– 生態系を支えるもの・命育む水 –
アラスカ州の南岸、アラスカ湾沿いでは、多種多様な生命が悠々と暮らしている。 ここで撮影した写真には、主役の生き物たちと一緒に、さまざまな形態の水が写っていた。 水は命と密接に関わり合い、命を支えている。例えば、極北の山に降った雪は氷河となって、 幾千年もかけて地表にある生命の元を地面から削り取り、海に注ぐ。 大地の養分が溶け込んで濃厚な命のスープとなった海には、プランクトンや魚が引き寄せられ、 クジラの餌場となる。氷河や川、海の源である水は命の連鎖の媒体となり、 たくさんの生き物を擁して循環してきた。あらゆる生命が活動する夏のアラスカで、 水が無数の命を運び、育んでいることを、改めてこの目で確かめ、写し出すことができた。
「夏のザトウクジラ」
冬のハワイで何度も撮影したザトウクジラたちが、夏にはアラスカに回遊していることを知識としては知っていた。個体の識別は僕にはできないが、ハワイで撮影したクジラがいるかもしれないと思うと、感慨深いものがあった。ザトウクジラは豊かなアラスカの海で、夏の間、たらふく食べ溜めする。秋が来ると、ハワイ諸島までおよそ4500kmを80日以上かけて移動し、冬の間は餌を食べずに繁殖行動や子育てに専念する。アラスカで見たクジラたちは、ハワイで見たときよりも全体的に物静かな印象で、ゆったりと潜行と浮上を繰り返していた。
<撮影の裏側で>
何度か海面に上がってくるザトウクジラを観察し、浮き上がってくる場所に当たりをつけた。構図を確認してD500のシングルポイントAFモードで153点(選択可能ポイント55点)のフォーカスポイントの中から1点を選び、再び海面に現れるのを待った。これまで海でクジラを撮影するときには、波に惑わされて手前の水面にピントが合ってしまうことがあるなどそれなりの苦労があった。D500は、おおよその場所にピントを置いておけば、海に潜る寸前の尾びれにも素早くピントを合わせてくれる。AF専用エンジンの効果でもあるのだろう、高度なAF追従性能により、決して逃せない瞬間の撮影にも安心して挑めるようになった。
カメラ:D500 レンズ:AF-S NIKKOR 80-400mm f/4.5-5.6G ED VR 画質モード:RAW(14-bit) 撮影モード:絞り優先オート、1/8000秒、f/10 焦点距離:400mm ホワイトバランス:晴天 ISO感度:ISO 800 ピクチャーコントロール:スタンダード
「水のさまざまな形態」
一口に“水”と言っても、自然の中で水は雲、雨、雪、氷河、川、滝、霧、水蒸気など多様な形態で存在している。今回アラスカの自然を撮影してみて、ひとつの風景のなかにいろいろな水が混在しているのに改めて驚かされた。この一枚の写真にも水が気体・液体・固体と姿を変えて存在しているのが分かる。雲が雨や雪となって地表に降り注ぎ、川から海へと流れ込む。地球上を水が移動することでそれぞれの場所に暮らす生き物や植物たちが生きていくことができるし、その水自体も命を運ぶ役目を果たしている。
<撮影の裏側で>
雲、雪、川、海と、ここでは水がさまざまな姿で、ひとつのシーンに揃っていた。さらに空や山など、異なる質感の被写体も混在している。手前の山肌は黒つぶれを、雪は白とびを起こすことを危惧したが、D5ならではの豊かな階調表現により、きめ細かなグラデーションできれいに描き出すことができた。ほとんどモノトーンの、ただ暗くなりがちな画面の中でも、多くの要素が忠実に描き分けられている。生態系を支えている水の循環を、この一枚に凝縮して表すことができた。
カメラ:D5 レンズ:AF-S NIKKOR 80-400mm f/4.5-5.6G ED VR 画質モード:RAW(14-bit) 撮影モード:絞り優先オート、1/1600秒、f/11 焦点距離:120mm ホワイトバランス:晴天 ISO感度:ISO 800 ピクチャーコントロール:スタンダード
「森の番人」
アラスカでは、ハクトウワシが周辺で一番高い場所にとまり、じっと周りを睥睨(へいげい)している姿をよく見かけた。町中でも最も高い電信柱にとまっているのを目にすることがあるが、やはり靄の立ち込める森を背景に高い木のてっぺんに佇む姿は絵になるし、周囲の景色にもピタッとはまる。ハクトウワシは、頭が白い毛に被われていることもあってか、遠くから見ても存在感に優れ、全身から威厳漂う独特の雰囲気を醸し出している。
<撮影の裏側で>
海を航行するフェリーから、森のハクトウワシを狙った。400㎜(35㎜判換算:600㎜相当)の望遠で狙っても、ファインダー内のその姿は小さく、シャッターチャンスはほんの一瞬だ。しかも海上を走るフェリーは、波に揺れて撮影を困難にする。こうした難しいコンディションでもD500にセットしたAF-S NIKKOR 80-400mm f/4.5-5.6G ED VRのVR機構(手ブレ補正効果4.0段※)の効果は絶大だった。フェリーが森の木にとまるハクトウワシの横を通り過ぎるその瞬間、小さな目標を捉えてピントを合わせた。森の番人として周囲に目を光らせる、凛とした姿を捉えることができた。
※CIPA規格準拠
NORMALモード使用時。最も望遠側で測定。
カメラ:D500 レンズ:AF-S NIKKOR 80-400mm f/4.5-5.6G ED VR 画質モード:RAW(14-bit) 撮影モード:絞り優先オート、1/4000秒、f/7.1 焦点距離:400mm ホワイトバランス:晴天 ISO感度:ISO 1600 ピクチャーコントロール:ビビッド
