– 水と風と光が刻んだ造形美・
大地のアート –
アメリカ大陸をクルマで走ると、 その雄大さを実感することができる。 どこまで走っても変わらない荒涼とした風景が 永久に続くような気がしてくる。 それでも走り続けると、ついには、 この世のものとは思えない絶景がいきなり出現する。 風が砂を運び、水が岩を削り、やがて緑が芽生える。 悠久の時間をかけて大自然が造形した奇観に、 太陽や月の光が差し込み演出する最高の光景。 大地と時が生み出した自然のアートを求めてクルマを走らせ、 出合いまでのプロセスを含めて味わうのが、 今回の旅のひとつの目的だった。
「光」
砂漠の岩に裂け目ができ、そこに鉄砲水が流れ込んで作った小さな峡谷“アンテロープキャニオン”。普段は暗い洞窟だが、太陽が一定の高さに昇ると天井の切れ目から細い光が差し込み、キャニオン内に舞う微細な砂塵に乱反射して光の筋が姿を現す。その線は太陽の位置が変わるにつれてあっという間に細くなり消えてしまうのだが、次の瞬間には別の場所に新たな光の筋が生まれたりもする。一筋の光が次から次へと生まれては消える様子はどこか儚(はかな)く、だからこそ美しい。自然の創り出す刹那(せつな)の光景に、おごそかな感動を覚えた。
<撮影の裏側で>
暗い洞窟に太陽の光が差し込むと、途端に岩肌の表情が際立ってくる。濃淡が折り重なるオレンジ色のグラデーションは神々しいほど美しく、天井から差し込む太陽の光が移動するにつれ、なめらかに変化する表情に目を奪われた。D5は、こうした岩肌の繊細な色合いや立体感を忠実に描写してくれた。細い光が空中の砂塵に反射して描き出したラインも、光が届かず影になっている部分も、白とびや黒つぶれが抑えられて独特の質感を醸し出し、ダイナミックレンジの広さが活かされていた。
カメラ:D5 レンズ:AF-S NIKKOR 16-35mm f/4G ED VR 画質モード:RAW(14-bit) 撮影モード:絞り優先オート、1/25秒、f/4.5 焦点距離:20mm ホワイトバランス:4000K ISO感度:ISO 5000 ピクチャーコントロール:ビビッド
「岩肌」
岩の裂け目に流れ込んだ鉄砲水は、そのなかを上へ下へと勢いよく流れ、長い年月をかけて岩肌を削った。水の力が、滑らかな曲面に囲まれた空間を創り上げたのだ。それはまるで、目の細かいサンドペーパーで丁寧に磨き上げた工芸品さながらに、造形的な美しさを放つ芸術作品だ。微妙に波打つ岩肌の凹凸が岩の隙間から差し込む光を受け、ナバホ砂岩独特の色のグラデーションに染まる。同時に岩の色そのものにも不思議な変化をもたらし、この世のものとは思われない、異次元のような空間を見ることができた。
<撮影の裏側で>
アンテロープキャニオンはアメリカ先住民のナバホ族居留地内にあり、“聖地”として大切に保存されている。また、鉄砲水が不意に流れ込む危険があるため、旅行者にはガイドの同行が義務づけられている。僕らについてくれたナバホ族のガイドは太陽が差し込むタイミングを的確に教えてくれるのだが、その光はわずかな時間で消えてしまう。撮影中の洞窟は薄暗く、周りの人が三脚を用意しているなか、僕は感度を2〜3段上げて手持ちで撮影をはじめた。それでもD5の優れた高感度性能のおかげで、刻一刻と移り変わる光景を鮮明な画像として捉えることができた。
カメラ:D5 レンズ:AF-S NIKKOR 16-35mm f/4G ED VR 画質モード:RAW(14-bit) 撮影モード:絞り優先オート、1/50秒、f/5.6 焦点距離:16mm ホワイトバランス:4000K ISO感度:ISO 6400 ピクチャーコントロール:ビビッド
「風のアート」
「デスバレー」という名の国立公園がある。日本の長野県と同じほどの広さをもつ、全米最大の国立公園である。1年間の降雨量ゼロ、最高気温56.7℃(世界最高)という記録を持つこの地には、“死の谷”と呼ぶにふさわしい荒涼とした砂漠が広がる。そんな公園内に何カ所か、非常に美しい砂丘が存在する。その女性的で美しい造形は、厳しい環境の中にあって、訪れた者の心を和ませてくれた。その砂丘を吹き渡る風が、撮影するために歩き回ってできた僕の足跡を消しながら、地表にあるゴツゴツしたところを少しずつ滑らかにしていく。地球がもっと優しい形になるように、吹きならしてくれているようだった。
<撮影の裏側で>
デスバレーの乾燥しきった砂丘にちょっとでも風が吹くと、途端に砂埃が舞う。普段なら撮影を中断し、カメラを服で覆って砂から守りながら風が通り過ぎるのを待つのだが、この時はD5の防塵性能を信じて撮り続けた。シャッターを押す僕自身は、細かい砂が目や口の中に入って大変なことになっているのに、とうとう最後までカメラが音を上げることはなかった。どうやらD5の防塵性能は、僕ら人間よりも数段優れているようだ。
カメラ:D5 レンズ:AF-S NIKKOR 80-400mm f/4.5-5.6G ED VR 画質モード:RAW(14-bit) 撮影モード:絞り優先オート、1/1250秒、f/9 焦点距離:250mm ホワイトバランス:晴天 ISO感度:ISO 400 ピクチャーコントロール:スタンダード
「巨大な蛇行」
川は、気の遠くなるような時間をかけて地形を変え、進路を変えて流れる。地質や地形など、さまざまな条件がホースシューベンドの不思議な蛇行を創り上げたのかもしれない。それにしてもあまりにも見事な風景に、初めて対面したときは言葉を失い、ただただ見とれるばかりだった。
