徹底した検証・研究から生まれた、岩本流動画撮影術
映像のクオリティも表現のこだわりも追求した結果、Z シリーズに行き着きました。
使い比べて感じたニコンのクオリティ
WEBクリエイターとして活動していた頃のことです。仕事に行き詰まりを感じていたとき、旅先で映像作家の方と出会います。たまに依頼を受けていたものの、手間がかかるという理由から敬遠しがちだった動画制作。でもその人から「音楽に合わせて編集をする」といった方法を聞き、やってみると今まで面倒だった編集作業がむしろ楽しく感じられるようになりました。
以降独学で動画制作の技術を磨き、ビデオグラファーに転身。現在ではYouTubeでの情報発信や動画撮影に関する講師など、多岐に渡り映像に関わる仕事を行っています。
ちなみに撮影機器は始めからニコンのカメラだったわけではありません。最初はその当時では珍しかった、30分以上の動画が連続撮影できるミラーレスカメラを使っていました。
しかしフォーカスの精度や画質がどうしても気になり、しばらくしてまた別メーカーへ。これで気になった点は解消されたものの、今度は映像に味わいが感じられないという不満が……。そして行き着いたのが発売間近のZ 50でした。
ニコンのミラーレスカメラを使うのは初めてだったのですが、ニコンプラザで手にした瞬間から「このカメラは違う」と感じました。手にしっかりと収まるホールド感、わかりやすく使いやすいインターフェイス、美しい液晶画面。そして何より撮影した画像のクオリティ。さすがはカメラメーカーと感動し、その後はZ 6II、Z 7IIとニコンのカメラを使い続けています。
重要なのは「違和感」の排除
動画撮影に「ビデオカメラを使う」という選択肢はありませんでした。私がイメージする画を撮るためには、ミラーレスカメラが必要だったからです。中でも特にニコンのカメラは、私の要求に高いレベルで応えてくれています。
一つにはボケ感。背景のなめらかなボケはやはりミラーレスカメラならでは。被写体を浮き立たせるような画作りをするためには、質の高いレンズは必須でした。
それから逆光時の画の美しさ。私は野外では背景に太陽を入れて撮ることがよくあります。そのときもゴーストやフレアを極力軽減しながら、白飛びや黒つぶれを抑えつつ、被写体自体も自然かつ豊かな色調で表現できる。やはり優れたレンズとセンサーだから為せることなのでしょう。
もう一つ重要なのが再現性。特に食品を撮るときなどは、わずかな色の転びが致命傷になりかねません。そして撮影した動画自体ももちろんですが、ファインダーや液晶画面の映りも大切です。他のメーカーのカメラを使っていたときに、これらがマッチしていなかったためイメージしていたような仕上がりにならず、随分と苦慮したことがありました。その点ニコンは安心して撮影に集中できます。
映像を作る上で大切にしているのは「違和感をなくす」ということ。見る人をその作品世界に没入させるため、ノイズになるような要素が入らないように細部まで気を配り制作しています。
撮影の舞台は、51brothersの拠点である大阪。大阪城公園の森の中であえて逆光で撮影。特に私の映像作品では太陽の存在がとても大きい。撮影時間は約3時間程。森の中で3本通しで演奏いただき、引のシーン、寄りのシーン、またジンバルのFPVモード(パン、チルト、ロールフォロー)を使った動きのある映像の撮影。その3本動画をひとつにまとめ、Bロールとして、メンバーが遊んでいる様子や話している様子、また季節的に梅の花が咲いていたので、女性メンバーのシーンを撮らせていただき、全体の映像にBロールを加え、MVとして仕上げました。
作品解説 − Music Video
大阪城公園の森の中で、ジンバルを使用して撮影しています。ジンバルとは主に手持ちで撮影する際、カメラに取り付けることでブレを抑えた撮影が可能になる機器です。
このときは3回通しで演奏をしてもらい、それぞれ引きのシーン、寄りのシーン、またジンバルのFPVモード(縦、横、斜めなど、撮影者の動きに合わせてジンバルが自由に回転)を使った映像を撮影。さらにBロール(メインの演奏以外の映像)として、メンバーが遊んでいる様子や話している様子などを挟み込み仕上げました。
本動画のように斜めの動きまで撮るケースはあまりありませんが、曲調にマッチした動きのある映像になったのではないでしょうか。
この撮影で大変だったのは機材の重さ。ジンバルにZ 7IIにレンズをつけると3kgほどになります。それを構えながら演奏中のメンバーの間を走り回り撮影するのは、ジンバルを使い始めたばかりの頃の私では体力的にも筋力的にも難しかったかもしれません。
