「観る」から「撮る」へ。楽しみながら追い求める水中世界の美しさ
水族館という撮影が難しい環境だからこそ、イメージ通りの写真が撮れたときの喜びは他では味わえません。
水族館は難要素ばかり。だから面白い
多い時は週4回くらいですね、水族館を訪れるのは。お気に入りの水族館「マクセル アクアパーク品川」では季節ごとにイベントの内容が変わるのです。通いなれた館ですが、新しいプログラムが始まるとその都度カメラを片手に見に行ってしまいます。そこでうまく撮影できないときは、また仕事帰りに寄ってみて……。水族館が職場から近いのは良いですね(笑)。
子どものころからの水生生物好き。一般的にはあまり馴染みがないかもしれませんが、熱帯魚の一種のチンアナゴを飼育したりしていました。
以前先輩がカメラ持参で遊びに来て、私の水槽を撮ってくれたことがありました。その写りの良さに感動し、私もカメラを始めることに。初めてのチョイスは、先輩と同じニコンのD5300。それ以来、ずっとニコンです。
最初は一眼レフカメラの扱い方がまったくわからず。ワクワクしながら水族館に行ったものの、シャッタースピードもISOも知らないまま撮影した写真は、ブレているし真っ暗だし、ずいぶんガッカリしたものです。でもいずれは良い写真が撮れるようになるはずと、独学しながらさらに水族館へ通うようになりました。
後から考えれば、初心者の私が最初からうまく撮れなかったのは当たり前だったと思います。水族館の空間は「暗い」「自分でライティングできない」「三脚は立てられない」「自由な角度から撮れない」「被写体が素早く泳ぎ回る」「生き物ごとに習性が違う」「水槽ごとに明るさが違う」「他のお客さんもいる」など、撮影に向かない要素ばかり。
ですので撮影時は実際に現場を見て「このシチュエーションなら、このような画が撮れるのではないか」とイメージし、その状況にあった対応をします。撮影は容易ではないですが、それだけに良い作品が撮れたときの感激はひとしおです。
求めているシーンと出会える水族館
昔は生態を学ぶための場という印象でしたが、徐々に水族館のあり方も様変わりしてきました。話題にもなった「サンシャイン水族館」の「空飛ぶペンギン」の展示などのように、楽しみながら生き物たちの生態や環境について知ることができる施設が多くなっているように思います。
純粋に水族館を堪能したいという方におすすめなのは、三重県の「鳥羽水族館」。敷地が広大で、展示されている種類も日本一。国内では4頭しかいないラッコやここでしか飼育されていないジュゴンの展示、セイウチがお客さんにキスをするというプログラムも人気です。施設も充実しているので、丸一日滞在しても見足りないのではないでしょうか。 撮影目的で行くなら、私は千葉県の「鴨川シーワールド」が好きですね。自然光が差し込む水槽の中を優雅に泳ぐイルカやシャチの姿はまるでラッセンの絵のよう。私が撮りたいシーンに出会える館です。
これから水族館の撮影をしてみたいという方は、やはり他の観客が少ないような平日や、会館直後・閉館直前の人の少ない時間帯に訪れると良いでしょう。じっくり被写体と向き合えますし、撮り直しもできます。
また、あまり展示に凝っている施設より、少しシンプルな水族館のほうが初めての方には撮りやすいかもしれません。例えば東京だと「しながわ水族館」など良いのではないでしょうか。自然光が入る水槽であれば、 f/4-6.3といったレンズでも絞って撮ることも可能なはずです。
水族館で撮影するときの基本的なマナーとしては、なにより他のお客さんの邪魔にはならないこと。また、水槽を傷つけないためにレンズを接触させないこと。撮影の注意点としては、水槽の映り込み、さらに像の歪みにも気をつけたいところです。最近の水槽はアクリルガラスという素材が使われているのですが、大型水槽ほど厚く、斜めからレンズを向けるとなかなか魚にピントが合わないことも。そういう場合は真正面から撮影してみてください。
それから色の問題。自分と被写体との間には分厚いガラスや大量の水など撮影を妨げる要素が多く、それが原因で自然な色が出にくいケースも少なくありません。そのようなときは魚がガラス面に寄ったところを撮影するなど、自分と被写体との距離をできるだけ縮める工夫をすると良いでしょう。
