透明度の高い湖面を逆光気味に撮影した。足もとに沈む湖底の沈木から、対岸の紅葉までもすべてを画面に収めたいので、超広角ズームのAF-S NIKKOR16-35mm f/4G ED VRを焦点距離16mmで使用した。 超広角で撮影しても、湖底の砂の一粒一粒から、水中にある苔らしい緑の手触り感までキッチリと再現できているように、画面の隅々まで解像感が優れ、周辺の光量落ちも気にならない。さらにナノクリスタルコートの効果もあって、逆光でもゴーストやフレアを気にかける必要さえ無かった。信頼性が高く、自然の雄大さを表現する時に欠かせない、僕が最も愛用しているレンズのうちの1本だ。
峡谷に連なる湖や滝は広大なエリアに広がっていて、その中を透明度のいい清らかな水が流れている。水が留まるところはなく、あるところでは瀬を早く流れ、あるところでは深いブルーをたたえた湖に吸い込まれていく。
きれいに苔むした木片が流れの中で留まっていた。悠久の時間の中でそこだけ時間が止まったような、別の時間が流れているかのような不思議な木片だった。流れ行く時間の中で、ある場所に定住して暮らすちっぽけな自分のようにも見えてきて不思議だった。
木片に当たる水の流れを雲のように表現したかったので、20秒の長時間露光を行った。レンズはヌケの良いクリアーな画質がとても気に入っている、AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8G ED VR Ⅱを使用。焦点距離135mmで撮影した。 D810の解像力を活かすために、望遠での長時間露光などのシビアな状況以外でも、なるべく「電子先幕シャッター」を使用するようにしている。中でも今回のような心臓の鼓動さえ抑えたいような場面では、先幕の走行による機構ブレが発生しないこの機能はとても有効だ。おかげで時間が止まったような苔の質感と、周りを流れる水の柔らかい感触のコントラストが表現できた。
湖水の色は一様ではない。ある場所は純粋なコバルトブルー、あるところはエメラルドグリーン、そしてあるところはモスグリーンと、ブルーからグリーンにかけてのグラデーションがとても美しい。湖底の砂の色、苔の具合、水深などにより、微妙に色が違って見えるようだ。
そんな湖面に紅葉した葉の色が反射し、無限の色の重なりとなって目に飛び込んでくる。自然の色の多彩さにあらためて驚かされた。
この湖は周囲を木製のデッキで囲まれており、被写体との距離が限定される。湖底から水、そして湖面に映り込む紅葉までの多種多様な色彩を、最も配色良く切り取りたかったので、AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VRを焦点距離 48mmで使用した。 木製デッキに三脚を立てて撮っていたのだが、撮影中にも人が遠慮なく歩くのでその度に揺れる。その影響を抑えるために、VR機構が効果を発揮してくれた。さらにこのVR機構は三脚撮影に対応していて、VRをONにしたままで自動的に三脚ブレをも軽減してくれる。おかげで最大4.0段分という強力な手ブレ補正効果を活かして撮影に専念できた。
少し前に知り合いが、「人間に、”美しいね!”とか、”ありがとう!”とかと言ってもらうことで、”自然”というものはパワーをもらうし元気になるんだよ。高砂さんも今度は、人のパワーをもらっていないような、例えば中国とかに行って、自然を愛でながら、自然にお返しするような気持ちで撮影してくるのもいいかもね。」という話をしてくれた。そんなきっかけで中国がロケ地として浮かび上がることになった。
ところが実際に訪ねた中国の秘境は、ひと気のない荒涼としたイメージとは正反対。高度数千メートルの山奥にも関わらず、ものすごい人がいて賑わっていた。
しかもそこには寺院もあって、修行中の僧侶たちが毎日祈りを捧げているようだった。そんな人間のパワーをたっぷりと受けているからか、山奥にひっそりと存在する神秘的な山々や湖沼は、満ち満ちた美しさをもって目の前に広がっていた。
このごろは風景を撮影するとき、D810を持って行くことが多い。コレの最もいい所は、3635万画素の高精細で撮れて、ボディーが小さいこと。ロケ撮影の場合、カメラバッグに2台入ることが大切だし、三脚も大きいものを持って行けないので、なにより軽いボディーがありがたい。しかもボディーバランスが良くて、手持ちでもめったにブレない。
さらにこのクラスでは珍しく、内蔵フラッシュがついている。機材が限られてスピードライトが持てないとき、ボディーにフラッシュがあると、いざという時の大きな強みとなってくれる。
