毎夜毎朝(兵庫県朝来市)
「へえー。運がいいですね。」
雲海たなびく竹田城址で、滅多に言われたことのない台詞を頂戴した。天空の城・竹田城址は雲海の名所だが、去年はハズレ年で雲海があまり出ない中、2日連続で雲海に恵まれた私は、1日目は立雲峡から撮影。2日目は竹田城址公園と、連戦連勝の成績を収めた。「(ツキを)持ってない」自覚ありの私には快挙である。
立雲峡の受付にある、雲海が出た日に赤い○印をつけたカレンダーを見ても、花丸印はこの日を含めて、11月に3日間だけ。普通の○印も8日間だけで、あとは黒いバツ印がずらりと並んでいるのを見て、ゾッとしたのを覚えている。
自宅から往復6時間の日帰り遠征地で撃沈したら、メンタル弱めな私の心のダメージは大きい。無駄足を恐れていては傑作は撮れないと分かっていても、お目当ての絶景を、なんとか効率よく当てたいと計算高くなるせいで、毎年9月〜12月は、雲海ノイローゼに陥るようになっていた。
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明日の朝はどこへ行こう
亀岡、福知山、朝来、豊岡、奈良市、宇陀、野迫川、おにゅう峠、大野城……。遠いところで片道3時間ほどかかる撮影ポイント候補が、自宅から放射線状に位置しているので、あちらを目指せばこちらは行けず……と、四肢を八方に引き裂かれるような煩悶を覚える。毎夜、tenki.jp、yahoo天気、ウェザーニュース、GPV、Windy、気象庁のホームページ、各地のライブカメラを繰り返し検索し、閲覧しすぎて何が何だか分からなくなり気が狂いそうになることも。
実はそういう時は、どこを選ぼうと大した雲海は出現しないことが多いのだが、〝雲海出るかもノイローゼ〟なので、「やめとこう」という冷静な判断はできない上、目的地を決めきれず、結局、「夜中に起きて、最新の予報を見てから決めよう」と数時間後の自分に丸投げして床に就く。挙句の果て、目覚ましの音に気付かず寝過ごし、あれほど迷っていた遠方には間に合わず、近場一択になることも。
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一番無念なのは、好条件だけど睡眠不足過ぎて行けなかったのに、寝足りないはずの夜明け前に目が覚めるパターン。睡眠補給も中断されるし、行くには時間が足りず、でも気になるから、つい、布団の中で各地の状況を検索してしまう。
まずは現地のライブカメラを視聴。まだ真っ暗で何も見えないカメラもあるが、ジイっと目を凝らして推理する。竹田城址のライブカメラは大音量のCMから始まり、一緒に寝ている猫がビクっと目を覚ますので要注意だ。次は、付近の道路や河川のライブカメラ。続いて天気予報サイト提供のライブカメラ。気象庁のホームページで濃霧注意報が出ているかのチェックも忘れない。さらに、ツイッターやフェイスブックの最新投稿をチェック。そのうち空が明るくなるので、再び現地ライブカメラへ。
気が付くとネット徘徊で30分以上もスマホ画面を見ていたりする。ああ、もったいない。全くの無駄な労力だと分かっているのに、やめられないから悩ましい。
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そんなある日、某所でコスモスと朝日を撮っていたら、隣合わせたカメラマンが野迫川村のライブカメラを見始めた。幸い(?)、写欲を刺激される状況ではなかったようで、ほっとしている様子に、「同類だ!」と嬉しくなり、「それ、私もよく見ますけど、あそこは案外、確率低いですよね」と話し掛けると、「3日前はドラマチックだったみたいですよ。」と悔しそうなセリフが返ってきた。私、なぜか3日前はチェックしてなかったな。雲海、出たんだ。知りたくなかったな……。
ちなみに、今年(2022年)の竹田城址は11月に12連チャン雲海出現の当たり年。雲海カレンダーには、花丸印が並んでいる。
私も一度だけ雲海の立雲峡を訪問したが、毎朝ライブカメラで雲海を眺めていたせいか、ありがたみがなく、、ヤッター感はまあそこそこ。「うわーきれい!」と嬌声をあげる観光客の隣で、「もっと動きのある雲海だったらな」とか罰当たりなことを思ったりしていた。私の欲深さ、いや、求道心は健在である。
竹田城跡、立雲峡は、30〜40分の登り必須だが、9月〜11月は早朝の開門と同時に入場(有料)すれば、日の出に十分間に合うし、撮影場所は広く余裕がある。藤和峠はご来光と絡むが「お城感」は少ない。峠までは坂道なので凍結注意。冬場は冬用タイヤが無難。
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写真・エッセイ:星野佑佳
風景写真2023年1-2月号