旅と写真と文章と。踏み出すことで叶えた、夢に描いた生き方。
美しい海や花たちにインスピレーションをもらいながら、培ってきたスキルをこの沖縄へ還していく。そして、沖縄を拠点として、また旅へ――。今はそんな暮らしを思い描いています。
多くの人に支えられてフォトグラファーに
人生で大切なものは何かと聞かれたら、「旅・写真・文章」とすぐに答えます。
金融や出版の企業に勤めたものの、「旅をしながら執筆の仕事がしたい」という長年の想いに背中を押され、フリーランスに。今は主に編集者、フォトグラファーとして、やはり「旅・写真・文章」に関わる活動を続けています。
とはいえ、独立した当初は執筆業が中心で、写真を仕事にすることはあまり意識していませんでした。子どもの頃から撮ることは好きでしたが、専門的な知識はほとんどありませんでしたし……。ところが取材などで撮影の必要に迫られることが何度かあり、そこで単に書くだけではなく撮影も私が行うといった仕事の形もあるのだと気がついて、真剣にカメラと向き合うようになります。文章単体よりも、写真が撮れたほうが、たとえば発信などに関して「助けてほしい」と相談してもらったときに、力になれる範囲が広いな、という可能性みたいなものも感じていました。
周囲の人たちにも恵まれていたように思います。仕事で撮影をするなら本格的な機器を使うべきだと、ニコンの一眼レフカメラを譲ってくれた叔父。取材現場で、仕事の合間にさまざまなアドバイスをくれたプロのフォトグラファーの人たち。SNSへアップした写真に、お褒めの言葉や励ましのコメントをくれた多くの方々。
いろいろな人たちに支えられながら、今の場所にいられるのだと感じています。
花には世界中の色彩が詰まっている
現在は沖縄を拠点にしています。学生時代に日本一周、29歳で最初の世界一周へ出かけて以来、70以上の国に渡航。特に2016年以降は定住場所を持たず、気の向くままに海外を巡りながらリモートワークをしてきました。数年経ち、2020年に入ってからは、旅へのある種の満足を感じたので、次は、旅に出ても安心して帰ってこられるホームグラウンドを作る段階かなと。そしてその際には、できればこれまで培ってきたスキルを、移り住んだ土地に還元していくような活動もできたらと思うようになりました。
そこで私の好きなスペインのバルセロナのように自然豊かで美しい海があり、独特の文化や鮮やかな色彩に溢れているこの地に腰を据えることとしたのです。
作品制作を行うにも、ここはとても理想的な場所です。とにかく心が動かされるモチーフに事欠きません。沖縄の象徴であるコーラルの海や様々な表情を見せる空はもちろん、花や植物に強く惹かれます。私は旅をしながらその土地特有の色彩をカメラで記録するのが好きなのですが、植物の中には世界中で見たあらゆる色が詰まっていると常々感じていました。その点においても本州ではなかなか見られない多彩な花たちが、毎月道端で咲き誇る沖縄の環境には、日々創作意欲を掻き立てられています。
私の五感を拡張してくれる Z システム
作品を作る上で大切にしているのは「五感の再現」です。事物の表層だけでなく、私が感じた陽の光、温度、匂い、風の流れまで見る人に伝わるような作品にしたい。そのために、私に必要だったのが文章と写真の融合だったのだろうと思います。
そんな表現の面からも、今メインで使用しているZ 6は、本当に出会えて良かったと思えるカメラです。特にNIKKOR Z 85mm f/1.8 Sとの組み合わせは、私の感覚にぴったりとフィット、というよりもむしろ五感が拡張されるような感じを受けます。
心惹かれて被写体にレンズを向けるわけですが、ファインダーを覗くとそこには目で見た印象以上に美しい世界が映し出されていて……。中でも花との相性は抜群で、まるでポートレートを撮られているモデルさんかのように、花と目が合うような感覚すら得られるのです。今の私にとって、このカメラとレンズのコンビはなくてはならないものです。
また旅でもZ 6は頼もしいパートナーです。行く先々は必ずしも撮影しやすい場所ばかりではありません。明暗差の激しい状況、砂漠や水辺など機器にダメージを与えかねない環境にもよく出くわします。ですが高い描写力と堅牢さを併せ持つZ 6であれば、どのような場所においても写真のクオリティーは保たれると、全幅の信頼を置いています。不慣れな土地では不安を感じることもありますが、このカメラなら大丈夫という安心感は代えがたいものです。
踏み出せばきっとステップアップできる
もともと私は石橋を叩いて渡るタイプ。ですから会社を辞めフリーランスとして働こうと決めた時は、夢へと向かう高揚した気持ちとともに、先の見えない怖さもありました。
海外での活動期間中はさまざまな国に赴き、日本から移住された女性たちにインタビューをしていました。例えばタイでカフェを開いた人、スペインに移住しフォトグラファーとして仕事をしている人、チェコに渡り作家になった人など。人選について特に意識はしていなかったのですが、いま思えば、自分が理想とするような生き方をしている人に取材をお願いしていたような気がします。
皆さんにお話を伺っていると、ゼロからのスタートでも本気で取り組めば大抵のことは実現できるのではないか、踏み出せばその分階段を上っていけるのではないかと感じるようになりました。振り返ってみれば私自身、ライターになれたこともフォトグラファーになれたことも確かにそうです。今ではやりたいことをやらずに後で悔やむことのほうが恐ろしいと感じています。
今後は全く別の新しいことにチャレンジするというよりも、これまで愛してきた「旅・写真・文章」という軸に、沖縄の地を掛け合わせて新しいものを生み出したい。そして沖縄の魅力を私自身の視点で伝えるために、沖縄をテーマに作品を作っていきたい。そして時折、また旅先に出て力を蓄えられたら――。そんな循環を思い描いています。
スペシャルギャラリー「花と写真と日々と」
世界中で心を動かされてきた、夕暮れの空、海、砂漠の満月、異国のバザール……「もしかしたら、その色彩すべてが花と植物には詰まっているかもしれない」と感じた日から、被写体として魅了され続けています。
伊佐知美