて釧路入りしたものの、天気はあいにくの曇り空で、時おり霧雨も降る最悪のコンディションだった。抜けるような青空や広大な海をあきらめ、撮影地を求めて線路沿いを北に向かってひたすら車を走らせる。根釧台地の端にあたる摩周駅を過ぎ、釧網本線を越える国道243号線の跨線橋を通るとき、一瞬その風景が目に留まった。木々の間の坂を下るように線路がこちらに向かってくる。夏の終わりのためか緑に鮮やかさは無いが、湿度のあるしっとりとした空気感がなかなかの雰囲気だ。まさに悪天候様様である。ここだと思い、車からAF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6E ED VRとD810を取り出し、さらにAF-S TELECONVERTER TC-14E Ⅲも装着した。最望遠側(500mm)にズームして約700mm相当という超望遠で撮影すると、およそ700mもある緩やかな下り坂が極端に圧縮されて急に下っているようにも見える。このデフォルメ的表現こそが超望遠撮影ならではの醍醐味だ。 30分ほどして遠くの踏切の赤い警報信号が点滅を始めた。程なく現れたタングステンのヘッドライトに緊張感が高まるが、落ち着いてシャッターボタンに指をかけた。やがて風と共に列車は足元を駆け抜け、走行音が徐々に遠のいてゆく。まるで列車が夏をも連れ去ってゆくような、そんな切なさが美しく感じられるひとときだった。
  • 0508

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    209系
    千葉県 総武本線 物井~佐倉

    カメラ:D7500 画質モード:RAW(14-bit) 
    撮影モード:マニュアル、1/80秒、f/8 
    焦点距離:650mm ホワイトバランス:晴天 
    ISO感度:ISO 3200 ピクチャーコントロール:ビビッド
    ※ AF-S TELECONVERTER TC-14E Ⅲを装着


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    関東の鉄道ファンなら知らない人はいないというほどの名撮影地、総武本線の物井〜佐倉間、通称「モノサク」。特急「成田エクスプレス」を筆頭に様々な列車が駆け抜け、休日には必ずと言っていいほどカメラを持った鉄道ファンの姿が見られる。私も何かと行ってしまう場所だ。 この日も一通り撮影を終え、日が沈んだ頃にふと「この場所で超々望遠撮影したらどんな風に見えるだろう」と思い、AF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6E ED VRにAF-S TELECONVERTER TC-14E Ⅲを装着、さらにD7500の1.3倍のクロップ機能を使い超々望遠の世界を覗いてみた。この時の焦点距離はフルサイズ換算で約1267mm相当。これはもう想像の域を超えた超圧縮の世界だ。架線柱がまるで幾何学模様に見える。ちょうどその時、帰宅客を乗せた209系普通列車がヘッドライトを輝かせやってきた。
  • 0608

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    キハ110系
    山形県 陸羽東線 堺田〜赤倉温泉

    カメラ:D500 画質モード:RAW(14-bit) 
    撮影モード:マニュアル、1/40秒、f/5.6 
    焦点距離:500mm ホワイトバランス:晴天 
    ISO感度:ISO 1600 ピクチャーコントロール:ビビッド



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    秋晴れの撮影日和。撮影三昧の時間はあっという間に過ぎてしまった。「秋の日はつるべ落とし」とはよく言ったものだが、山間の峠はさらに日が暮れるのが早い。だが、まだまだこれからと次なる撮影地を探してうろうろしていると、ふと目に留まった風景があった。線路の両脇に穂が膨らんだススキが柔らかく生い茂り、その先には落葉松などの木々が鮮やかに色づく。日中は気にもしなかったが、時間と空気が変わると全く違って見える。そこで、この風景を一枚に凝縮するため、D500とAF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6E ED VRの組み合わせを選んだ。 光の青みが徐々に深くなる中、峠を下る列車が私の横を走り抜けた。ひんやりとした風と共に遠ざかる車内の灯りが妙に温かく感じた瞬間だった。
  • 0708

