佐藤 章Akira Sato
NIKKOR Z600mm f/6.3 VR S
「超望遠の常識を変える
驚異的な軽さ」
このレンズを初めて持ったとき、私は思わず「軽っ!」と口から出てしまった。野生動物の撮影は相手に警戒されない距離から撮ることがとても重要。それをかなえられる600mmはこのジャンルの王道レンズと言える。ところが、超望遠レンズは北海道の広いフィールドを長時間散策しながら撮影するには重たく、徐々に体力が削られてゆく。だが、この新型は驚くほど軽量で長時間の手持ち撮影が可能。この取り回しの良い軽さと強力な手ブレ補正が相まって、素早く動く野生動物を容易に捉え続けてくれた。解像感がとても高くボケも滑らかで美しい。動物たちの毛の1本1本がシャープに浮き上がってくる。もふもふ好きの私の顔が自然とほころぶほどに、ワクワクが止まらない。
初秋の森の中で、ちょろちょろと走り回るエゾシマリスと出会った。お気に入りの切り株に乗り、オンコの実をほおばり始めた。私は地面に這いつくばって夢中でシャッターを切ったが、こんな無理な体勢でもこの軽量なレンズなら撮影に集中できる。ファインダー越しに見る美しい玉ボケ、精細に描写された毛の1本1本が見事で、愛らしい被写体の姿に魅了された。
産卵のために川を遡上してくるサケマスを狙って1頭の若いヒグマがやってきた。何度もトライしてやっと魚を捕まえた瞬間を撮影。捕らえたのは小さなヤマベでヒグマにとっては少々残念な結果。ヒグマは黒い被写体なのでAFが難しい撮影になるが、しっかり瞳にAFが決まった。黄色い前ボケが美しい描写となった。
卵のために川を遡上するサクラマス。彼らの行く手には大きな滝が立ちはだかる。いつどこから滝越えジャンプをするのか分からないサクラマスを「飛んだ!」というタイミングでシャッターを切る。長時間にも及ぶ撮影でも、この軽量なレンズなら集中力が続く。ついにジャンプの瞬間をキャッチ。命を次の世代に引き継ぐ姿があまりにも尊くて涙腺が緩む。
森の中に静かに佇んでいるシマフクロウに出会った。日中にこんな近くで捉えたのは初めてで、その神々しいオーラと威風堂々とした姿に圧倒された。震える手をなんとか抑えながらシャッターを切った。羽毛の1枚1枚がしっかり解像され、差し込む光がとても美しい立体感のある1枚になった。
デントコーンの刈り取りでこぼれたコーンをついばむため、タンチョウの群れが集まっていた。夕暮れになるとタンチョウたちが一斉に飛び立ち、私は慌ててレンズを向けたが、軽くて取り回しの良いレンズのおかげで容易に捉えられた。また、夕日を入れたにもかかわらず高い逆光性能により、AF性能や解像感が落ちなかったことに驚いた。
まぶしい光がこぼれる朝、ヒガラが飛び回っていた。体がとても小さく少し離れていたため、1.4倍のテレコンバーターを装着し、焦点距離840mmで撮影。テレコンを装着しても瞳AFはつぶらな瞳をしっかり捉え、背景のボケは柔らかくきれいに、美しい羽毛をシャープに描写した。まるでS-Lineのレンズを2本持ち歩いている気分だ。
渡り鳥のアオバトの群れが海岸に姿を見せていた。海水を飲もうと沖合の岩礁に向かって飛び、迫り来る高波と何度も何度も格闘していた。風がとても強い場所なので、風に乗ったアオバトたちはものすごいスピードになる。ファインダー越しに軽快に追える取り回しの良さ、高い手ブレ補正効果、俊敏なAFでしっかりと捕捉できた。
茂みの中を歩き回るキタキツネに出会った。日が暮れる間際の曇天だったので、辺りがとても薄暗くなっていた。ノイズの発生を抑える目的でシャッター速度を少し遅くしていたため、ぶれやすい撮影環境だったが、強力な5.5段の手ブレ補正が的確にサポートしてくれた。
写真家
佐藤 章(さとう あきら)
1972年生まれ。北海道釧路市在住。2017年から星空や風景を撮り始める。初めて出会ったエゾフクロウの雛のかわいさに魅了され、野生動物の撮影に傾倒。作品はSNSや写真展などで発表。第70回ニッコールフォトコンテスト ネイチャー部門 特選を受賞。その他受賞多数。愛らしい動物の表情や一期一会の瞬間を大切にしている。