Videographers’ Talk

映像ディレクター、撮影監督による
スペシャルトーク

徳平弘一 × 光岡兵庫

光岡兵庫

hyogo mitsuoka

1993年生まれ。板前として修業した後、フォトグラファーへ転身。雑誌編集、スチール撮影、テレビ制作会社を経て広告の道へ。現在はミュージックビデオをはじめWebムービー、TV-CMを手掛けている。主な作品に、JR SKI SKI 2019 Webムービー、INAX JAPAN Webムービー、King Gnu 白日、森永乳業 のびうまモッツァレラWebムービー など。

徳平弘一

koichi tokuhira

1989年 中華人民共和国 青海省 生まれ。大学時代にアメリカNew Yorkに留学し映像を学ぶ。帰国後、映像ディレクターを養成するTHE DIRECTORS FARMに参加し、2018年に独立。現在は、英語・中国語・日本語を駆使して、国内外のTV-CM・Webムービーなど演出。主な作品に、マクドナルドTV-CM、日立製作所 ブランドムービー、Honda×WIRED Webムービー、中国コカコーラ スプライトTV-CMなど。

リズムで映像をデザインする

―徳平さんは映像ディレクターとして、さまざまな企業のCMを手掛けられています。これまでの経歴を教えていただけますか。

徳平:「最初から美術系の道に進んでいたのではなく映像には関係のないふつうの大学に入学したんですが、大学の仲間と一緒にカメラで撮影をしてみたことがきっかけとなって、将来は映像の世界に進むことにしました。映像って一人で完結するものじゃない、それがすごく新鮮で楽しいと思ったんです。本格的に映像を学ぶため、一年休学してウィスコンシンにある大学へ交換留学に行きました。日本に帰ってから、ディレクター集団「THE DIRECTORS GUILD」が募集していたプロ養成機関「THE DIRECTORES FARM」に拾っていただくことができ、アシスタントディレクターとして色んな経験をすることができました。独立したのは2年前でフリーランスとして映像ディレクターをやっています。広告の仕事が多く、なかでもテレビCMやムービーCMが多いですね。あと、自分で脚本を書く書くと言い続けながら、これは全然書けていないんですけど…。」

―映像ディレクターとして普段どんなことを意識しているのでしょうか。

徳平:「僕はリズムというか、テンポを意識しています。映像って目で見るものだけど、意外と時間の芸術だから。視聴者がいるので、その時間を楽しく過ごしてもらうっていうのは大前提であって。そうなったときに、1曲3分~4分の音楽よりも短い時間の中で表現していくわけだからリズムがすごく大事になると思っています。ここで盛り上がって、ブレークがあって、クライマックスはさらにもっと盛り上がって、といったように視聴者に感じてもらいたいイメージを膨らませて、リズムやテンポの音の感覚を掴みます。映像のアングルを決めるためにやるというよりは、視聴者に感じて欲しい気持ちの流れを自分で確認するためだったり、スタッフで共有したりするために。手法は、紙芝居でもいいし、自分で撮ってもいい。たとえば簡単にビデオコンテをつくって自分なりに1回着地させちゃいます。そうやってリズムから映像をデザインすることを心がけていますね。」

緻密な計算、自由な感性

―有名アーティストのミュージックビデオを多数手がけられていますが、以前は板前だったと伺いました。これまでの経歴をおしえてください。

光岡:「板前は18歳から20歳までやっていました。けど、たまたま店で料理のメニューを撮影する機会があって、その時にニコンのD3000シリーズを買ったのですが、撮ってみるとすごく面白い。カメラにそこで目覚めました。タイミングよく雑誌の編集部で人を探しているという話を聞いたので、すぐに板前を辞めることにしました。こうして1年ほどアシスタントをしている時に、僕の写真の師匠に出会いました。実は家が近所で僕が3歳くらいの頃から知り合っていたのですが、当時は何をしている人か知らなくて。広告に使われていた写真のクレジットを調べていたら、たまたまその本人で。お久しぶりですって、実際に会いに行きました。それで写真や機材を見せてもらったり色々話したりしているうちに、すごく楽しく写真で表現されている人だなと思って。ものすごく恰好いい生き方をされているので、僕もこんな風になりたいと思うようになりました。そこからですね。本気でカメラマンを目指すようになったのは。その後は、スチールの現場やテレビの制作現場を経験したのですが、ある仕事で広告カメラマンの現場に行ったときに、こんなにも映像のクオリティにこだわるのか!という衝撃をうけ、勤めていた会社をすぐに辞めて広告の世界に飛び込みました。そこで2年くらい撮影部の助手になって修業をし、現在はフリーランスの撮影監督としてミュージックビデオをメインに撮っています。ほかにWEB映像、たまにテレビCMも撮っていますね。」

