今回、黄龍を訪れたのは、渓谷に連なる湖沼群の多彩な色を撮影したいからだった。この日は朝から太陽の光が射し込み、自然の色彩が輝いていた。この光景をありのままに撮りたいと思い、望遠ズームの中でもヌケの良さと色再現性の良さが気に入っているAF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8G ED VR IIを使った。また、このレンズは手ブレ補正効果3.5段※のVR機構を採用している。この時も撮影場所が多くの観光客で混雑し、三脚が使えず手持ちで撮影したのだが、ブレなく鮮明な龍の姿を捉えることができた。
※CIPA規格準拠(NORMALモード使用時)
長い渓谷の間に無数の湖沼が存在するが、そんな中にポツンと寺院が建っている。この渓谷は、歩いているとどんどん元気をもらえるようなとてもパワフルな場所なのだが、そんななかでも一番中心部的な場所に、この寺院は建っていた。
屋根の形や角度、そして建てる位置まで、自然と一体になるように、見事に計算されているのだろうか。うっすらと雪化粧をした屋根と、真っ青に抜ける空の対比がとても印象的だった。ここでの修行僧たちの祈りは、そのまま宇宙まで届くのでは。ふとそんな気がした。
宇宙に向かって祈りを捧げているように見える寺院をシンメトリーの構図にこだわって撮影した。空のブルーから宇宙の漆黒へと繋がるグラデーションを滑らかに再現することができたのは、D810の豊かな階調性によるものだ。同時に、寺院の屋根の瓦と積もる雪の質感もしっかりと再現されている。細部に至るまで驚くほど緻密に描写してくれる、優れた解像力をここでも発揮してくれた。
夕刻まで冬の気配さえ無かったのに、夜の間、黄龍に雪が降った。翌朝、渓谷は気持ちよく雪化粧し、あたりの景色は一変する。
特に雪をまとった木々の美しさに目を奪われた。葉がほとんど枯れ落ちた枝の上に、輪郭を描くように真っ白な雪が軽く乗り、見事にモノトーンの世界を作り上げていた。枝にも木々にも色はあるはずなのに、雪の白さがこの世界に強いコントラストを作り、ほかの色はすべて暗く静まり返ってしまったのだろうか。まるで墨絵でも見ているかのような、黄龍で出合った予期せぬ光景だった。
雪の積もった渓谷の朝。その清らかで、突き刺すような空気感を表現しようと思った。枝の一本一本、そこにふんわり積もる雪など、細かなところの質感までキッチリ出るように気を配って撮影したかったので、描写力に優れたAF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VRを選んだ。このレンズには、ED非球面レンズが採用されているためか、前モデルに比べてより解像度が上がり、描写性が磨かれたおかげで、ディテールまで美しく表現することができた。
同じ地質の場所でも、あるところは棚田状の地形になって透明な水をたたえるプールのようになっていたり、あるところでは滑らかな川や滝のようになって、その上を水が滑るように流れていたり・・・。風景が変化に富んでいて撮影していても全く見飽きなかった。
写真は、石灰岩の上を柔らかく流れる様子をスローシャッターで表現してみたもの。
少し前に知り合いが、「人間に、”美しいね!”とか、”ありがとう!”とかと言ってもらうことで、”自然”というものはパワーをもらうし元気になるんだよ。高砂さんも今度は、人のパワーをもらっていないような、例えば中国とかに行って、自然を愛でながら、自然にお返しするような気持ちで撮影してくるのもいいかもね。」という話をしてくれた。そんなきっかけで中国がロケ地として浮かび上がることになった。
ところが実際に訪ねた中国の秘境は、ひと気のない荒涼としたイメージとは正反対。高度数千メートルの山奥にも関わらず、ものすごい人がいて賑わっていた。
しかもそこには寺院もあって、修行中の僧侶たちが毎日祈りを捧げているようだった。そんな人間のパワーをたっぷりと受けているからか、山奥にひっそりと存在する神秘的な山々や湖沼は、満ち満ちた美しさをもって目の前に広がっていた。
このごろは風景を撮影するとき、D810を持って行くことが多い。コレの最もいい所は、3635万画素の高精細で撮れて、ボディーが小さいこと。ロケ撮影の場合、カメラバッグに2台入ることが大切だし、三脚も大きいものを持って行けないので、なにより軽いボディーがありがたい。しかもボディーバランスが良くて、手持ちでもめったにブレない。
さらにこのクラスでは珍しく、内蔵フラッシュがついている。機材が限られてスピードライトが持てないとき、ボディーにフラッシュがあると、いざという時の大きな強みとなってくれる。
