山野 泰照Yasuteru Yamano
NIKKOR Z20mm f/1.8 S
「開放からの端正な星像に
心が躍る」
星景写真はカメラの高感度性能だけでなく、レンズの限りなく高い開放性能が要求される究極の世界。求められるものは、日周運動による星の流れを止めるための短い露出時間にどれだけ暗い星まで写せるか、しかも捉えた星は画面周辺まで点像であること。注目したいのは、f/1.8という開放F値の明るさもさることながら、開放で得られる端正な星像である。無限遠で画面周辺に至るまで収差による星の肥大がほとんど見られないだけでなく、有限距離にある地上の風景が、ここまで美しくボケてくれる広角レンズは稀有だろう。これからの星景撮影のパートナーとするにふさわしい能力である。
静かに日没を迎える中でシャッターをきった。絞りによる回折効果の光芒を出したくなかったので絞りは開放に設定。画面中心の対称位置に夕陽のゴーストが出ても不思議ではない状況だが、それらはまったく見られない。そのおかげで、美しく静寂なイメージを表現することができた。
金星と冬の大三角、プレアデス星団やヒヤデス星団まで画面に収めることができるのが20mmという焦点距離の強みだ。絞り開放のf/1.8なら、露出時間を抑えて無数の星をより美しく捉えることができる。夜はまだ浅く、地平線の残照と次第に数を増す星々との対比が印象的な表現となった。
南天のさそり座からわし座に至る雄大な天の川を狙うには、焦点距離20mmの画角がいきる。f/1.8から安心して使える画質なので絞りは開放とし、星がほぼ点像に写る短い露出時間で暗い星までしっかり捉えられた。昇ってきた木星と土星、さらに地上の風車も入れ、贅沢な気分を味わえる表現となった。
赤道儀を使い天体を追尾撮影する場合、露出時間の制約がないため、絞りの選択は画面周辺まで納得できる画質が得られるかで決める。一般的には開放から2段ほど絞ることが多いが、このレンズならf/2でもシャープな星像が得られるため安心して選択できる。露出時間も短くでき撮影効率が上がることもありがたい。
青空を背景に満開のしだれ桜を撮影した。広角レンズの場合、被写界深度は深くなりがちだが、このようなシーンでは明るいレンズによる浅い深度表現を活かしたい。ピントの合っている部分は極めてシャープに、それ以外は美しくなめらかなボケによって、とても自然な遠近感を感じさせてくれる。
大きなプリント作品の場合、立体感を左右するのは、ほんのわずかなボケの変化だ。このレンズは微妙な深度コントロールができ、表現の自由度を高めてくれる。それを活かすため、あえて絞り開放で撮影した。その設定でも高精細・高コントラストで、高画素のカメラにも難なく応える描写力を発揮する。
タイムラプスムービー
写真家、写真技術研究家
山野 泰照(やまの やすてる)
星景写真家、写真技術研究家。1954年、香川県生まれ。1970年代から天文雑誌での作品発表や記事の執筆を行う。2000年以降、デジタルフォト、デジタル天体写真に関する発表や記事を多数手掛け、著書として「デジカメではじめるデジタルフォトライフ」、「驚異!デジカメだけで月面や土星の輪が撮れる—ニコンCOOLPIX P900天体撮影テクニック」などがある。一般社団法人日本写真学会(SPIJ)会員、公益財団法人冷泉家時雨亭文庫会員。