– 自然を守る循環・生命の輝き –
アラスカでは、森も海も、生き物であふれている。 風景のどこをどう切り取っても命の豊かさに魅せられる。 しかも、他ではあまり目にしないような個性的な生き物も少なくない。 自然写真家として、強く惹き付けられる被写体ばかりだった。 撮影中に感じたのは、ここの動物たちは、あまり人を恐れないということ。 アラスカ州が自然保護を徹底しているためだろうか、 人間もいたずらに近づかず、ちょうど良い距離が保たれている。 おかげで動物たちも気ままに暮らすことができるのだろう。 およそ2週間にわたりアラスカでの撮影を続けるうちに、 自然の成り立ちについて、何となく分かってきたことがある。 それは人間が過剰に干渉しなければ、 生き物たちが思いのままに生きるだけで、命は循環するということ。 多様な生命はそれぞれが生態系の一員となって、豊かな環境を持続させる。 自然に守られ、自然を守る生命の輝きを、僕は夢中で撮影していた。
「ラッコ」
キナイ半島の南西部に位置するホーマーのハーバーで、ラッコがぷかぷかと海に浮いたまま気持ちよさそうに居眠りをしていた。仰向けの姿勢で風に少しずつ流されながらこちらに近づいてくる。ふと目をあけたとき、岸辺でカメラを向けている僕に気づいたようだったが、特に驚く様子もなく、またすやすやと眠りに入ってしまった。自由で豊かだが天敵に狙われることもある外洋にいるより、せいぜい人間が写真を撮って安眠をジャマするくらいの、穏やかな港にいるほうが安心で、居心地がいいのかもしれない。
<撮影の裏側で>
ときどき眼を開いたりあくびをしたりしながら、海面を流れていくラッコをカメラで追いかけ、ふと目が合った瞬間にシャッターを押した。被写体とフォーカスポイントが離れていると大雑把なピント合わせになりがちだが、D500は153点(選択可能ポイント55点)のフォーカスポイントで撮像範囲を広くカバーしている。そのため、ファインダー内で上下左右に移動するラッコに合わせてピント位置を微調整することが可能だ。おかげで正確にピントを合わせることができ、つぶらな瞳も、濡れた毛並みも、質感豊かに撮影することに成功した。
カメラ:D500 レンズ:AF-S NIKKOR 80-400mm f/4.5-5.6G ED VR 画質モード:RAW(14-bit) 撮影モード:絞り優先オート、1/2000秒、f/5 焦点距離:160mm ホワイトバランス:晴天 ISO感度:ISO 800 ピクチャーコントロール:ビビッド
「Seagull」
氷河を見に行くクルーズ船に乗って海を航行していたら、カモメがすぐ脇を同じ速度で飛んでいるのが見えた。とても気持ちよさそうに、凪いだ海面すれすれの高さを滑るように羽ばたいていた。これまではカモメを見て、遊んでいるように見えることなどなかったが、船と伴走して低空飛行している姿は、どう見ても海面すれすれの滑空を楽しんでいるようにしか思えなかった。空を飛ぶカモメの爽快さを、羽ばたきのスピード感で表現してみた。
<撮影の裏側で>
クルーズ船と並行して飛ぶカモメを的確に追い続けるため高速連続で撮影した。D500のAFエリアモードをグループエリアAFに設定しておくと、選んだフォーカスポイントの周囲のフォーカスポイントも使用して面で被写体を捉えることができる。動きの激しい被写体にも確実にピントを合わせてくれるので、ピントのことはカメラに任せっきりにして、撮影タイミングと構図に意識を集中できるのはありがたい。力強く羽ばたくカモメの躍動感が、翼のブレと流れる海面で表現できた。
カメラ:D500 レンズ:AF-S NIKKOR 80-400mm f/4.5-5.6G ED VR 画質モード:RAW(14-bit) 撮影モード:絞り優先オート、1/13秒、f/29 焦点距離:400mm ホワイトバランス:晴天 ISO感度:ISO 160 ピクチャーコントロール:スタンダード
「樹上の住人」
アラスカの森を歩いていると、ときどきリスが夢中になって何かを食べている姿を見かける。僕たちがその存在に気づかずにすぐ近くを通り過ぎようとすると、リスは慌てて遠くの枝に逃げてしまうのだが、暫くして安全を確認すると何事もなかったかのように再び食事を始める。餌を夢中でほおばる仕草は何とも言えず可愛いが、リスが大きな木の一部となって、木の実を一生懸命分解して大地に戻そうとしているようにも見えて、ちょっと不思議な感覚を味わった。
<撮影の裏側で>
雨が降ったり、やんだりのあいにくの天気。薄暗い森の中ではリスと木の区別がつきにくく、リス独特の可愛らしさが表現しにくいと思ったので、D5の高感度性能を活かしてISO 3200で明るく撮影した。ISO 3200どころか、ISO 102400までを常用感度としているのは、ニコン史上最高とのこと。しかも有効画素数2082万画素の高精細な画像で、リスの存在感がはっきりと表現できている。D5と出合って以来、暗い場所での撮影に躊躇することが少なくなった。
カメラ:D5 レンズ:AF-S NIKKOR 80-400mm f/4.5-5.6G ED VR 画質モード:RAW(14-bit) 撮影モード:絞り優先オート、1/125秒、f/5.6 焦点距離:80mm ホワイトバランス:晴天 ISO感度:ISO 3200 ピクチャーコントロール:スタンダード
「ビーバーカップル」
森に続く小さな池の水面に、波紋が静かに伝播しているのが見えた。波紋の先端をよく見てみるとビーバーのカップルが仲睦まじく泳いでいるのだった。静かな水面を、息を合わせて踊るように泳ぐつがいの優雅な姿がなんとも微笑ましく、心温まる光景だった。