―撮影監督として大事にしていることは何ですか。

光岡:「色々ありすぎて何を言えば良いのか…。徳平さんから僕はどう見えていますか?」

徳平:「映像ディレクターとして色んなカメラマンを見た時に、このアングルは綺麗とか、壁で行き止まりになっているのが嫌で奥行きがあるのが良いだとかは、実はそれほど気にしていません。それよりも、映っている人の魅力を見つけてくれるのが良いカメラマンだと思っているのですが、光岡君はそういうことができる人ですね。僕が考えるカメラマンのミッションは、視聴者をハッとさせる演者の表情なり、そういった素敵な瞬間を撮ることであって。逆光の光が入って画がすごく綺麗だったというのはカメラマンからのプレゼントみたいなものだと思っています。でも彼の場合は、単純にめちゃくちゃスキルがあるから、そういうこともできちゃって映像クオリティも高い。多分、陽の回りとかをひっくるめて全部計算しておいて、いざ現場が始まると、それを全部忘れて。感じたまま撮ろうってなっている感じが素敵だな、って思いますね。」

光岡:「確かに大事にしていますね。でも、それって実は徳平さんから学んだことですよ。」

徳平:「いや、今のは褒めすぎました。」

誰にでも残したい一瞬がある

―NIKKOR Zのプロモーションのために制作した作品「THE MOMENTS」には、どんな思いを込めたのでしょうか?

徳平:「優れた光学性能を持っているNIKKOR Zの広告として、まずどういう映像が良いのかということを考えました。ただ綺麗な映像です、絶景です、といったカレンダーのような映像にはしたくなかったんです。よく皆さん、結婚式のオープニング映像で両親が撮った写真をスライドショーで見せたりしますよね。その写真って本当に良い写真ばかりじゃないですか。って、考えてみると、人が残したい写真や映像って、エモーショナルだったり、素敵だと思ったりする瞬間なのかなと。そういうものが伝わるサンプル映像にするのが良いと思いました。人が生きていくにあたって、「瞬間」という時間はどんどん連続してあるんですけど。今訪れた一瞬も、その次にくる一瞬も、ぜんぶ未体験の一瞬じゃないですか。だからこそ、人はかけがえのない瞬間を残したくなるのかな、と。そうなってくると、サンプル映像のストーリーには、一日、二日で終わる展開よりも、十年二十年の長い年月をかけたストーリーが必要だと思ったんですね。二度と戻らない一瞬だから、人は大事にしたい。だから撮りたい。残したい。それが「THE MOMENTS」と名付けた理由です。」

―実際の作品づくりはどういった風に進めていったのでしょうか?

徳平:「Noctというすごいレンズが出ると聞いていたので、機材にも詳しい光岡君をすぐに誘いました。ブタペストというロケ地だけは決まっていたので、そこから二人で色んな話をしました。普段は僕が一回引き取って演出コンテを書くのですが、今回のニコンの仕事は 、カメラやレンズのポテンシャルを見せるという仕事だったので、どういう画を作れば良いのか。それが伝わるのか。というところをずっと話していました。それを基にストーリーを作って、また話して。」

光岡:「事前に話し込んでおくと本番で怖くないんですよ。どんと来いって感じで。だから話せることは全部話しました。ハンガリーも、ブタペストも行ったことないですからね。ブタペストのダンススタジオをネットで調べて候補を探し、写真を見ながらイメージを二人で確認して。スケジュールから考えるとダンススタジオの撮影時間は朝しかないとか、そういったことを色々考えて、太陽の光はどうなると良いとか、カーテンの色はどういうのが良いのか。窓の大きさはどのくらいが良いのか。どんな壁のディテールが良いのか。じゃあこの画は、こういう風になるねとか。」

徳平:「とことん話して、あとは現場でインスピレーションを感じたときに撮れるという余白を残しておきます。そんなシーンは今回も色々あって、例えば01:38の駅のシーン。モニターをチェックしていると、黄色い電車の色が背景の空の色と非常にマッチしていることに気づきました。すごく良い画になるから、動きも欲しいし、電車追いかける女の子って可愛いし、予定になかったけど撮ろう。絶対撮ろうという話になりました。」

―撮影で特にこだわったポイントはどこですか。

光岡:「今回はレンズの仕事だったので、レンズのキレやコントラスト、ハイライト、エッジ感とか距離感の見え方とかっていう、レンズ個性のさまざまな表現にこだわりました。そのためにまずはニコンからレンズを借りてきて、カラーチャートを使ったテスト撮影で普段使っている機材に比べてどのような特徴があるのかということから始めました。」

徳平:「レンズの広告ということもありますが、ずっと話していたのはシンプルに良い画を撮ろうということですね。あとハイライトから逃げないということです。画の良し悪しってハイライトに出るので。」

