日々の暮らしの何気ない瞬間、ささやかな幸せが私のモチーフ
日常の中でふと見つける、何気なく、愛おしいもの。その場の光や空気まで、優しくカメラに収めたいのです。
幸せの情景に背中を押されて
デジタルが主流となったカメラの世界ですが、フィルムの風合いも好きなんです。学生の頃、たまたま家で見つけた父の古いフィルムカメラ。使ってみたところ、オールドレンズならではの優しい光の描写に心を奪われました。そこからですね、少しずつ写真に傾倒していったのは……。
大学を卒業後、一般企業に就職。その後結婚や転居、パティスリーへの転職など、取り巻く環境や状況は随分と変わりました。でもその間もカメラはずっと私のそばにありました。
写真を続けられていたのは、SNSの影響も大きかったと思います。アップした写真への「いいね」が励みになったり、お友達になった方と情報交換をしたり、フォローした人の写真から学ばせてもらったり……。特に写真の勉強などをしてこなかった私がプロとして活動できるまでになったのは、多くの方々との交流があったからだと感じています。
実際に写真を仕事にすることになったのも、お友だちからの「出産記念に家族写真を撮ってほしい」という依頼がきっかけでした。レンズ越しに伝わってくる幸福感に、こちらも幸せな気分になれたこと。私の撮った写真をとても喜んでくれたのが嬉しかったこと。そんな気持ちに背中を押され、フリーの写真家として歩みだしました。
現在は家族写真以外にも企業の広告写真、地方自治体のPR写真など、幅広く依頼をいただいています。基本的に楽しそうだと感じたら、なんでも引き受けたくなってしまうのです。そんなわけで、日々各地を飛び回りながら撮影をしています。惹かれるのは、何気なくも愛おしいもの
プライベートでも人物、とりわけ友人家族を撮るのが好きです。それ以外には身の回りの木々や花など、日常の風景もよく撮っています。
撮影時、気に留めていることは、視野を広く持つことでしょうか。例えば頭上の木々の葉や足元の木漏れなど、さりげない美しさや可愛らしさに惹かれ、よくレンズを向けています。でもそういったものは、漫然と歩いていては見落としてしまうかもしれません。カメラを持って外へ出るときは、自分の中に素敵なものを発見するアンテナを立てながら、いろいろな方向へ意識を向けるようにしています。
それから表現としては、ずっとフィルムのような画作りを意識しています。パキッとした描写よりも、明るく柔らかい光に包まれるような、ニュートラルでふわりとした感じ。そんな雰囲気を出すために、あえて逆光で狙ったり光を強めに入れたりすることも多いですね。現像時もシャドー部を上げたり好みの色に寄せてみたり、時間をかけてイメージに近づけるようにしています。
ちなみに広告に使う写真は、逆に撮って出しを求められることが少なくありません。まずは撮影データをそのままの状態でお渡しして、選んでいただいた写真をあとから編集するといった流れです。補正をしなくても広告のプロの目にも耐えうるクオリティのものを提供しなければならないので、カメラにも私にも求められるものは大きいですね。
持ち歩くだけで気分が上がるカメラ
Z fcを初めて手にしたときから、このカメラはずっと私のお気に入りです。
ひと目でデザインに惹かれました。かつて人気を博したニコンのフィルムカメラのよう。レトロなビジュアルが今見るとかえって新鮮で、持ち歩くだけで気分が上がります。
昔風の外観ですが、カメラとしての性能はもちろん最新のもの。思っていた以上に心地よく使えています。
まずその操作性。昔のフィルムカメラのように、シャッタースピードや感度などの設定はダイヤル式です。ファインダーを覗いたまま、とっさに指先で設定を変えることができるのはとても助かります。
写りとしては、自然な描写でクセがあまりない、実際の見た目に近い印象です。撮影後に編集に持っていきやすいといいますか、ナチュラルだからこそ自分の色味を重ねられるところがいいですね。
さらに気に入っているのは、青が美しく出ること。私は青や緑の色調にこだわりがあるのですが、他のカメラだと空の青がなかなかきれいに出てくれないケースも多いのです。風景や植物を撮ることが多い私にとって、まさに好みにマッチしたカメラといえます。
それから階調が豊かな点も。これまで使っていたAPS-Cのカメラはシャドー部がつぶれやすいと感じていましたが、このカメラは後から影の部分を少し持ち上げるだけで色や形が浮かび上がり、自然な印象の写真になります。撮影時点でレンズとセンサーが微細な光もしっかりと捉えてくれているのでしょう。
レンズでいちばん使っているのは、NIKKOR Z 28mm f/2.8(Special Edition)ですね。私好みのフィルムライクな優しい写りを提供してくれます。デジタルでこの表現ができるなら、もうフィルムでなくても良いのではと感じています。
「一生の宝物」を撮り続けたい
これまで人物や風景を多く撮ってきましたが、これからは少し本腰を入れてテーブルフォトにも取り組もうかと考えています。
パティスリーに勤務していたとき、先輩方がお客さまのテーブルへお出しするケーキ皿やカップの配置がきれいで、こんな風にレイアウトすると見栄え良く見せられるのかと勉強させていただきました。そこからテーブルフォトにも興味がわき、自分でも少しずつ撮るようになりました。
まだまだ大手を振ってあちこちへ出かけることはできませんから、逆に家の中だからできる新たな試みにチャレンジしたいと思っています。そしてこの状況が明けたら、さらに多くの家族の笑顔を撮りたいですね。
以前、撮影したご家族から「この写真は一生の宝物」と言われたことがありました。誰かにとっての宝物を自分が撮れるなんて、なんてやりがいのある仕事だろうと……。それからさらに家族写真が好きになりました。
もちろん責任は重大。お宮参りや七五三の撮影は、撮り直すことができません。プレッシャーも大きいですが、それ以上に人に喜んでもらえたときの感動もひとしおです。これからもその思いをモチベーションに、私の写真家としての原点でもある家族写真を撮り続けていきます。