はじまりは岐阜城と月。写真が街を変える力になる
地元の魅力を掘り起こしてくれる写真愛好家たちの作品は、地域にとって貴重な財産。街に活力を与える大きな力になると思うのです。
展覧会からはじまった、写真による地域活性
大学の建築科を卒業以降、建築設計を生業としています。近年ではもうひとつ、写真家という肩書も持つようになりました。平日は建築士、週末は写真家。休む暇もないのではと言われますが、好きなことを仕事にしているので苦に感じることはありません。
被写体は主に風景。風景写真家は非常にフットワークの軽い方が多く、一泊で北海道や九州まで撮影に行くなどという話もよく聞きます。でも私は生まれ育った岐阜や職場のある愛知など、愛着のある地元の景色にレンズを向けることが多いですね。
写真家としての主な仕事は、行政や企業とのタイアップです。数年前、写真仲間と「本気(マジ)岐阜展実行委員会」という会を作り、岐阜の景色をテーマとした展覧会を開きました。それが岐阜市の観光課の方の目に留まり、写真を通じて地元を盛り上げる活動を始めることに。そこから派生して、他の自治体からも声をかけていただいたり、Jリーグ「FC岐阜」の公式ユニフォームに私の写真を使っていただいたりと、どんどん活動のエリアが広がっています。
都市と自然と岐阜城。それぞれの魅力
今回ご覧いただいている作品は、私の代名詞にもなっている「岐阜城と月」。そして地元を中心とした都市部の夜景や自然の風景です。各々違った魅力があり、撮り続けています。岐阜城と月の撮影に使用したレンズは、AF-S NIKKOR 600mm f/4E FL ED VR。マウントアダプター FTZを介し、Z 7IIに装着して撮りました。
城に比べ、月が随分と大きい印象かと思います。でも月の大きさはどこから見ても変わりません。ただし城は遠く離れると小さく見えます。つまり城から距離を取るほど城に対する月の比率は大きくなり、それを超望遠レンズで撮影すると巨大な月を背にした迫力のある岐阜城の画になるというわけです。
何年も前からこのような作品を発表しているのですが、いまだに合成ではないかと言われることがあります(苦笑)。
都市や工場地帯の夜景写真には、カメラでしか表現し得ない独特の面白さがあります。人の目には見えない光まで捉えるカメラシステムが描くものは、現実でありながらまるでゲームの世界のような光景。私はレタッチで追い込み仕上げる制作スタイルなのですが、肉眼で見ても非現実的な景色ではあるので、さらに作り込んだ表現も許されるであろう自由さを、この被写体には感じています。
もうひとつ、都市夜景が好きな理由は、人の営みが感じられること。街中、星のように散りばめられた小さな窓の灯り一つ一つにそこで暮らす人たちの物語があるのだと思うと、ファインダーを覗きながら思わず感慨に浸ってしまうこともあります。
対して自然の風景写真の面白さは、有機的な形の交わりの中から構成の美を見出すことでしょうか。私の作品を見てくださる方から、時々「建築士らしさを感じる」と言われることがあります。 あまり意識したことはないのですが、建築の仕事で培った構成の感覚が、知らぬ間に風景の切り取り方にも反映されているのかもしれません。
風景の中でも水辺の景色、とりわけ水面の映り込みなども多く撮影しています。実像と虚像、その関係から生まれるコンポジションに惹かれます。
SNSと展覧会。どちらも大切な発表の場
作品の発表の場は主にSNSと展覧会なのですが、それぞれに私の中で異なる意味合いがあります。
SNSは気軽に作品をアップして見ていただく場。意気込んで発表するというよりも、日々のルーティンワークの一つとして行っています。だからといって決して軽んじているわけではありません。写真好きの方との交流の楽しさもありますが、プロとして活動をしていくための重要なプロモーションツールとも位置づけています。投稿写真への「いいね」の数は多くなくても、実は思わぬ方が見てくれていて、それが大きな仕事のきっかけになったことも。1枚1枚の反応に一喜一憂せず、公開し続けることに意味があります。
片や写真展は、まさに「自分の表現はこれだ」と発表する場です。モニター上の出来にとどまらず、プリントや展示の仕方まで表現者としての思いを存分に込めることができます。またそこにはリアルな出会いがあり、ご覧いただいた方とじっくりお話できるのも展覧会ならではの良さといえるでしょう。
ネット上の発表と展覧会の発表。両輪で走らせることによって相乗効果が生まれていると感じています。
作品作りの心強いパートナー
正直、ミラーレスカメラを使うのは少し躊躇をしていました。Fマウントのレンズもある程度揃えていましたし、使用しているD850の描写力に及ばなかったら、という不安もありました。ですが実際に撮影してみたところ、今まさに導入すべきカメラだと確信しました。
まずその解像感。高精細な写真を大画面あるいは大プリントで見たとき、細部の緻密な描写にゾクゾクするような感動を覚えたことはありませんか?ニコンのミラーレスカメラは、まさにその感動を与えてくれるシステムです。
例えば都市や工場の夜景。金属の質感やガラスの映り込み、画面隅の光の粒までしっかりとシャープに捉えてくれます。また照明から発せられる光芒もこれまでにない美しさです。
それから夜景を撮影する際、現像・レタッチ作業を前提にある程度絞りながら感度を抑え、ややアンダー気味にRAW撮影をしていますが、後から暗部を持ち上げてもほとんどノイズが見られません。逆光状態の電車を捉えた作品でも、車両のディテールまでしっかりと再現されました。非常に広いダイナミックレンジと高いレタッチ耐性を感じます。
レンズについては、単焦点の描写力の素晴らしさは言うに及ばず、NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 SやNIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR Sといったいわゆる「大三元」のレンズにおいても、まるで各画角の単焦点レンズを使用していると思えるほど高いパフォーマンスを発揮してくれています。
作品作りに心強いパートナーが登場したと感じました。
作品を通じてみんなに喜びを
FC岐阜さんからのお話のときのように、作品の力が誰かの心を動かして仕事につながるのは本当にワクワクします。
岐阜市さんに使用していただいた岐阜城と月の写真のときもそうでした。このケースはシティプロモーションとして十分成果が挙げられたのではないかと感じています。ですが今後の課題として、単なる撮影スポットとして注目を集めるだけでは、スポット周辺での不法駐車やゴミ捨てといった行為により地元の方に迷惑をかけかねません。私はそこからさらに話を進める必要性を感じています。それは産業化による地元への還元。例えば「岐阜城と月」の撮影を盛り込んだ観光ツアーを組み、地元で飲食や宿泊をしてもらうことで地元も潤う、といったことです。ここまでやって本当の意味での町おこしになる気がしています。
写真を通じ、関わってくれるすべての人に喜んでいただける企画を。そんなことを念頭に、現在もさまざまなコラボレーションの計画を進めています。
スペシャルギャラリー「reflection」
無性にシャッターが切りたいのに、何が撮りたいのかわからない。いつからか、そんな時は水辺に向かうようになっていました。風景と水面が呼応する美しさ、実像と虚像が作り出す魅力。静かな水辺は、風景写真家の感性もがリクレクションする特別な場所なのです。
小林 淳