カメラ:D500 レンズ:AF-S NIKKOR 80-400mm f/4.5-5.6G ED VR 画質モード:RAW(14-bit) 撮影モード:絞り優先オート、1/800秒、f/6.3 焦点距離:105mm ホワイトバランス:晴天 ISO感度:ISO 3200 ピクチャーコントロール:スタンダード
「トドとカモメ」
何やら獲物を捕らえて食べているトドのそばに、カモメがおこぼれをいただこうと近寄ってきた。獲物を食いちぎろうと水面で振り回しているトドの隙を狙って、あわよくば餌を横取りしようという企みだったようだ。
カメラ:D500 レンズ:AF-S NIKKOR 80-400mm f/4.5-5.6G ED VR 画質モード:RAW(14-bit) 撮影モード:絞り優先オート、1/1000秒、f/8 焦点距離:400mm ホワイトバランス:晴天 ISO感度:ISO 800 ピクチャーコントロール:スタンダード
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「短い夏の花」
カメラ:D5 レンズ:AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR 画質モード:RAW(14-bit) 撮影モード:絞り優先オート、1/640秒、f/3.2 焦点距離:62mm ホワイトバランス:晴天 ISO感度:ISO 320 ピクチャーコントロール:スタンダード
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「ラッコの大あくび」
カメラ:D500 レンズ:AF-S NIKKOR 80-400mm f/4.5-5.6G ED VR 画質モード:RAW(14-bit) 撮影モード:絞り優先オート、1/3200秒、f/9 焦点距離:400mm ホワイトバランス:晴天 ISO感度:ISO 800 ピクチャーコントロール:ビビッド
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「ハクトウワシの遠吠え」
カメラ:D500 レンズ:AF-S NIKKOR 80-400mm f/4.5-5.6G ED VR 画質モード:RAW(14-bit) 撮影モード:絞り優先オート、1/2000秒、f/8 焦点距離:400mm ホワイトバランス:晴天 ISO感度:ISO 1600 ピクチャーコントロール:スタンダード
夏のアラスカで、豊かに輝く生命に出合った。
生き物を撮るならアラスカ。中でも夏は、すべての生き物が活動期に入り、イキイキした素顔を捉えることができるベストシーズンだ。「THE PLANET」では風景を中心に撮ってきたが、今回は生命にフォーカスして撮影したいと思い、これまで訪れる機会のなかったアラスカに向かうことにした。僕の想いに応えてくれたかのように、2週間ほどの旅程だったにもかかわらず、予想以上に数多くの生き物に出合い、撮影することができた。ここまで豊かな命がアラスカに息づいているのは、人が住むすぐ近くまで野生の動物が住める環境があるからだと思う。もし、人間が住むことをやめれば、たちまちその土地は森に覆われ、さらに多くの命に満たされていくのだろう。僕は、力強い自然の恩恵に感謝しながら、動物たちの豊かな表情を写真に収めていった。
今回、主に使用したカメラは、DXフォーマットのD500だった。このカメラの何物にも代えられないアドバンテージは、ボディーのコンパクトさにある。撮影現場でもう一歩奥まで踏み込みたいとき、より高くまで登りたいとき、何の躊躇もなく歩を進めることができる。さらにFXフォーマットで使用する場合に比べて約1.5倍の焦点距離でレンズが使用できることも、望遠での撮影が中心となる生き物の撮影には適している。今回、D500との組み合わせで多用したAF-S NIKKOR 80-400mm f/4.5-5.6G ED VRなら、35㎜判換算で600㎜相当までの撮影が可能だ。僕の愛用するバッグに難なく入るサイズで、ここまで被写体に寄れるレンズは、まさに動物の撮影に最適だった。さらにD500はAF性能が高く、被写体にレンズを向けるだけで瞬間的にピントを合わせてくれる。これまで使用してきたニコンの一眼レフと操作性がほとんど変わらないのもありがたかった。初めて使用するときから、瞬時の判断での設定変更にも咄嗟に対応できた。カメラの進化が実感できた、アラスカへの旅だった。
高砂 淳二(たかさご じゅんじ)
自然写真家。1962年、宮城県石巻市生まれ。世界中の国々を訪れ、海の中から生き物、虹、風景、星空まで、地球全体をフィールドに撮影活動を続けている。最新作「Dear Earth」(パイ インターナショナル)をはじめ、「night rainbow」「yes」「ASTRA」「虹の星」「free」(以上小学館)、「PENGUIN ISLAND」「そら色の夢」「南の夢の海へ」(パイ インターナショナル)ほか著書多数。 ザルツブルグ博物館、東京ミッドタウン、渋谷パルコ、阪急百貨店など、写真展多数開催。海の環境NPO法人“OWS”理事
オフィシャルウェブサイト
http://junjitakasago.com/
facebook artist page
https://www.facebook.com/JunjiTakasago/
– 自然を守る循環・生命の輝き –
第12回 ロケ撮影機材リスト
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