もし、もっと水族館を撮影するための細かな設定やコツを知りたいという方は、「NICO STOP」というサイトの私の記事も参考にしていただけるのではないかと思います。
使って変わった、ミラーレスカメラの印象
正直、ミラーレスカメラには少し偏見がありました。「動体に対するAFの反応が遅い」「電子ファインダーの像は荒いし、タイムラグがある」といった話も以前から聞いていたので、暗い環境で素早く動き回る生き物たちを撮影する私が、使うのをためらっていたのもご理解いただけるでしょう。でも実際に試したらマイナスのイメージは払拭され、むしろそれまでメインだったD780より写りが良好。私の撮影スタイルにもマッチしたカメラだと感じました。
良かった点としてはボディーが全体的にコンパクトになったということ。軽量になり、さらに手ぶれ補正が強くなっています。
水族館の空間を撮影する際は、明るさを確保するためにどうしてもシャッタースピードを落とさねばなりません。しかし三脚が使えない状況で1/20秒以下にすると、以前はブレが生じることも。ところがZ 7IIに変えてから1/10秒以下でもほとんどブレることがなくなりました。その分表現の幅が広がったと感じています。もちろんミラーショックもありません。これも手ブレの大敵ですから。
またD780以降も受け継がれている、暗所でのオートフォーカスの精度を上げるローライトAFも、水族館撮影には強い味方です。
レンズで気に入っているのはNIKKOR Z 50mm f/1.8 S。D780では、標準の画角に近いレンズとしてAF-S NIKKOR 58mm f/1.4Gを使用していました。ボケが大変美しく、ポートレート撮影に適したレンズでしたが、f/1.8に絞って撮影をしたときの画の解像感に少し物足りなさを感じていました。ところがNIKKOR Z 50mm f/1.8 Sは、開放からシャープで絞っても美しく、周辺部まで私がイメージしていた解像感を提供してくれています。
自由な表現を求めて新たなチャレンジ
憧れている方がいます。それは水中写真家・岡田裕介さん。彼の作品に触発され、私も水中写真家になりたいと思うようになりました。
いずれは写真集なども出してみたいのですが、水族館の写真は版権の問題などもあり気軽に使用することができません。自分の表現の場を広げるためにはネイチャーフォトへのチャレンジは必須と感じています。
ちなみに水中写真家は、写真ばかりでなく泳ぎの技術や体力も大切。世間的にも落ち着かない状況が続き、なかなか計画も進んでいませんが、今できることとしてまずはジムで体作りから始めようと思っています。
あきさんの「好きな水生生物 TOP3!」
第1位 イルカ
子供の頃から自分より大きな生き物に興味がありました。幼稚園の時、初めて水族館で見たジンベイザメの迫力に感動し、それ以降イルカやクジラなどの大型の水生動物に心を奪われています。
ショーを撮影することも多いです。イルカがジャンプする位置は中央も多いですが、ショーごとに微妙に違ったりしますので、飼育員さんの立ち位置・動きなどを確認し、イルカのジャンプする位置を予測し、撮影。可能であれば何回か見て、自分のイメージに近い位置で撮れるよう撮影ポジションを調整しています。
第2位 クラゲ
見ているだけで癒し効果があると言われていますね。ここ数年クラゲの人気は高く、クラゲの展示種類が世界一の「加茂水族館」をはじめ、「サンシャイン水族館」「京都水族館」など改装されたクラゲのエリアは人気のようです。
イルカ同様クラゲの撮影をすることも多いのですが、私の場合クラゲそのものを撮りたいというよりも、クラゲが作り出す「癒しという概念」を表現したいというイメージで撮っています。
第3位 チンアナゴ
体の半分以上が砂に潜った状態で生活する魚なので、非常に縦長の水槽に半分位の高さまで砂を入れた水槽で飼育します。
おとなしそうに見えますが、実はテリトリー意識が高く、他のチンアナゴが自分の縄張りに入ろうとすると威嚇したりします。でも基本的に流れてくる餌を求めてゆらゆらしていることが多いので、その様子に癒やされます。
撮影にご協力いただいた水族館
新江ノ島水族館、マクセル アクアパーク品川、横浜・八景島シーパラダイス