巨大なアーチの間からのぼる朝日の迫力。その光景を見たときの感動を伝えたかった。逆光での撮影なので、手前のアーチがつぶれてしまうのを防ぐために、アクティブD-ライティングを〔より強め〕にセットした。その結果、太陽のハイライト、オレンジに輝くアーチ、そして日陰の岩まで、適度なコントラストを保ち、見た目に近い自然な明るさが再現され、光の躍動感も、それぞれの質感も、丁寧に描き出すことができた。アーチの中から見渡せる遠くの岩山も、想像以上にリアルに撮れている。ダイナミックレンジが広く、階調表現も豊かなD5のおかげで、この時の思いをダイレクトに表現することができた。
モニュメントバレーには、神々しい形や、面白い形をした岩山がたくさんあり、いくら撮っても撮り足りない。そんな中で、人差し指を立てる手に似た形の岩が特に目についた。その日は満月だったため、太陽が沈むと同時に反対側から月が昇ってくる。岩との位置関係を確かめながら移動し、指が月を指し示すタイミングにあわせてシャッターを切った。まるでみずから天を指す、岩の意志が感じられるような、絶妙な写真を撮ることができた。
日が沈んでからの撮影となった。これまでだと三脚を立てて長時間露光するのが当然の状況だ。しかし、月が岩の人差し指の真上に到達する瞬間を遅滞なく写真に収めるためには、カメラを手持ちで構え、最適なアングルを探して立ち位置を細かく修正しながらシャッターチャンスを待たなければならない。D5の視野率約100%のファインダーはとても見やすく、−4 EV対応AFにより相当暗さを感じる場面でも確実にピントを合わせてくれる。手持ちで撮影するためにISO 6400まで感度を上げたが、優れた低ノイズ性能のおかげで優れた画質で撮影でき、印象的な作品に仕上げることができた。
夜から日の出にかけての撮影を終え、そのまま車を走らせて車窓から朝の景観を楽しんだ。砂漠の向こうに見える巨岩群に斜光があたり、立体的に浮かび上がって見える。どこか神々しい風景を、クルマを停めて撮影した。もし僕がこうした土地で生まれ育ったなら、ここには神が宿っているものと考え、一帯を聖地として大切に守っていきたいという使命感が芽生えるに違いない。それにしても、自然の造形の凄さと美しさには、人間の創造力はまるでかなわない。
今回の旅では、風が吹くと砂が一面に舞うような環境での撮影が多かった。何よりD5の防塵性能は信頼できるもので、何の躊躇もなく撮り続けることができたが、カメラと同様、砂塵に強いレンズを選ぶことも大切だった。今回使用したAF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VRにはレンズの最前面と最後面にフッ素コートが施してあり、砂埃などの汚れが付きにくい。たとえ水滴や油、泥水がかかっても簡単に拭き取ることができる。常に自然と対峙して撮影する僕にとって、大変ありがたいレンズの進化だ。
アメリカの南西部、ユタ州とアリゾナ州の境にあるレイクパウエルという人造湖を中心に、半径230kmの円に囲まれる地域を「グランドサークル」と呼ぶ。ここには太古から変わらない雄大な景観や神秘的な奇岩、先住民族の遺跡が集中し、実に40カ所を超える国立公園や州立公園が含まれている。僕は今回、撮影地から撮影地へと飛行機を使ってピンポイントで飛び回るのではなく、あえてクルマを借りてグランドサークルを中心としたこの地域をじっくりと巡った。岩山や砂礫だけが存在するような荒涼とした風景を何百キロも走っていくと、突然に風景が一変し、巨木や動物たちが共存する豊かな生態系が広がっている。そうした大地の変化を五感で味わいながら、アメリカの素顔を撮影したかった。アンテロープキャニオン、ホースシューベンド、グランドキャニオン国立公園、モニュメントバレー、アーチーズ国立公園、キャニオンランズ国立公園、ザイオン国立公園、そしてデスバレー国立公園とセコイア国立公園(いずれもグランドサークルの西)。訪ねた撮影地が見せてくれたさまざまな表情は、その土地の匂いや感触とともに僕の心に刻まれていった。
僕が今回撮影に用いたD5に見たのは、デジタルカメラの成熟した姿だ。まず感心したのは感度の良さ。高感度でも見事なまでにノイズが抑えられ、夜間の撮影にも余裕をもって臨める。さらに、オートフォーカスが速く、カメラを向けた途端にシャッターが切れる感覚が、ほんの僅かでもタイムラグを感じてしまっていたこれまでの感覚とは違うように思える。夜、暗い中でも迷わずピントを合わせてくれるのも、自然写真家にはありがたい。今回の撮影では防塵性能の高さも実感できた。強風が吹きつける砂漠や荒野など、普通ならカメラを出すのをためらうような状況でも撮影に専念できた。これまで一生懸命に工夫を凝らしてようやく撮れていたような困難なシチュエーションでも、D5ならラクラクと撮影できてしまう。性能・機能が飛び抜けているから、諦めていた撮影にも挑戦できる。この懐の広さが、ニコンのデジタル一眼レフにおけるフラッグシップモデルとしてのD5の真骨頂だと思う。
