– マヤを育んだ聖なる泉・セノーテ –
“セノーテ”は、マヤの言葉で「聖なる泉」を意味する。 地下の鍾乳洞に水が満ち、地表が陥没して出来たもので、ユカタン半島に数千カ所も存在している。 地表が石灰岩に被われているために雨水が地下に浸透してしまい、 川さえ流れないこの地において、貴重な淡水供給源として人々の生活を支えてきた。 同時にマヤ神話における雨と雷を司る神「チャク」が支配する聖地として、信仰の対象でもあった。 石灰岩の大地を通って濾過されたために不純物をほとんど含まない水は、 息をのむほど透き通っているという。 セノーテ内部を満たす水に射し込む光から青い成分だけを抜き出したような、 純粋なブルーに輝く光景を見るためにユカタン半島へと旅立った。
「The Cenote」
セノーテでのダイビング初日は曇り空だった。今にも泣きだしそうな空を仰ぎながら水中に入ると、海の水よりも冷たく澄んだセノーテの水が体全体に沁み渡る。洞窟を進むにつれその存在さえ忘れてしまうほど水の透明度が高く、まるで空間にフワッと浮いているような不思議な感覚に包まれた。 残念ながらセノーテに出現するという光のカーテンが見えない。どんよりした曇り空を思い出し諦めかけたその瞬間、サーッと辺りに光が満ちて、見事な光のカーテンが現れた。水のスクリーンに、映画のワンシーンのような華麗な光景が広がっていた。
<撮影の裏側で>
水中撮影を行うときのレンズには超広角が適しており、魚眼レンズを使うことが多い。だが今回は、水中に現れる光のカーテンを美しく撮りたかったので、デフォルメ効果の高い魚眼レンズではなくAF-S NIKKOR 14-24mm f/2.8G EDを使用した。 太陽の光が射し込んでいるとはいえセノーテ内部は相当暗く、D810をISO 6400の高感度に設定して撮影した。広いダイナミックレンジのおかげでコントラストの激しい光のカーテンと周囲の黒い岩をディテールまで再現しながら、ブルーに輝く水のグラデーションを美しく写し出すことができた。
カメラ:D810 レンズ:AF-S NIKKOR 14-24mm f/2.8G ED 画質モード:RAW(14-bit) 撮影モード:マニュアル、1/100秒、f/5 焦点距離:14mm ホワイトバランス:晴天 ISO感度:6400 ピクチャーコントロール:ビビッド
「聖なる泉」
セノーテには、洞窟の入り口からしか光が射し込まない。そのため内部は暗いのに水だけに光が当たっているという状況もしばしば見られた。そんな時のセノーテは、まるで水そのものが発光しているかのような不思議な雰囲気を醸し出す。水底に反射するわずかな光が、あちらこちらに控えめに投影されているのも印象的だった。洞窟の底の模様や石、波紋などの影をゆらゆらと映し出す水面がブルーに光り、“神の住まう聖なる泉”と呼ばれるセノーテにふさわしい、神秘的な魅力をたたえていた。
<撮影の裏側で>
水の透明感を出したかったので水面の反射を極力おさえるために、AF-S NIKKOR 16-35mm f/4G ED VRに円偏光フィルターをセットした。このレンズは解像度が高く、絞り開放でも周辺までシャープに撮れるのが好ましい。いつものように撮影中に画像チェックをすると、水面が揺れたために起こった被写体ブレが気になって1/160秒にシャッタースピードを上げた。D810の液晶モニターは約122.9万ドットの高精細で、その上RGBW配列になり見やすくなった。詳細な画像チェックがその場でできるおかげで、撮り直しのきかない状況でも安心して撮影できる。
カメラ:D810 レンズ:AF-S NIKKOR 16-35mm f/4G ED VR 画質モード:RAW(14-bit) 撮影モード:絞り優先オート、1/160秒、f/4 焦点距離:16mm ホワイトバランス:晴天 ISO感度:800 ピクチャーコントロール:ビビッド
「マヤの月」
セノーテを被う森のヤシの葉越しに半月を仰いだ。 マヤの人々と同じ月を眺めながら、太陽や月、星、自然界と同調する17もの暦を作り出したと言われる彼らの生活に思いを馳せた。月や星のサイクルを敏感に感じ取って暮らしていた彼らは、同じ月を眺めながら、現代のわれわれとはまったく違う感覚を持っていたに違いない。そんなことを考えながら、今も変わらぬ月の表情を、現代の文明の利器である望遠レンズでそっと覗いてみようと思った。
<撮影の裏側で>
ロケ撮影に出かけるとき、持参するレンズ選択は僕にとって大問題だ。そんなときに望遠域を広くカバーしてくれるAF-S NIKKOR 80-400mm f/4.5-5.6G ED VRの存在はありがたい。特に手ブレ補正効果4.0段※のVR機構の利きが優れていて、ホールド感に優れたD810と組み合わせると手持ち撮影できる範囲が大きく広がる。スーパーEDレンズやナノクリスタルコートを採用するなど、鮮明な画像を撮影するための光学性能の高さも魅力だ。
※CIPA規格準拠。NORMALモード使用時。最も望遠側で測定。
カメラ:D810 レンズ:AF-S NIKKOR 80-400mm f/4.5-5.6G ED 画質モード:RAW(14-bit) 撮影モード:絞り優先オート、1/800秒、f/7.1 焦点距離:400mm ホワイトバランス:晴天 ISO感度:ISO 800 ピクチャーコントロール:ビビッド
「水面の光」
長い年月を経てたくさんの木々が生まれ、死に、倒れ、セノーテの中に沈んでくる。水底には、それらが折り重なり静かに時を重ねていた。洞窟の外では若く元気な木々が生き生きとした葉をつけていて、その葉を透過した清々しい光が水中に射し込んできていた。
カメラ:D810 レンズ:AF-S NIKKOR 14-24mm f/2.8G ED 画質モード:RAW(14-bit) 撮影モード:マニュアル、1/200秒、f/7.1 焦点距離:15mm ホワイトバランス:晴天 ISO感度:3200 ピクチャーコントロール:ビビッド
