D810を水中ハウジングにセットし、2基の水中ストロボをアームに取り付けて発光させている。180°の画角が撮影できるAI AF Fisheye-Nikkor 16mm f/2.8Dを使用しているので、水面から海底まで非常に広い範囲が画面に写り込む。コントラストの激しい海中撮影はデジタルカメラにとっては厳しいシチュエーションだが、D810は豊かな階調で魚の美しさと海の表情を再現してくれた。
カンクンのビーチでは、ペリカンやカツオドリたちによる捕食行動がよくみられる。さっきまで空中を飛んでいたかと思うと、いきなり水面目がけて急降下し、くちばしから水中に一気にダイブする。再び顔を出したときには、たいていしっかり小魚を咥(くわ)えているので相当な成功率である。空中からでも魚の姿をしっかりと捉えられる視力の良さも驚きだが、魚に気付かれずに上空から急襲する技も見事である。このような決定的な瞬間を楽に撮れるのは、D810の高速レスポンスと優れたAF性能、そして高速連続撮影が可能なおかげだと感謝している。
たくさんのペリカンが水面にダイブする様子をしばらく観察して、おおよその着水ポイントを把握した。AFモードを「コンティニアスAFサーボ」に、AFエリアモードを「オート」に設定して、ピント合わせをD810に託す。後はひたすらペリカンをファインダーに捉えることに専念した。クラス最高レベルというAF-S NIKKOR 80-400mm f/4.5-5.6G ED VRの素早いAFのおかげもあって、くちばしで小魚をキャッチした瞬間を捉えることができた。
昔カンクンに行った時に見た、美しい海の色が脳裏に焼き付いて離れなかった。ビーチ際の淡いブルーから沖合の深いブルーにいたるグラデーションが、目の錯覚ではないかと思えるほど美しく感じられた。 そのカンクンビーチのブルーは、25年ほども経った今でもまったく健在だった。ビーチで思い思いにくつろいでいる人々は、その色合いを誰にも気兼ねなく満喫しているように見えた。ビーチの端の方でカップルたちがお互いの距離を几帳面に等間隔で開けているのがなんだか可笑しくって、彼らを手前に置いて海の独特なグラデーションを撮影した。
白い砂のビーチからエメラルドグリーンの浜辺へと穏やかな色調が続いたかと思うと、海は急激に深さを増して黒に近い濃紺へと色を変えていく。カリブの太陽がもたらす強烈なコントラストにも解像力を失うことなくきめ細やかな砂の質感を再現し、カリビアンブルーのグラデーションを階調豊かに表現してくれたD810の描写力にはいつもながら感心させられる。高い光学性能を発揮するスーパーEDレンズなどを採用したAF-S NIKKOR 80-400mm f/4.5-5.6G ED VRとの組み合わせで、細部にも色滲みのないクリアな海を撮影することができた。
ユカタン半島は、メキシコ、グアテマラ、ベリーズにまたがり、メキシコ湾とカリブ海に挟まれている。特に世界的なリゾート地カンクンが有名だが、マヤ文明の遺跡が数多く残っていることでも知られている。 そもそも僕がユカタン半島に興味を持ったのは、10年ほど前に友人から聞かされた「セノーテ」の話がきっかけだった。テレビの水中カメラマンをやっている彼が教えてくれた、透明なブルーの水に満たされた巨大な鍾乳洞。そのイメージに魅せられた僕は、ぜひ一度自分の目で見て、撮影してみたいと思っていた。 ユカタン半島と言えば、25年ほど前に一度だけ訪れたカンクンの海も忘れられなかった。南国のエメラルドグリーンとは全く異なる、不思議なブルーの鮮烈なイメージが記憶に残っていた。 我々日本人と同様に、八百万(やおよろず)の神を祀っていたというマヤ文明への興味も重なり、マヤの遺跡をぜひ見なければと思った僕は、ユカタン半島での旅程を考え始めていた。
思えば、NIKKORレンズとの出逢いは、およそ30年前に初めてF3を手にしたときに遡る。それ以来、ともに様々な土地を旅し、数えきれないほどの写真を撮影してきた。 特に定評あるワイドレンズの完成度は、他のメーカーには望むべくもないとさえ思える。その中でも今回使用したAF-S NIKKOR 14-24mm f/2.8G EDは決して手放せない愛用レンズで、星空愛好家に神レンズとまで呼ばれている超広角ズームの大傑作だ。 望遠レンズに関しても信頼性は高い。例えばAF-S NIKKOR 80-400mm f/4.5-5.6G ED VRはVR機構つきで、手持ち撮影でも安心して使用できる逸品だ。超広角から超望遠までが必要な今回のロケでも、カメラバッグひとつにすべての機材を収納できたのは、望遠域を1本で引き受けてくれるこのレンズがあったおかげだ。 陸上にしても水中にしても、自然を撮影するときには、カメラのポテンシャルを最大限引き出してくれる。自然写真家として、僕は極上の描写力が魅力のNIKKORレンズに頼りきっている。