高砂 淳二(たかさご じゅんじ)
自然写真家。1962年、宮城県石巻市生まれ。世界中の国々を訪れ、海の中から生き物、虹、風景、星空まで、地球全体をフィールドに撮影活動を続けている。最新作「Dear Earth」(パイ インターナショナル)をはじめ、「night rainbow」「yes」「ASTRA」「虹の星」「free」(以上小学館)、「PENGUIN ISLAND」「そら色の夢」「南の夢の海へ」(パイ インターナショナル)ほか著書多数。 ザルツブルグ博物館、東京ミッドタウン、渋谷パルコ、阪急百貨店など、写真展多数開催。海の環境NPO法人“OWS”理事
オフィシャルウェブサイト http://junjitakasago.com/
facebook artist page https://www.facebook.com/JunjiTakasago/
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カメラ:D5 レンズ:AF-S NIKKOR 16-35mm f/4G ED VR 画質モード:RAW(14-bit) 撮影モード:マニュアル、1/1600秒、f/11 焦点距離:16mm
ホワイトバランス:晴天 ISO感度:ISO 1600 ピクチャーコントロール:ビビッド
カメラ:D5 レンズ:AF-S NIKKOR 80-400mm f/4.5-5.6G ED VR 画質モード:RAW(14-bit) 撮影モード:絞り優先オート、1/80秒、f/5 焦点距離:175mm
ホワイトバランス:晴天 ISO感度:ISO 6400 ピクチャーコントロール:ビビッド
カメラ:D5 レンズ:AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR 画質モード:RAW(14-bit) 撮影モード:絞り優先オート、1/400秒、f/5.6 焦点距離:29mm
ホワイトバランス:晴天 ISO感度:ISO 800 ピクチャーコントロール:ビビッド
カメラ:D5 レンズ:AF-S NIKKOR 14-24mm f/2.8G ED 画質モード:RAW(14-bit) 撮影モード:マニュアル、10秒、f/5.6 焦点距離:14mm
ホワイトバランス:晴天 ISO感度:ISO 800 ピクチャーコントロール:ビビッド
カメラ:D5 レンズ:AF-S NIKKOR 16-35mm f/4G ED VR 画質モード:RAW(14-bit) 撮影モード:絞り優先オート、1/2000秒、f/8 焦点距離:16mm
ホワイトバランス:晴天 ISO感度:ISO 400 ピクチャーコントロール:ビビッド
カメラ:D5 レンズ:AF-S NIKKOR 14-24mm f/2.8G ED 画質モード:RAW(14-bit) 撮影モード:マニュアル、6秒、f/5.6 焦点距離:15mm
ホワイトバランス:晴天 ISO感度:ISO 1250 ピクチャーコントロール:スタンダード
カメラ:D5 レンズ:AF-S NIKKOR 80-400mm f/4.5-5.6G ED VR 画質モード:RAW(14-bit) 撮影モード:絞り優先オート、1/2500秒、f/10 焦点距離:250mm
ホワイトバランス:晴天 ISO感度:ISO 1600 ピクチャーコントロール:ビビッド
カメラ:D5 レンズ:AF-S NIKKOR 80-400mm f/4.5-5.6G ED VR 画質モード:RAW(14-bit) 撮影モード:絞り優先オート、1/800秒、f/8 焦点距離:135mm
ホワイトバランス:晴天 ISO感度:ISO 800 ピクチャーコントロール:ビビッド
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「大地の朝」
キャニオンランズ国立公園にあるアイランド・イン・ザ・スカイという名のエリアを訪ねた。そこには、岩で出来た自然のアーチの向こう側に朝日が望めるという、人気スポットがある。まだ暗いうちに撮影ポイントに着いて、三脚を構えてその時に備えた。待ちに待った朝日が顔を出したその途端、オレンジ色の光がアーチの内側を染め、目の前の景色が一変して輝き出した。太陽がもたらす光の表現力は、やっぱりすごい。