「葉」
雨に濡れた葉っぱを何気なく見てみたら、そこには赤く美しい葉脈が緻密に浮かび上がっていた。自然が創り出すものはそれだけで不思議なほど美しく、よく見れば見るほどその形や色の完璧さに驚かされる。
カメラ:D810 レンズ:AF-S Micro NIKKOR 60mm f/2.8G ED 画質モード:RAW(14-bit) 撮影モード:絞り優先オート、1/400秒、f/8 焦点距離:60mm ホワイトバランス:晴天 ISO感度:800 ピクチャーコントロール:ビビッド
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「空 間」
カメラ:D810 レンズ:AF-S NIKKOR 14-24mm f/2.8G ED 画質モード:RAW(14-bit) 撮影モード:マニュアル、1/100秒、f/6.3 焦点距離:14mm ホワイトバランス:晴天 ISO感度:3200 ピクチャーコントロール:ビビッド
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「光」
カメラ:D810 レンズ:AF-S NIKKOR 14-24mm f/2.8G ED 画質モード:RAW(14-bit) 撮影モード:マニュアル、1/125秒、f/7.1 焦点距離:14mm ホワイトバランス:晴天 ISO感度:800 ピクチャーコントロール:ビビッド
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「森の時間」
カメラ:D810 レンズ:AI AF Fisheye-Nikkor 16mm f/2.8D 画質モード:RAW(14-bit) 撮影モード:絞り優先オート、1/80秒、f/8 焦点距離:16mm ホワイトバランス:晴天 ISO感度:ISO 3200 ピクチャーコントロール:ビビッド
マヤの人々が生きた土地への憧れと好奇心が、僕をユカタン半島へと導いた。
ユカタン半島は、メキシコ、グアテマラ、ベリーズにまたがり、メキシコ湾とカリブ海に挟まれている。特に世界的なリゾート地カンクンが有名だが、マヤ文明の遺跡が数多く残っていることでも知られている。
そもそも僕がユカタン半島に興味を持ったのは、10年ほど前に友人から聞かされた「セノーテ」の話がきっかけだった。テレビの水中カメラマンをやっている彼が教えてくれた、透明なブルーの水に満たされた巨大な鍾乳洞。そのイメージに魅せられた僕は、ぜひ一度自分の目で見て、撮影してみたいと思っていた。
ユカタン半島と言えば、25年ほど前に一度だけ訪れたカンクンの海も忘れられなかった。南国のエメラルドグリーンとは全く異なる、不思議なブルーの鮮烈なイメージが記憶に残っていた。
我々日本人と同様に、八百万(やおよろず)の神を祀っていたというマヤ文明への興味も重なり、マヤの遺跡をぜひ見なければと思った僕は、ユカタン半島での旅程を考え始めていた。
思えば、NIKKORレンズとの出逢いは、およそ30年前に初めてF3を手にしたときに遡る。それ以来、ともに様々な土地を旅し、数えきれないほどの写真を撮影してきた。
特に定評あるワイドレンズの完成度は、他のメーカーには望むべくもないとさえ思える。その中でも今回使用したAF-S NIKKOR 14-24mm f/2.8G EDは決して手放せない愛用レンズで、星空愛好家に神レンズとまで呼ばれている超広角ズームの大傑作だ。
望遠レンズに関しても信頼性は高い。例えばAF-S NIKKOR 80-400mm f/4.5-5.6G ED VRはVR機構つきで、手持ち撮影でも安心して使用できる逸品だ。超広角から超望遠までが必要な今回のロケでも、カメラバッグひとつにすべての機材を収納できたのは、望遠域を1本で引き受けてくれるこのレンズがあったおかげだ。
陸上にしても水中にしても、自然を撮影するときには、カメラのポテンシャルを最大限引き出してくれる。自然写真家として、僕は極上の描写力が魅力のNIKKORレンズに頼りきっている。
高砂 淳二(たかさご じゅんじ)
自然写真家。1962年、宮城県石巻市生まれ。世界中の国々を訪れ、海の中から生き物、虹、風景、星空まで、地球全体をフィールドに撮影活動を続けている。最新作「Dear Earth」(パイ インターナショナル)をはじめ、「night rainbow」「yes」「ASTRA」「虹の星」「free」(以上小学館)、「PENGUIN ISLAND」「そら色の夢」「南の夢の海へ」(パイ インターナショナル)ほか著書多数。 ザルツブルグ博物館、東京ミッドタウン、渋谷パルコ、阪急百貨店など、写真展多数開催。海の環境NPO法人“OWS”理事
オフィシャルウェブサイト
http://junjitakasago.com/
facebook artist page
https://www.facebook.com/JunjiTakasago/
– マヤを育んだ聖なる泉・セノーテ –
第4回 ロケ撮影機材リスト
- Body
- D810
- Lens
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AF-S NIKKOR 14-24mm f/2.8G ED
AI AF Fisheye-Nikkor 16mm f/2.8D
AF-S NIKKOR 16-35mm f/4G ED VR
AF-S Micro NIKKOR 60mm f/2.8G ED
AF-S NIKKOR 80-400mm f/4.5-5.6G ED VR
※一部の作品はフィルターを使用しています。
※一部の作品は他社製水中ハウジングと水中フラッシュを使用しています。