山口 規子Noriko Yamaguchi
NIKKOR Z50mm f/1.8 S
「私をもっと自由にしてくれる単焦点」
初めての印象は、「なんてシャープ!なんてクリアー!」だった。開放f/1.8からの素晴しい解像感。それが、被写体にぐっと寄ったテーブルフォトからポートレート、スナップ、風景まですべてに発揮される。そして美しくスムーズなボケ。特に柔らかい後ろボケがとても気に入っている。ファインダーを覗いていると、まるで被写体に手で触れているかのよう。その感覚が、撮っているという意識から私を解放し自由にする。今までの固定観念を一掃してくれる。このレンズはそういうレンズだと思う。
イタリア、サルデーニャ島の銅細工職人の工房にて。飾りパン用の模様をつける道具を撮影。先端の金属の輝きと美しさを捉えたかった。絞りを開放のf/1.8に設定しシャッターをきる。ピント面のシャープな解像はもちろん、そこからの柔らかいボケがとても素晴しい。まるでマクロレンズのようだと思った。
ハワイ島、コナの夕暮れ。静かな空気感をシンプルな色で表現したかった。深めの被写界深度を意識し、f/11でシャッターをきる。オレンジの空と海を背景に、くっきりと締った黒で描かれたヤシのシルエット。葉のディテールは先端まで克明に捉えられている。このレンズの解像力と表現力の凄さを実感した。
イタリア、サルデーニャ島で、パスタとパン作り名人のガブリエッラさんを撮影。手際よくリズミカルに作業を進める彼女を追い続けた。窓から射す自然光を活かして厨房の雰囲気とともに楽しそうな笑顔を捉える。その表情の細部はもちろん、優しく生地に触れている手のしなやかさまで伝わる一枚となった。
ハワイ島コナ。ランチで賑やかだった食堂も昼下がりには静かな空気が漂う。その雰囲気を表現するため床からテーブルの奥の窓まで、室内空間を広く収める。色収差も直線の歪みもしっかりと抑えられ、自然な空気感を表現できた。
兵庫県豊岡市の柳行李職人を撮影。加工したコリヤナギの樹皮を編む手元を、このレンズの最短撮影距離40cmまで寄って捉える。長年の経験によってその手に深く染み込んだ繊細な技の息づかいを表現することができた。指の一本一本に刻まれた皺まで克明に描写されている。
Interview
写真家
山口 規子(やまぐち のりこ)
栃木県生まれ。東京工芸大学 短期大学部 写真技術科卒業。株式会社文藝春秋写真部を経て独立。女性誌や旅行誌を中心に活動。透明感のある独特な画面構成に定評がある。「イスタンブールの男」で第2回東京国際写真ビエンナーレ入選、「路上の芸人たち」で第16回日本雑誌写真記者会賞受賞。ドキュメンタリーや料理、暮らしに関する撮影書籍は多数。昨今はイタリアのサルデーニャ島、青森県、ダンサーなどを撮り続けている。公益社団法人日本写真家協会理事。