ところで撮影時には、主に太陽を背に演奏してもらいました。明暗差が激しい場所でも自然な色合いで撮影できたのは、カメラのアクティブD-ライティングの設定によるところも大きいと思います。それから女性が梅を眺めているシーンでも、ミラーレスカメラならではの美しいボケの効いた映像が撮れました。
定期的に家族で遊びに行く、奈良県の馬見丘陵公園にて撮影。コキアの紅葉が始まった時期に撮影を行いました。普段から子どもたちと遊びに行った時はカメラを持って動画を撮ることが多い私。NIKKOR Z 28mm f/2.8(Special Edition)のレンズ性能を確認したくて、ジンバルを使った撮影を中心に行いました。全体として、小走りで撮っているので、そのスピード感と寄りのシーンでのボケ感にも注目していただきたい動画です。
作品解説 − VLOG
奈良県の馬見丘陵公園にて撮影。やはりジンバルを使用しています。
ここでの撮影のポイントは、ブレなく滑らかに移動する映像にすることでした。ジンバルはもちろんカメラにも手ブレ補正機能はついていますが、レールが引かれているようなスムーズな動きの映像にするにはコツと経験が必要です。
ジンバル自体にも細かな設定ができるので、ブレ防止のためあえて動きに遊びを作ったり、モーターの動きの速さも自分好みに合わせたりするなど、かなり追い込んで調整しています。
それから00:44くらいからの、スピーディに子どもに寄りながら背景がぼやけていくシーンにも注目いただきたいです。フォーカスの精度とボケの美しさを確認いただけると思います。またこの映像でも、アクティブD-ライティングが効果的に効いています。子どもに露出を合わせながら、雲も白飛びせずに立体的に描写できていることがわかるでしょう。
大阪のイルミネーションスポット御堂筋。淀屋橋からスタートし、難波までの距離を歩きながらの撮影。特にポートレートムービーでは、モデルさんの「自然体」を引き出したくて、会話をしながら撮影を行っていくスタイルが多いです。カメラ目線ではなくて、ちょっと目線を外しながら、デート気分を楽しめる映像になっているかと思います。御堂筋のイルミネーションをバックに玉ボケを意識し、モデルさんに寄ってみたり、イルミネーションが流れるように回り込んで撮影してみたり、音楽のリズムに合わせて編集するところもポートレートムービーの醍醐味のひとつだと考えています。
作品解説 − ポートレートムービー
大阪のイルミネーションスポット・御堂筋を歩きながらの撮影。4K/60pで撮り、50%のスローモーションをかけるなどしています。
特にポートレートムービーではモデルさんの自然体を引き出したくて、会話をしながら撮影を行うスタイルが多いです。カメラ目線ではなく、ちょっと目線を外しながらデート気分を楽しめる映像になっているかと思います。
イルミネーションをバックに玉ボケを意識し、モデルさんに寄ってみたりイルミネーションが流れるように回り込んで撮影してみたり。音楽のリズムに合わせて編集するところもポートレートムービーの醍醐味のひとつだと思います。
ちなみに照明は一切使っていません。街中の明かりなどを利用しているだけです。肌の色も自然に出ているし、街並みも明るく描写できています。他社のカメラで同様の撮影をしたこともありますが、やはり暗くなってしまいました。同じようなレベルの表現はなかなか難しいのではないでしょうか。
ノイズについてもシビアに調整したこともありますが、ほとんど感じられません。
Z 9に感じたニコンの本気度
動画撮影に関する情報には常にアンテナを張っていて、魅力的な技術やガジェットが出てくると実際に仕事で使えるどうかを検証。レポートを動画で配信しています。もとから研究熱心で、困難と思える撮影のときもいかにそれを克服できるかを考え、実際にクリアすることにやりがいを感じています。
最近発売されたZ 9についても、発売前に実際に触らせてもらいました。購入予定ではなかったのですが想像以上のクオリティに驚き、早速注文してしまいました。
8K/30Pで撮影できることはもちろん、ProRes 422 HQ 10bitやH.265 10bitで記録可能なこと。HLGやN-Logの収録にも対応していることなど、自分が望んでいたことの多くをニコンが実現してくれたと感激しました。世間一般にはまだまだ8Kを再生する環境は整ってはいませんが、これからカメラは8K動画の撮影性能が重要視されるでしょうから、Z 9にニコンの動画撮影に対する本気度が感じられて嬉しかったです。
とはいえニコンの動画ユーザーは、まだまだ少ないように思います。ここをきっかけにユーザーの裾野を広げられるようなカメラやレンズの開発をこれからも期待しています。
映像制作でたいせつにしていること ~岩本あきら×Nikon Z
