酒井 貴弘Takahiro Sakai
NIKKOR Z85mmf/1.8 S
「この世界の美しさを引き出すために」
人の中にある輝きを捉えたい。人を包み込む世界の美しさを表現したい。そう思いながら撮り続けている。このレンズの高い解像力は、瞳の奥のニュアンスや肌の質感、指先の表情まで細やかに描写し、その人の存在感を引き出す。そして中望遠ならではの豊かなボケが、存在感を際立てその人を包み込む空気感を表現する。さらに、この画角が新鮮な視点を与え、僕たちが生きる現実の中にある非現実的な美しさに出会わせてくれる。だから、もっと美しい表現に挑戦したい、この素晴しい世界の魅力をもっと引き出してみたい。
高原の眺望を背景に、軽やかに舞う真っ赤な布を使って風の形を表現しようとした。このレンズのキレのある描写力によって、風になびく布の印影や質感がとても美しく表現されている。開放F値1.8の豊かなボケにより背景を綺麗にぼかすことで、彼女の存在感をより引き出すことができた。
斜めから差し込む光が、彼女の中にある煌めきを照らし出す。その存在感を画角いっぱいに収めるために近距離からの撮影を行った。マルチフォーカス方式の採用によって至近距離の撮影でも収差を抑え、周辺の色滲みなども気にならないとてもクリアーな描写を得ることができた。
陽が傾く時間帯、空には急にうっすらと霧がかり始めた。神秘的な雰囲気に包まれた光景。その空気感を活かすため逆光での撮影に挑んだ。フレアで表情が見えなくなるリスクもあったが、ナノクリスタルコートによる高い逆光耐性のおかげでしっかりと彼女の表情を捉えられ、狙い通りの表現となった。
高原の風に溶け込むように、あえて彼女の存在感が希薄になるよう、少し距離感のある表現を試みた。空を大きく入れた構図だが、驚くほど周辺光量落ちが少なく、隅々まで均一な明るさになった。画面全体が抜けのよいクリアーな仕上がりとなり、心地よい空の広さをよりいっそう感じることができる。
この日最後の光を放つ太陽と赤い布を大胆に使った表現に挑んだ。真正面の夕陽とカメラとの間に彼女を立たせ、さらに赤い布で画面全体を覆うようにして撮る。真っ赤な繭の中の彼女のシルエットが羽化を待つ蝶にも見える。群を抜く逆光耐性と豊かなボケがなければ表現できなかった世界だ。
Interview
写真家
酒井 貴弘(さかい たかひろ)
1986年、長野県松本市生まれ。CM制作会社で動画編集、グラフィックデザインを経験した後にフォトグラファーを目指し、スタジオカメラマンを経て2019年にフリーランスに。SNSを通じて、主にポートレート作品を数多く発表。ナチュラルで透明感のある表現が人気を呼び、Instagramのフォロワー数は約2年間で75,000人を超える(2019年12月現在)。作品発表の他に、写真教室や自身の色彩感覚などを活かしたオリジナルのプリセットも手がけるなど幅広い活動を展開中。