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    キハ110系
    山形県 陸羽東線 堺田

    カメラ:D500 画質モード:RAW(14-bit) 
    撮影モード:マニュアル、1/320秒、f/11 
    焦点距離:310mm ホワイトバランス:晴天 
    ISO感度:ISO 400 ピクチャーコントロール:ビビッド









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    秋も深まる11月初旬に東北の陸羽東線を訪れた。陸羽東線は宮城県の小牛田と山形県の新庄を結ぶローカル線で、奥羽山脈の山越えの絶景車窓が楽しめるとあってリゾート列車も走るほど有名な観光路線である。陸羽東線は新緑も素晴らしいが、やはり紅葉の時期は格別だ。撮影地として有名な鳴子温泉~中山平温泉は10時頃からの光がベスト。そこで朝は峠の駅である堺田で撮影を始めた。山に囲まれた駅だけあって、朝日がようやく顔を出したのは7時半過ぎ。柔らかな逆光に山間の小駅と線路際のススキが輝いている。そんな黄金色の舞台に峠越えの普通列車がやってきた。一日の始まりに心奪われる素晴らしい光景に出会えたことに感謝である。
  • 0808

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    キハ110系
    山形県 陸羽東線 中山平温泉~堺田

    カメラ:D500 画質モード:RAW(14-bit) 
    撮影モード:マニュアル、1/320秒、f/11 
    焦点距離:550mm ホワイトバランス:晴天 
    ISO感度:ISO 400 ピクチャーコントロール:ビビッド
    ※ AF-S TELECONVERTER TC-14E Ⅲを装着








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    撮影地では「あれもこれも同時に撮りたい」と思うことが往々にしてある。実はこの写真も前出の堺田駅の写真と同じ撮影場所から狙った、列車が駅に到着する前のワンシーンだ。朝の潤った大気に幾重にも重なる山肌が霞む。水墨画のような初秋の雰囲気が写欲をそそるが、駅の周りに輝くススキのカットも撮りたい。「二兎追うものは……」というがやはり美味しい風景を見ると同時に狙いたくなるのが写真家の心情。その欲望に応えてくれるのが超望遠ズームレンズならではの機動力だ。おかげで2つの美味しい鉄道風景をいただくことができた。

1975年生まれ。秋田経済法科大学法学部、東京ビジュアルアーツ写真学科卒業後、鉄道写真家の真島満秀氏に師事。鉄道車両が持つ魅力だけでなく、鉄道を取りまく風土やそこに生きる人々の美しさを伝えることをモットーに日本各地の線路際をカメラ片手に奮闘中。鉄道趣味誌や旅行誌の取材、各種時刻表の表紙写真を手掛ける。日本鉄道写真作家協会(JRPS)理事。(有)マシマ・レイルウェイ・ピクチャーズ所属

AF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6E ED VR

疾走する列車の決定的な瞬間を逃さず、
風景も美しく描きだす、
鉄道撮影に必須の超望遠ズームレンズ

AF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6E ED VRは、開放F値5.6一定で望遠200mmから超望遠500mmまでを1本でカバーする超望遠ズームレンズです。3枚のEDレンズにより色収差を効果的に抑えた高い光学性能で、優れた描写力を発揮。手ブレ補正効果4.5段※(CIPA規格準拠)のVR機構を搭載し、手持ちでの撮影にも幅広く対応できます。さらに高速で疾走する列車の流し撮りにも適したVRモード[SPORT]も搭載。また、電磁絞り機構による高精度な絞り制御により、高速連続撮影時にも露出が安定。新幹線など高速列車の決定的な瞬間を美しく描き切ります。

※ NORMALモード使用時。35mmフィルムサイズ相当の撮像素子を搭載した
デジタル一眼レフカメラ使用時。最も望遠側で測定。