「滑空」
ハクトウワシは、翼を広げると2メートルにも達する巨大な猛禽類だ。眼光鋭く、嘴(くちばし)は鉤形(かぎなり)に尖っているので、小動物などは捕まったらそう簡単には逃げられない。威風堂々としたその姿は、僕の大好きな被写体のひとつだ。
カメラ:D500 レンズ:AF-S NIKKOR 80-400mm f/4.5-5.6G ED VR 画質モード:RAW(14-bit) 撮影モード:絞り優先オート、1/8000秒、f/7.1 焦点距離:400mm ホワイトバランス:晴天 ISO感度:ISO 1600 ピクチャーコントロール:スタンダード
「氷河と交わる水」
気の遠くなるような時間をかけて山から下ってきた氷河が、いよいよ海に合流する。そのとき、海面には氷河独特のブルーが映り込み、異次元の色調を醸し出す。それを船の作ったうねりが増幅し、美しい青の波紋となって広がっていった。
カメラ:D500 レンズ:AF-S NIKKOR 80-400mm f/4.5-5.6G ED VR 画質モード:RAW(14-bit) 撮影モード:絞り優先オート、1/2000秒、f/9 焦点距離:290mm ホワイトバランス:晴天 ISO感度:ISO 1600 ピクチャーコントロール:ビビッド
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「ザトウクジラの尾」
カメラ:D500 レンズ:AF-S NIKKOR 80-400mm f/4.5-5.6G ED VR 画質モード:RAW(14-bit) 撮影モード:絞り優先オート、1/2000秒、f/10 焦点距離:290mm ホワイトバランス:晴天 ISO感度:ISO 800 ピクチャーコントロール:スタンダード
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「森と水」
カメラ:D500 レンズ:AF-S NIKKOR 80-400mm f/4.5-5.6G ED VR 画質モード:RAW(14-bit) 撮影モード:絞り優先オート、1/1000秒、f/5 焦点距離:100mm ホワイトバランス:晴天 ISO感度:ISO 1600 ピクチャーコントロール:スタンダード
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「雪と水と氷」
カメラ:D500 レンズ:AF-S NIKKOR 80-400mm f/4.5-5.6G ED VR 画質モード:RAW(14-bit) 撮影モード:絞り優先オート、1/2500秒、f/9 焦点距離:100mm ホワイトバランス:晴天 ISO感度:ISO 1600 ピクチャーコントロール:ビビッド
夏のアラスカで、豊かに輝く生命に出合った。
生き物を撮るならアラスカ。中でも夏は、すべての生き物が活動期に入り、イキイキした素顔を捉えることができるベストシーズンだ。「THE PLANET」では風景を中心に撮ってきたが、今回は生命にフォーカスして撮影したいと思い、これまで訪れる機会のなかったアラスカに向かうことにした。僕の想いに応えてくれたかのように、2週間ほどの旅程だったにもかかわらず、予想以上に数多くの生き物に出合い、撮影することができた。ここまで豊かな命がアラスカに息づいているのは、人が住むすぐ近くまで野生の動物が住める環境があるからだと思う。もし、人間が住むことをやめれば、たちまちその土地は森に覆われ、さらに多くの命に満たされていくのだろう。僕は、力強い自然の恩恵に感謝しながら、動物たちの豊かな表情を写真に収めていった。
今回、主に使用したカメラは、DXフォーマットのD500だった。このカメラの何物にも代えられないアドバンテージは、ボディーのコンパクトさにある。撮影現場でもう一歩奥まで踏み込みたいとき、より高くまで登りたいとき、何の躊躇もなく歩を進めることができる。さらにFXフォーマットで使用する場合に比べて約1.5倍の焦点距離でレンズが使用できることも、望遠での撮影が中心となる生き物の撮影には適している。今回、D500との組み合わせで多用したAF-S NIKKOR 80-400mm f/4.5-5.6G ED VRなら、35㎜判換算で600㎜相当までの撮影が可能だ。僕の愛用するバッグに難なく入るサイズで、ここまで被写体に寄れるレンズは、まさに動物の撮影に最適だった。さらにD500はAF性能が高く、被写体にレンズを向けるだけで瞬間的にピントを合わせてくれる。これまで使用してきたニコンの一眼レフと操作性がほとんど変わらないのもありがたかった。初めて使用するときから、瞬時の判断での設定変更にも咄嗟に対応できた。カメラの進化が実感できた、アラスカへの旅だった。
高砂 淳二(たかさご じゅんじ)
自然写真家。1962年、宮城県石巻市生まれ。世界中の国々を訪れ、海の中から生き物、虹、風景、星空まで、地球全体をフィールドに撮影活動を続けている。最新作「Dear Earth」(パイ インターナショナル)をはじめ、「night rainbow」「yes」「ASTRA」「虹の星」「free」(以上小学館)、「PENGUIN ISLAND」「そら色の夢」「南の夢の海へ」(パイ インターナショナル)ほか著書多数。 ザルツブルグ博物館、東京ミッドタウン、渋谷パルコ、阪急百貨店など、写真展多数開催。海の環境NPO法人“OWS”理事
オフィシャルウェブサイト
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