私が映像制作するうえで大切にしているのは「違和感の払拭」。ベースとなる映像素材をまるで自分の目で見ているかのように綺麗に表現するのは簡単なようで難しいのです。ここではその課題をNikon Z シリーズで実現するためのポイントと私がニコンを選ぶ理由をご紹介しましょう。
岩本あきらの映像の質をグッと上げる5つのこだわりポイント
ポイント1 白飛びさせない
屋外での撮影などで、被写体に露出を合わせると空が白飛びしたり、空に露出を合わせると被写体が暗くなったりするケースがあるかと思います。
そんな時は「アクティブD-ライティング」を活用します。露出オーバー(ハイライト)部分の明るさを下げてくれたり、黒つぶれしているシャドー部分を明るくしてくれたりと、自分が実際に見ている画の印象に近づけてくれる機能です。
併せてNDフィルター(可変式のもの)も使って露出を調整しています。
ポイント2 黒つぶれさせない
たとえば、暗い室内でYouTubeの語りのシーンを撮るとき、特に彩度が強めのカメラや「ピクチャーコントロール」といった特定の画作り設定では、黒つぶれして何が映っているかわからなくなってしまうケースがあります。
私の場合、ピクチャーコントロールの「スタンダード」をカスタムして、「コントラスト」を「-3」に設定。場合によっては「彩度」を「-1」にしたり、アクティブD-ライティングを「標準」にしたりして黒つぶれを極力無くした撮影をしています。こうすることで肉眼に近い諧調を保った画づくりができます。
ポイント3 極力、ノイズの少ない映像を目指す
特に暗いところでの撮影では、ノイズ(モヤモヤとした砂嵐のような映像)が出てきます。
理由はさまざまですが、特にISO感度を上げすぎると目立つようになるため、まずは感度をできるだけ上げないように撮影しています。私の場合は明るいレンズの使用や照明の利用、ISOの設定も上限をISO320や640までとし、ベースはISO 100を目指してMモードにして撮影しています。
ポイント4 ブレない映像を目指す
テレビドラマのクレーンを使った映像やレールを使った映像のようにスムーズにカメラが移動する表現。これを実現するために自分の動きにあった設定をほどこしたジンバルを使い、映像のブレに対して細かくチェックをしながら、ブレない映像を極めようと心がけています。
同時に、カメラ側での設定も大切なポイント。光学式の手ブレ補正(レンズ内手ブレ補正も含む)を活用しています。またZ 9 の場合、電子手ブレ補正はコンニャク現象(グニャグニャする映像)が出ないチューニング(ソフトウエア処理)となっています。この点もZ 9は映像制作にむいたカメラといえるでしょう。
ポイント5 音割れ、音ズレ、環境音を排除し、音楽に合わせた編集をする
撮影時は極力必要のない音を排除したり、聴き取りやすい音量や音質になるように調整をしたりしています。また映像の繋ぎ部分も、違和感がでないようにスムーズな編集を心がけています。
マイクも、映像を観る方が耳障りにならないような機種を選んで使っています。
編集時、映像にバックミュージックを入れる場合は単に音楽を入れるのではなく、その音楽のリズムにあわせるように調整しています。音楽と動画のつながりのタイミング(リズム)がズレると違和感につながりますので、見やすく聴き取りやすい、リズムに合った編集を行っています。
Nikon Z を選ぶ3つの理由
理由その1 フォーカスブリージングを抑えられる
フォーカスブリージングとはフォーカスの動きに対して画角が変化する現象です。特にカメラの前に商品を出すような動き(レビュー動画など)では、気になる方も多いはず。
ニコンのカメラやレンズを使う理由として、フォーカスブリージングの少なさがありますが、中でも私が一番少ないと思うのは、NIKKOR Z 24mm f/1.8 S です。このレンズはもうフォーカスブリージングがないと言っても良いレベルでしょう。
理由その2 再現性の高い色味
あえて映像の色を変えるのは個性的な表現として良いと思います。でも私が多く依頼いただくのは、再現性が求められる食品や商品の撮影といった案件なので、色をしっかりと再現できる Z シリーズを使っています。
実際に見ている画に対する液晶モニターやファインダーの見やすさ、再現性の高さは群を抜いて優れていると思います。
理由その3 背景が何かわかるグラデーションのようなボケ
私がニコンを使う大きな理由のひとつがボケのクリアーさ、透明感、綺麗さです。特にf/1.8 Sやf/1.2 S の Z マウントレンズ群は、非常に自然なボケ表現が得られます。
今回ご紹介した内容が私の中でのベースですが、日頃から常により良い映像を求めて、細かく気になった点を改善していくことも心がけています。もっと良くなる!もっと良くしてやる!という気持ちで研究を重ねています。