高砂 淳二(たかさご じゅんじ)
自然写真家。1962年、宮城県石巻市生まれ。世界中の国々を訪れ、海の中から生き物、虹、風景、星空まで、地球全体をフィールドに撮影活動を続けている。最新作「Dear Earth」(パイ インターナショナル)をはじめ、「night rainbow」「yes」「ASTRA」「虹の星」「free」(以上小学館)、「PENGUIN ISLAND」「そら色の夢」「南の夢の海へ」(パイ インターナショナル)ほか著書多数。 ザルツブルグ博物館、東京ミッドタウン、渋谷パルコ、阪急百貨店など、写真展多数開催。海の環境NPO法人“OWS”理事
オフィシャルウェブサイト
http://junjitakasago.com/
facebook artist page
https://www.facebook.com/JunjiTakasago/
※一部の作品はフィルターを使用しています。
※一部の作品は他社製水中ハウジングと水中フラッシュを使用しています。
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カメラ:D810 レンズ:AI AF Fisheye-Nikkor 16mm f/2.8D 画質モード:RAW(14-bit) 撮影モード:マニュアル、1/200秒、
f/9 焦点距離:16mm
ホワイトバランス:晴天 ISO感度:ISO 400 ピクチャーコントロール:ニュートラル
カメラ:D810 レンズ:AF-S NIKKOR 80-400mm f/4.5-5.6G ED VR 画質モード:RAW(14-bit) 撮影モード:絞り優先オート、1/1250秒、f/11
焦点距離:260mm ホワイトバランス:晴天 ISO感度:ISO 1600 ピクチャーコントロール:ビビッド
カメラ:D810 レンズ:AF-S NIKKOR 80-400mm f/4.5-5.6G ED VR 画質モード:RAW(14-bit) 撮影モード:絞り優先オート、1/640秒、f/10
焦点距離:140mm
ホワイトバランス:晴天 ISO感度:ISO 400 ピクチャーコントロール:ビビッド
カメラ:D810 レンズ:AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR 画質モード:RAW(14-bit) 撮影モード:絞り優先オート、13秒、f/22 焦点距離:24mm
ホワイトバランス:晴天 ISO感度:64に対して約1段減感 ピクチャーコントロール:ビビッド
カメラ:D810 レンズ:AF-S NIKKOR 80-400mm f/4.5-5.6G ED VR 画質モード:RAW(14-bit) 撮影モード:絞り優先オート、1/6400秒、f/7.1
焦点距離:270mm ホワイトバランス:晴天 ISO感度:ISO 800 ピクチャーコントロール:ビビッド
カメラ:D810 レンズ:AI AF Fisheye-Nikkor 16mm f/2.8D 画質モード:RAW(14-bit) 撮影モード:マニュアル、1/250秒、f/9 焦点距離:16mm
ホワイトバランス:晴天 ISO感度:ISO 400 ピクチャーコントロール:ニュートラル
カメラ:D810 レンズ:AF-S NIKKOR 80-400mm f/4.5-5.6G ED VR 画質モード:RAW(14-bit) 撮影モード:絞り優先オート、1/1250秒、f/13
焦点距離:400mm
ホワイトバランス:晴天 ISO感度:ISO 400 ピクチャーコントロール:ビビッド
カメラ:D810 レンズ:AF-S NIKKOR 80-400mm f/4.5-5.6G ED VR 画質モード:RAW(14-bit) 撮影モード:絞り優先オート、1/6400秒、f/7.1
焦点距離:300mm
ホワイトバランス:晴天 ISO感度:ISO 800 ピクチャーコントロール:ビビッド
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「フレンチグラントの群れ」
カリブ海には固有種の魚が数多く生息している。カンクン近海のメキシカンカリブには、爽やかな黄色の体色をもつイサキの仲間、“フレンチグラント”の大群が密集して暮らしている。カリビアンブルーをバックに魚本来の黄色を引き立たせて撮影したかったので、2灯のストロボの光を柔らかく当ててみた。息を止めてゆっくりと魚たちに近づくと、ストロボの光が当たっても逃げようともせず、サンゴの周りをゆらゆらと漂うように泳ぎ続けていた。