今回大活躍のAF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VRは、ニコンのまじめなもの造りの代表みたいなレンズで、周辺光量とか、解像度とか、不安無く、隅々までシャープに撮れる安心感がある。光学設計や、フードの形が良く、逆光に強い。
ナノクリスタルコートの効果もあり、ゴーストやフレアなど、気にしたことすら記憶に無かった。
高砂 淳二(たかさご じゅんじ)
自然写真家。1962年、宮城県石巻市生まれ。世界中の国々を訪れ、海の中から生き物、虹、風景、星空まで、地球全体をフィールドに撮影活動を続けている。最新作「Dear Earth」(パイ インターナショナル)をはじめ、「night rainbow」「yes」「ASTRA」「虹の星」「free」(以上小学館)、「PENGUIN ISLAND」「そら色の夢」「南の夢の海へ」(パイ インターナショナル)ほか著書多数。 ザルツブルグ博物館、東京ミッドタウン、渋谷パルコ、阪急百貨店など、写真展多数開催。海の環境NPO法人“OWS”理事
オフィシャルウェブサイト
http://junjitakasago.com/
facebook artist page
https://www.facebook.com/JunjiTakasago/
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レンズ:AF-S NIKKOR 16-35mm f/4G ED VR 画質モード:RAW(14-bit) 撮影モード:絞り優先オート、1/500秒、f/7.1
焦点距離:16mm ホワイトバランス:晴天 ISO感度:ISO 800 ピクチャーコントロール:ビビッド
レンズ:AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8G ED VR Ⅱ 画質モード:RAW(14-bit) 撮影モード:マニュアル、20秒、f/22
焦点距離:135mm ホワイトバランス:晴天 ISO感度:64に対して約1段減感 ピクチャーコントロール:ビビッド
レンズ:AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR 画質モード:RAW(14-bit) 撮影モード:絞り優先オート、1/200秒、f/7.1
焦点距離:48mm ホワイトバランス:晴天 ISO感度:ISO 800 ピクチャーコントロール:ビビッド
レンズ:AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR 画質モード:RAW(14-bit) 撮影モード:絞り優先オート、1/100秒、f/6.3
焦点距離:29mm ホワイトバランス:晴天 ISO感度:400 ピクチャーコントロール:ビビッド
レンズ:AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8G ED VR Ⅱ 画質モード:RAW(14-bit) 撮影モード:絞り優先オート、1/200秒、f/7.1
焦点距離:120mm ホワイトバランス:晴天 ISO感度:800 ピクチャーコントロール:ビビッド
レンズ:AF-S NIKKOR 16-35mm f/4G ED VR 画質モード:RAW(14-bit) 撮影モード:マニュアル、6秒、f/22
焦点距離:16mm ホワイトバランス:晴天 ISO感度:64に対して約1段減感 ピクチャーコントロール:ビビッド
レンズ:AF-S NIKKOR 16-35mm f/4G ED VR 画質モード:RAW(14-bit) 撮影モード:マニュアル、8秒、f/22
焦点距離:22mm ホワイトバランス:晴天 ISO感度:64に対して約1段減感 ピクチャーコントロール:ビビッド
レンズ:AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR 画質モード:RAW(14-bit) 撮影モード:絞り優先オート、1/20秒、f/5.6
焦点距離:56mm ホワイトバランス:晴天日陰 ISO感度:400 ピクチャーコントロール:ビビッド
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「九寨溝ブルー」
九寨溝に行ってみたい、と思った直接のきっかけは、この神秘的なブルーの水だった。これまでいろんな国の海で、深いブルーから白に無限に近い明るいブルーまで、さまざまな種類のブルーを撮影してきた。けれど、この地の写真をあるサイトで見たとき、それまで見たこともない色をたたえる水が、はっきりと僕を誘(いざな)ってきているのを感じた。
この作品は、その“九寨溝ブルー”を前面に出して、最初に誘われたときの気持ちを表したくて撮影したもの。