茂手木 秀行Hideyuki Motegi
NIKKOR Z58mm f/0.95 S Noct
「写真家のイマジネーションに直結する」
星を星として、点像を点像として捉える。それがこのレンズの最大の特性だ。画面周辺部までのゆるぎない解像感、徹底したサジタルコマフレアの抑制などには目を見張る。天体望遠鏡に迫る大口径と10群17枚というレンズ群のなせる技であろう。さらに0.95という極めて明るい開放F値が驚くほどなめらかで美しいボケも生み出してくれる。かつてない解像力とボケが生み出すリアルな立体感。それは人の眼の限界を超え、撮影の自由度を大きく拡げていく。このレンズは写真家のイマジネーションに直結する。
中央アルプスの宝剣岳に沈むペルセウス座二重星団。画角周辺まで星が点に写るのがこのレンズの素晴らしい特徴だ。開放のF値0.95なら、より短い露光時間で星の動きを止めて撮ることができる。天体望遠鏡を思わせる大口径レンズは、密集して煌めく星々を美しく描き出した。
F値を1.4に絞るとさらにこのレンズの解像力が際立つ。イタリア、荘厳な朝の光に照らされた天空の町チヴィタを克明に捉えた一枚。ピントは約600m先だったが、この距離でも高解像であるがゆえにより遠くの景色がわずかにぼける。克明な描写と柔らかなボケの対比が、私のイメージする表現をより明確にする。
冬の北八ヶ岳。標高2300mでは強い風が霧氷を生み出す。フォーカスを合わせたのは100mほど先だった。その奥は緩やかに、だがしっかりとぼけていき大きな距離の変化を感じることができる。開放から発揮される高解像と美しく滑らかなボケによって、冬の造形の厳粛さと遥かなアルプスの連なりを対比させた。
厳冬期直前の霧ヶ峰。夕陽の半逆光に輝く灌木の美しさにカメラを向けた。距離は約70m。絞りは開放だが、まったくゆらぐことなく、シャープなピント面からつながる美しいボケを灌木の前後に滲ませた。望遠レンズのような描写をより広い画角でも得られることで、その場の雰囲気を余すことなく伝えられる。
マイナス20度の上高地から北の夜空を見上げた。画角の隅に至るまで星を美しく描き、月明かりに映える穂高連峰を克明に描き出す。まるで双眼鏡で眺めたようなリアルで立体的な描写が、この月明かりの美しさを記憶に残る一枚へと定着させる。
このレンズは距離に応じた自然なボケを得られる。北八ヶ岳の厳しい寒さで急速に凍結した植物を狙った。距離はおよそ1.5m。そのような近距離でも、また遠距離であっても、それぞれに自然なボケを愉しめる。凍った植物は広範囲に群生していたが、後方をボケで省略することでその造形の面白さを強調した。
Interview
写真家
茂手木 秀行(もてぎ ひでゆき)
1962年、東京生まれ。日本大学芸術学部卒業後、出版社マガジンハウス入社。雑誌「クロワッサン」「ターザン」「ポパイ」「ブルータス」の撮影を担当。2010年フリーランスとなる。1990年頃よりデジタル加工を始め、1997年頃からは撮影もデジタル化。デジタルフォトの黎明期を過ごす。2004年/2008年雑誌写真記者会優秀賞。レタッチ、プリントに造詣が深く、著書に「Photoshop Camera RAW レタッチワークフロー」、「美しいプリントを作るための教科書」などがある。ニコンカレッジ東京 講師。