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もっと撮り旅

「星に願いを」(沖縄県・西表島)

Z 7/NIKKOR Z 20mm f/1.8 S/f2.5/13秒/ISO3200/RAW(Ps/WB3800K/ニュートラル)/三脚/PL/'20年7月20日23時20分/沖縄県・西表島

「うちの猫です。」
2カ月に渡る写真展「絶景恋愛+」(2021年5月9日まで開催)で、この作品を解説する時の私の決めゼリフに、参加者は「ほぉー」と頷く。
「冗談です。イリオモテヤマネコです。」
私が訂正すると、「えーっ?」と驚きの声に代わる。「会えたんですね」「よくじっとしてましたね」などの感想が飛び交う中、「イリオモテヤマネコの銅像です」と告白すると、「なーんだ」と笑い声が響く。撮影時のネタばらしを始めると、皆さんの目がキラキラしてくる。本物のイリオモテヤマネコには滅多に会えないが、月齢と好天が合えば撮影可能な壮大な宇宙とイリオモテヤマネコ像。「今度、行ってみよう」と思った方もおられただろう。

今回の沖縄訪問は、サガリバナの撮影が目的だったが、新月前後の月齢に「天の川が撮れるかも」と、20ミリF1・8の明るいレンズを荷物に忍ばせた。何を絡ませようかと天の川が現れる方角を探し、この銅像を発見した時は「絶景、もらった!」と胸が昂ぶった。それから二日間、真夜中に宿を抜け出してはイリオモテヤマネコ像の前で何時間も座り込んで撮影する。西表の夜は真っ暗で、天の川の帯がぼうっと浮かび上がるのが肉眼でわかるほどだが、デジタルカメラで撮影すると、まるで爆発しているような星の塊に度肝を抜かれる。天の川と一緒なら、どんな前景でも絵になるが、夜空を背に猫を撮るイメージは、私がずっと抱いていた夢だったので感無量だった。

   *

もうずっと昔の月の美しい夜、家の前に近所の年老いた三毛猫がちょこんと座っていた。その足元から長く伸びる猫形の影法師。まるで月の光を吸収して老猫が若返っていくような不思議な光景で、慌ててカメラを探し、そーっと撮ろうと試みたが、三毛猫は私の姿をめざとく見つけてニャアと甘えながら近づいてきた。抱き上げて元の位置まで戻して「待て」と伝えるが、やっぱりニャアーンと追いかけてきて、ついにはゴロンと横になり、トドのような影になってしまい撮影を断念したが、その時に描いた夜猫のイメージは、ずっと頭の片隅に棲みついていた。いつか猫を飼ったら、しっかり躾けて……と夢見たものだが、それから幾歳月、猫とは縁があったものの、いざ飼ってみると、それどころではなかった。

まず、完全室内飼いなので、外に出るのは脱走した時だけ。そういう場合は、私の姿を見つけたら、逃げるか隠れるかの二択なので撮影のチャンスはない。月の夜の三毛猫みたいに近寄ってくるどころか、外に出た途端、脱兎のごとく走り去る。リードやハーネスも試したが、もがいた挙句すり抜けてしまう。私の夢はあっけなく破れ去った。

そんな私の前に、満月より難易度の高そうな天の川と猫が出現したのだ。狂喜乱舞するのは仕方なかろう。モデル体型で決めポーズのまま動かないイリオモテヤマネコ像は撮りやすく、周りに誰もいないから撮影位置も選び放題。カメラ2台体制で、ひたすら猫像と対峙し撮り続ける。ただし深夜でも車の往来はたまにあり、車から「この人、何をしているんだろう?」的な停車や視線を感じることも。暗闇になれない目では天の川に気づかないので、「真夜中にイリオモテヤマネコ像の前に座りこむ変な人」。さらには「危ない人」と思われるのか、皆、問いかけもせず走り去っていく。私も背中から「だれにも邪魔されたくない」オーラを全開放出して、車が止まろうが人が歩こうが振り向きもせず、この神秘的なコラボの秘密を守り抜いた。意地が悪かったかな?

   *

さて、余談だが、作品では星を眺める猫のイメージを描いたが、実はこのイリオモテヤマネコの顔はこっちを見ている。それを意識するだけで印象はガラリと変わる。星を見上げる優しげな猫もいいが、星を背負う神獣のような猫もまた魅力的である。

旅ノート

写真展では自然な情感ある作品を意識して、同時撮影したNIKKOR Z 24-200mm f/4-6.3 VRで、空の一部に薄雲がかかりフォギー調になったものを展示。連載では、NIKKOR Z 20mm f/1.8 Sで撮影分を現像し、星の色まで描写された迫力漲る夏の宇宙を表現してみた。

写真・エッセイ:星野佑佳
風景写真2021年7-8月号

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