光岡:「ハイライトを飛ばさないというのは一生の課題ですけど、そこから逃げると色の情報が失われてしまうので、ハイライトを飛ばさず綺麗な色のグラデーションが残るように、カメラやレンズの素性が分かるように心がけました。本編の02:18の映像は、それが最もよく表れているシーンだと感じています。たまたま照明が良い位置にあって、美術とか壁の色とか肌の色がココしかないという感じで見事に調和していて、本当は撮影を切り上げなきゃいけないタイミングだったのですが。時間が無いけどこんな良い画は撮り逃せないということで、みんなで急いで撮りました。」

徳平:「茶色や黄色の壁がすごく良くて、緑のドレスも良い。色の豊かさもすごくあるのに、光を受けた人物のグラデーションも美しく出ている。ピアノの陰影だったり、金属の質感だったり、素材感の違いまでしっかり表現できている。ディテールが表現されていて、ハイライトのグラデーションもあって本当にミラーレスカメラで撮ったとは思えない。」

光岡:「僕が一番興奮したのは車のシーンです。カメラをどう入れるかって準備もなく、ほとんど無理やり撮りました。被写体からの距離感って重要で、Noctの焦点距離58mmで撮るならある程度離れたいと思う一方で、車内から撮っているので全然撮影距離が稼げなくて正直この画は使えないかもしれない。けど、いざ構えてみると、とんでもなく綺麗な映像なんですよね。背景の抜け方や玉ボケがすごく良い。これまでなら、離れた場所から長玉のレンズを使う場面でも、Noctなら短いワーキングディスタンスで撮ることができるので驚きました。

―今回ニコンの機材を使ってみてどう感じましたか?

光岡:「正直最初はミラーレスカメラで撮ることに抵抗がありました。解像感やノイズが気になっていたのですが、実際に収録してみるとふつうに綺麗で。N-Logで収録すると10ビットになるのでカラコレでも全く問題なかったです。カラーリストの人もすごく扱いやすいと言っていて、本当にミラーレスカメラで撮ったのかと驚いていました。色の再現性はすごかったですね。コントラストの再現性が高いので鮮やかな被写体を鮮やかなまま表現できるっていう所は、ニコンのレンズだからこそできたと思うポイントです。」

徳平:「今回の撮影の規模感って相当小さかったんです。普段考える半分くらいの規模感でやっているので、違う機材を使っていたら多分破綻していたんじゃないかな。少なくとも、こういう綺麗な映像にならなかっただろうと思います。映像って本格的な機材を導入していくと非常にお金が掛かったり、スタッフが増えたりします。たとえばシネレンズ1本で100万円を超えることもザラですから。それに比べるとニコンの機材は断然安いし、予算規模の比較的小さなプロジェクトとか、少人数のプロダクションで撮る時に、映像のクオリティを出そうと思ったら選択肢に入る機材だと思いました。」

光岡:「あとは、やっぱりNoctがスゴかった。最初に触った時に、当たり前ですけど、本当に明るいレンズだと思いました。夜なのに明るいから、ISO上げてないよねって思うくらいに明るくて。フォーカスの被写界深度もとんでもなく浅いですよ。超接写レンズで撮っているような感覚に陥るぐらい。でも、フォーカスのキレが圧倒的にあるから、開放の画なのにピント面がシャープですごくリッチな画になる。ふつうのレンズは、画像の中央の光学性能がイチバン良いのでそこにフォーカスを合わせるのが良いのですが、Noctの場合は周辺にピント面を置いても、画像中央と変わらないキレが得られました。」

―今回の撮影を終えての感想を教えてください。

徳平:「SNSとかで写真を見ていると、風景とか花とか食べ物の写真がたくさん目につきます。でも、ホントに面白い写真ってそうじゃない所にある気がしていて。今回の作品は、切り取りたい瞬間ってどういうものかっていうのを考えて、実は皆さんが普段撮っているような瞬間を、象徴的にしただけの話だと思います。お母さんが自分のお子さんを撮るときのような、彼氏が彼女を撮るときのような、そんなエモーショナルな瞬間です。きっとそういうのが本来の写真の楽しさであると思っていて、そういう写真の楽しさっていうのは自分も忘れたくないと思わせてくれた仕事でした。」

光岡:「この作品が僕の代表作になりました。ホントにお世辞じゃなくずっと徳平さんにもニコンのこの作品がイチバン好きって言っています。カメラマンの色って人によって違うと思うのですが、自分がすべてを決めるよりも、僕は相談して話し合って出た答えの方が絶対いいと思っています。この作品では、最初の打合せから最後まで関わり続けたということもそうだし、本当にすべてのアングルで、どんなアングルにすれば良いかということをスタッフ同士で話し合うことができました。そういう意味で、全員で作り上げることができた僕の大好きな作品です。」