事務職からフォトグラファーへ。写真漬けの日々と仲間のサポートが力に
多くの方に支えられながら、フォトグラファーとして経験を重ねることができました。これからは自分自身の表現にも挑戦をしていきたいと思います。
事務の仕事をするはずが、フォトグラファーに
ごく普通の会社員だった私がカメラを始めたきっかけは友人との北海道旅行でした。初めて訪れる北海道の風景を前に、友人に借りた一眼レフカメラでの撮影の楽しさは今でもよく覚えています。
帰宅後、いざ現像した写真の出来栄えにがっかりした悔しさも手伝って、すぐさま一眼レフカメラを手に入れました。通勤の道すがら街の様子を撮ったり、SNSの写真コミュニティで親しくなった友人と情報交換をしたりと「熱中できる趣味」として撮影を楽しんでいました。数年後、写真を生業にすることになるとはそのときは想像もしていませんでした。
その後会社を辞めた私は、事務職のため資格試験の勉強をしながら仕事を探していました。そんな時、目に留まったのが月に10日程度の「料理写真撮影バイト」です。勉強と並行して好きな撮影ができるこの仕事は、私にとって理想的なものでした。今思えば経験不問の写真の世界を体験できたのは幸運だったと思います。朝から晩まで機材を持って走り回る忙しいものでしたが、好きなことで働けるという楽しさから、だんだんと一時的なアルバイトではなく仕事として写真に携わりたいという想いが芽生えてきました。とはいえ、きちんと写真の勉強をしたこともないような私が安易な気持ちで飛び込める世界ではありません。葛藤を抱えて悩んだ末に「撮影を仕事にする」と決めることができたのは、写真仲間や先輩、お客さまそして写真の師匠からの後押しのおかげでした。
休みもなく写真と向き合い続けた日々
写真業界に入ったばかりの頃は、かなりタイトなスケジュールで仕事をしていました。
今日は商品や人物撮影、明日は結婚式場の撮影と引きも切らずに仕事を請け、撮影現場も大阪だけでなく近畿一帯から東京まで、「これも貴重な経験」と飛び回っていました。このおかげで短期間のうちにたくさんの現場を経験することができました。写真漬けの日々で体力的にきついこともありましたが、楽しかったですね。
仕事で被写体とするのは主に商品撮影と人物。どちらもスピード勝負なところがあるのですが、商品撮影などで見せ方をこだわったり納得がいかなかったりしたときなどは気づくと2、3時間たってしまっていることもあります。
そうやって経験を積んでいった数年後のある時、コマーシャルフォトのスタジオのお手伝いをさせていただく機会に恵まれました。長年第一線で活躍されている先生の撮影アシスタントとして撮影に携わらせていただけたことで、ここでしか得られない技術を学ぶことができました。
写真の世界に入ると決めたころに師匠からいただいた「現場は宝」という言葉。自分にないもので悩むよりも現場を経験することで学べることはたくさんある、というメッセージを励みとして仕事に向き合いながら、こうして徐々に商業写真の世界に足を踏み入れていったのです。
変化を遂げていたミラーレスカメラ、Z 6 との出会い
ミラーレスカメラは数年前から動向をみていましたが、ニコンの「Z シリーズ」の発表を聞いたとき、フルサイズの本体だけでなく新マウントのレンズもラインナップしてきたことに期待を感じたものです。
そんなとき、師匠が「ニコンのミラーレスカメラを買ったのだけれど、とても良いので見せてあげる」と、わざわざ訪ねてきてくれました。触ってみてカメラの変化に興味を感じ、すぐにZ 6の購入を決めました。
まず好印象だったのは、カメラが軽量でコンパクトだったこと。軽量な機材は複数のボディーやレンズを持ち歩く仕事においては負担が軽減されますし、コンパクトなカメラは人物撮影の際に相手に緊張感を与えません。動作音も小さく、静かな場所での撮影にも向いていると思います。瞳AFやターゲット追尾AFをはじめ、様々な情報がファインダーで確認できるなど、これからのカメラとしての「変化」を感じました。
そしてそうしたカメラの進化、変化に合わせて「これからの撮影が変わるかもしれない」という思いももちました。それならば早めに新しい技術や機能に慣れておきたい、と思ったのです。
今までもこれからも進化し続けるZ シリーズに、私もついていきたいと考えています。
少しずつ見えてきた、自分が表現したいこと
最初から商業写真の世界に足を踏み入れていた私にとって、「お客さまのために撮影する」ことが「写真を撮る」ということでした。それは「どんな写真がもとめられていて」「どうすればそれが伝わるのか」を考え、そしてお客さまに喜んでいただける写真を撮る、ということを一番に考えた撮影です。いつの間にか、私にとって写真は「仕事」になっていました。お客さまの求める商業写真を撮ることが自分自身の表現だと錯覚していたのかもしれません。
撮影の仕事以外にも写真教室の講師として写真表現の授業をしていたので「創作活動」と縁がなかったわけではないと思うのですが、いざ自分が表現したいこと、写真で伝えたいことはなんだろう?と考えたとき、大きく突き動かされるほどの情熱はそのときの自分の中に感じることはできませんでした。
しかし、カメラと同じように進化と変化を遂げていく多種多様な写真表現の世界に触れるうち、止まっていた想像力がすこし動きだし、自分の表現に挑戦してみたいと思う気持ちが湧いてきました。
自分らしい表現を見つけるためにこれからも作品としての写真にも挑戦していけたらと思っています。
濃密な12年を経て、これからも変わり続けていくカメラと文化と表現の中で、自分が撮りたいと思うものもどんどん変わっていくのかもしれません。時代にしっかりついていきながら、楽しめる写真をこれからも撮っていきたいと思います。