当たり前の景色を輝かせる、「青春」という名のフィルター
コロナ禍で輝く時間を失った人たちに、写真を通じてワクワクする気持ちを届けたいのです。
カメラに気づかされた地元の魅力
新型コロナウイルス感染症は、人々の生活を一変させてしまいましたね。流行が始まった頃、僕は専門学生2年生でした。学校が休校となり、友達とも会えない日々。先が見えない状況の中、でも時間ができたので久しぶりに写真でも撮ってみようかと、以前旅行に行くために購入したD5600を手にしてみました。
とはいえ、撮影旅行に出かけることなどできません。そこでひとまず身の回りの景色を撮ることにしたのです。
正直それまでは、長年暮らしたこの土地をさほど好きではありませんでした。写真を撮ろうにも見栄えのするものなんて何もない。そう思っていました。でもそんな風景にレンズを向けるうちに、だんだん意識が変わってきます。見慣れたはずの景色がファインダーで切り取ることによって、とても魅力的なものとして映り始めたのです。
実際ここには海もあり、山もあり、広い空があり、郷愁を感じさせるような単線の無人駅もある。何もなかったのではなく、僕がこの土地の魅力に気づかなかったのだとあらためて感じました。
それ以来、地元・福井が僕にとって最高のロケ地となり、僕の本格的な写真ライフもスタートしました。
コロナ禍だからこそ「青春の輝き」を撮りたかった
僕は「青春や物語を感じるシーン」を作品のテーマにしています。僕自身当事者の一人ですが、コロナウイルスによって「青春」特有の「輝く時間」を奪われた人も多くいることでしょう。そこで作品としてその輝きを表現することで、見た人に明るく前向きになってほしい。また特別なイベントなどなくても、当たり前の日常の中にもきらめくような、せつなく胸を打つような瞬間があるんだということを伝えることができたらと考え、このテーマに行き着きました。
作品の中のモデルの多くは僕の友人たちですが、SNSを通じて一般の学生の方々にこんな呼びかけをしたこともあります。
「僕に思い出を残させてくれませんか?思い出を残せずに歯痒い思いをされている方の力になりたいです」
メッセージを読んで、何組もの方々が「ぜひ写真をとってほしい」と連絡をくれました。撮らせていただいた皆さんは、お渡しした写真を見て本当に喜んでくれて……。そんな笑顔に触れることができるのも、僕にとって人を撮ることの楽しみの一つなのです。
アニメの心地よさがインスピレーションの源
写真は独学です。ネットでさまざまな作品を見ながら、撮影とレタッチの技術を身に着けました。画作りの面では、もともと好きだったアニメなどを参考にしています。アニメを見ながら「こういう構図いいな」と感じたら、それを写真に落とし込むといった具合です。
色の処理にしてもそうです。現像をしながら、例えば空や海の青にあわせて影の部分にも青みを入れて全体的に色を調和させ、より絵的なイメージに仕上げるといったことをしています。見た人に心地よさを感じてもらえるよう、レタッチにも時間をかけています。
撮影場所は基本的に地元が多いのですが、たまに県外へ出かけることもあります。SNSで他の人の写真を見たり、Googleマップのストリートビューの中を散歩したりしてあらかじめ目星をつけて出かけています。
もっとも現地に行ってみてイメージと違ったなどということも少なくありません。でも逆に想像以上に良い画が撮れたりすることもあるのです。期待半分、不安半分。先が見えことがまた楽しかったりもします。
父と祖父、そして僕
今使用しているのはZ 5。このカメラに買い替えたことで、より撮影が快適になりました。
最初に感じたのはファインダーの美しさ。以前はシャッターを押すたびに写真を確認していました。Z 5では実際の景色と、ファインダーの映像と、撮影した写真がほぼ一致した印象なので、必ずしも一枚ごとに確認をする必要がなくなり、撮影の効率がアップしました。
描写性能としては、まず高感度耐性に優れているという点。夜間の撮影時、ISO5000や8000に設定しても気になるようなノイズはほとんど発生しません。暗所でもシャッタースピードを抑えたまま手持ちで撮影できるのはありがたいです。
また逆光にも強い。逆光で前景が真っ黒になってしまっていても、現像時にシャドー部を持ち上げると色もディテールもしっかり再現できます。
白飛びが嫌なのでいくらかアンダー気味に撮影することも多いのですが、撮影時に黒つぶれしているように見えても後から持ち上げられるという信頼感がありますから、その分撮影に集中できて助かっています。
撮影に集中という点では、操作性の良さも気に入っています。ボタンの配置が絶妙で、基本的な操作は片手で行えてしまいます。使う人のことをよく考えてくれているのも、ニコンが好きな点です。実は初めてカメラを買うとき、僕にニコンを勧めたのはニコンユーザーの父親でした。さらに祖父もニコン。二人がなぜニコンを使うのか、実際に使ってみてその理由がよくわかりました。
撮ることが町への恩返し
SNSに作品を発表したことで、随分世界が広がったと感じています。ネットでのつながりだけでなく一緒に撮影する友人もでき、さらに地元の方々とタッグを組んで仕事をする機会も増えました。
例えば福井・奧越前の観光サイト内動画で、撮影を実演しながらこのエリアの観光スポットを紹介したり、福井市の東郷地区の方々と越美北線というローカル線の魅力を、写真を通じて発信していくという取り組みをしたり。僕も所属している「hoyano film」という写真グループの仲間と一緒に、市の観光課主催の写真コンテストなどにも協力しています。
県外のみならず福井に暮らす人たちの中にも、以前の僕のように地元の良さに気づかれていない人も少なからずいることでしょう。僕の写真をきっかけにもっと多くの人に福井が愛されるようになれば、いつも素晴らしいモチーフを与えてくれるこの土地への恩返しになるのではないか。そんな思いでいます。自身の作品制作と並行して、これからも地元を盛り上げるための活動も行っていきたいです。