カメラ:D5 レンズ:AI AF Fisheye-Nikkor 16mm f/2.8D 画質モード:RAW(14-bit) 撮影モード:絞り優先オート、1/1600秒、f/11 焦点距離:16mm ホワイトバランス:晴天 ISO感度:ISO 200 ピクチャーコントロール:ビビッド
「時間の凝縮」
セコイア国立公園に群生する巨大なセコイアは、樹齢3000年にも達すると言われる。何かのきっかけで折れたり、倒れたりした巨木の一部はそのままの状態で生き続け、その年輪には、永遠の時間が凝縮したような不思議なうねりが浮き上がる。
カメラ:D5 レンズ:AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR 画質モード:RAW(14-bit) 撮影モード:絞り優先オート、1/250秒、f/8 焦点距離:48mm ホワイトバランス:晴天 ISO感度:ISO 1600 ピクチャーコントロール:ビビッド
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「岩の回廊」
カメラ:D5 レンズ:AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR 画質モード:RAW(14-bit) 撮影モード:絞り優先オート、1/80秒、f/8 焦点距離:70mm ホワイトバランス:4000K ISO感度:ISO 1600 ピクチャーコントロール:ビビッド
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「夜の砂丘」
カメラ:D5 レンズ:AF-S NIKKOR 14-24mm f/2.8G ED 画質モード:RAW(14-bit) 撮影モード:マニュアル、15秒、f/4.5 焦点距離:14mm ホワイトバランス:電球 ISO感度:ISO 3200 ピクチャーコントロール:スタンダード
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「砂の惑星」
カメラ:D5 レンズ:AF-S NIKKOR 80-400mm f/4.5-5.6G ED VR 画質モード:RAW(14-bit) 撮影モード:絞り優先オート、1/1250秒、f/10 焦点距離:250mm ホワイトバランス:晴天 ISO感度:ISO 800 ピクチャーコントロール:スタンダード
アメリカのむき出しの素顔を撮りたくて、広大な大地をクルマで渡り歩いた。
アメリカの南西部、ユタ州とアリゾナ州の境にあるレイクパウエルという人造湖を中心に、半径230kmの円に囲まれる地域を「グランドサークル」と呼ぶ。ここには太古から変わらない雄大な景観や神秘的な奇岩、先住民族の遺跡が集中し、実に40カ所を超える国立公園や州立公園が含まれている。僕は今回、撮影地から撮影地へと飛行機を使ってピンポイントで飛び回るのではなく、あえてクルマを借りてグランドサークルを中心としたこの地域をじっくりと巡った。岩山や砂礫だけが存在するような荒涼とした風景を何百キロも走っていくと、突然に風景が一変し、巨木や動物たちが共存する豊かな生態系が広がっている。そうした大地の変化を五感で味わいながら、アメリカの素顔を撮影したかった。アンテロープキャニオン、ホースシューベンド、グランドキャニオン国立公園、モニュメントバレー、アーチーズ国立公園、キャニオンランズ国立公園、ザイオン国立公園、そしてデスバレー国立公園とセコイア国立公園(いずれもグランドサークルの西)。訪ねた撮影地が見せてくれたさまざまな表情は、その土地の匂いや感触とともに僕の心に刻まれていった。
僕が今回撮影に用いたD5に見たのは、デジタルカメラの成熟した姿だ。まず感心したのは感度の良さ。高感度でも見事なまでにノイズが抑えられ、夜間の撮影にも余裕をもって臨める。さらに、オートフォーカスが速く、カメラを向けた途端にシャッターが切れる感覚が、ほんの僅かでもタイムラグを感じてしまっていたこれまでの感覚とは違うように思える。夜、暗い中でも迷わずピントを合わせてくれるのも、自然写真家にはありがたい。今回の撮影では防塵性能の高さも実感できた。強風が吹きつける砂漠や荒野など、普通ならカメラを出すのをためらうような状況でも撮影に専念できた。これまで一生懸命に工夫を凝らしてようやく撮れていたような困難なシチュエーションでも、D5ならラクラクと撮影できてしまう。性能・機能が飛び抜けているから、諦めていた撮影にも挑戦できる。この懐の広さが、ニコンのデジタル一眼レフにおけるフラッグシップモデルとしてのD5の真骨頂だと思う。
高砂 淳二(たかさご じゅんじ)
自然写真家。1962年、宮城県石巻市生まれ。世界中の国々を訪れ、海の中から生き物、虹、風景、星空まで、地球全体をフィールドに撮影活動を続けている。最新作「Dear Earth」(パイ インターナショナル)をはじめ、「night rainbow」「yes」「ASTRA」「虹の星」「free」(以上小学館)、「PENGUIN ISLAND」「そら色の夢」「南の夢の海へ」(パイ インターナショナル)ほか著書多数。 ザルツブルグ博物館、東京ミッドタウン、渋谷パルコ、阪急百貨店など、写真展多数開催。海の環境NPO法人“OWS”理事
オフィシャルウェブサイト
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