今回大活躍のAF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VRは、ニコンのまじめなもの造りの代表みたいなレンズで、周辺光量とか、解像度とか、不安無く、隅々までシャープに撮れる安心感がある。光学設計や、フードの形が良く、逆光に強い。
ナノクリスタルコートの効果もあり、ゴーストやフレアなど、気にしたことすら記憶に無かった。
高砂 淳二(たかさご じゅんじ)
自然写真家。1962年、宮城県石巻市生まれ。世界中の国々を訪れ、海の中から生き物、虹、風景、星空まで、地球全体をフィールドに撮影活動を続けている。最新作「Dear Earth」(パイ インターナショナル)をはじめ、「night rainbow」「yes」「ASTRA」「虹の星」「free」(以上小学館)、「PENGUIN ISLAND」「そら色の夢」「南の夢の海へ」(パイ インターナショナル)ほか著書多数。 ザルツブルグ博物館、東京ミッドタウン、渋谷パルコ、阪急百貨店など、写真展多数開催。海の環境NPO法人“OWS”理事
オフィシャルウェブサイト
http://junjitakasago.com/
facebook artist page
https://www.facebook.com/JunjiTakasago/
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レンズ:AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8G ED VR II 画質モード:RAW(14-bit) 撮影モード:マニュアル、1/160秒、f/11 焦点距離:150mm ホワイトバランス:晴天
ISO感度:ISO 400 ピクチャーコントロール:ビビッド
レンズ:AF-S NIKKOR 16-35mm f/4G ED VR 画質モード:RAW(14-bit) 撮影モード:絞り優先オート、1600秒、f/5.6 焦点距離:22mm ホワイトバランス:晴天
ISO感度:ISO 400 ピクチャーコントロール:ビビッド
レンズ:AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR 画質モード:RAW(14-bit) 撮影モード:絞り優先オート、1/160秒、f/8 焦点距離:32mm ホワイトバランス:晴天
ISO感度:ISO 800 ピクチャーコントロール:ビビッド
レンズ:AF-S NIKKOR 16-35mm f/4G ED VR 画質モード:RAW(14-bit) 撮影モード:絞り優先オート、10秒、f/7.1 焦点距離:16mm ホワイトバランス:電球
ISO感度:ISO 64 ピクチャーコントロール:ニュートラル
レンズ:AF-S NIKKOR 16-35mm f/4G ED VR 画質モード:RAW(14-bit) 撮影モード:マニュアル、1/30秒、f/8 焦点距離:16mm ホワイトバランス:晴天
ISO感度:ISO 400 ピクチャーコントロール:ビビッド
レンズ:AF-S NIKKOR 16-35mm f/4G ED VR 画質モード:RAW(14-bit) 撮影モード:絞り優先オート、1/13秒、f/7.1 焦点距離:17mm ホワイトバランス:晴天
ISO感度:ISO 100 ピクチャーコントロール:ビビッド
レンズ:AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR 画質モード:RAW(14-bit) 撮影モード:絞り優先オート、1/160秒、f/8 焦点距離:24mm ホワイトバランス:晴天
ISO感度:ISO 400 ピクチャーコントロール:ビビッド
レンズ:AF-S NIKKOR 16-35mm f/4G ED VR 画質モード:RAW(14-bit) 撮影モード:マニュアル、1/160秒、f/6.3 焦点距離:22mm ホワイトバランス:晴天 ISO感度:ISO 400 ピクチャーコントロール:ビビッド
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「黄龍の鱗」
標高3000メートルを超える山々の合間に、7.5キロに渡って続く湖沼群が、黄色やブルー、グリーンと、さまざまな色に輝く。これが渓谷に横たわる巨大な龍の鱗のようだ、ということから、“黄龍”という名前がついたらしい。
このカラフルな湖沼の中でも、僕の目をひいたのはやはりブルーだ。太古の昔、海の底だったころに堆積したと言われるサンゴの白と、透明な水のブルーとの相性はやはり絶妙で、こんな標高の山奥に唐突に存在する、自然の色とは思えないような不思議で気持ちのいいイエローブルーを、まず第一に表したかった。