クキモトノリコNoriko Kukimoto
NIKKOR Z35mm f/1.8 S
「もっと撮りたい
と思わせるレンズ」
このレンズのとろけるような美しいボケが好きだ。開放から発揮される高い解像感で描写されたピント面から、とても滑らかに変化していく。25cmの最短撮影距離を活かして近接撮影することが多いが、できるだけ背景を入れて撮る。素晴しいボケによってその背景はドラマになる。そして街の景観や夜景を狙う、遠景撮影においては、捉えた画面隅々までの解像と収差の少なさにいつも驚く。もっと撮りたい。撮影した写真をもっと見てみたい。限りなくモチベーションを触発するレンズである。
香港にて。トラムの2階席に座っていると雷雨に遭遇した。窓を流れ落ちる雨と細かな水滴、ガラスに滲む街灯りを絞り開放で撮影。水の流れと水滴がピント面の非常にシャープな描写からゆるやかにぼける。背後のネオンがそれらをキラキラと輝かせた。このレンズはとても深い表現をもたらしてくれる。
香港の市街。雨上がりの歩道に大きな水溜りがあったので、ローアングルで撮影した。暗い状況でも発揮される高い解像力とボケの素晴しさ。映り込みとは思えないほど被写体をクリアーに表現しつつ、美しい手前ボケにより異空間を演出する。広めの画角だからこそ、街の風景をしっかり入れることができた。
香港の乾物店の軒先にいた猫。35mmの画角を活かして、猫とともに店や街の雰囲気も捉えたいと思った。かなり近づいたが、コンパクトでAF駆動音も静かなこのレンズだから嫌がらなかったと思う。毛並みの描写はもちろん、ピントを合わせた目に街の様子がしっかり映り込んでいて、その解像力に驚かされた。
カフェの入口にあったオブジェを最短撮影距離の25cmまで近づいて撮影。絞りは開放にして、とろけるようなボケと高い解像力での描写を狙った。画面全体に広がる柔らかいボケの中から浮かび上がるような金属の手のリアルな質感がこのレンズの力を物語る。香港の象徴であるレッドキャブをアクセントとした。
香港の街角。風水的に大切にされている金魚と街の雑踏を一枚におさめたかった。その狙いに25cmの最短撮影距離と35mmの画角が応える。ガラス越しだが、黒々とした金魚の目にしっかりとピントが合い、背景はきれいなボケで人々の動きが捉えられている。静けさと喧騒を同時に表現できた。
夜市で賑わう通りと湾岸の夜景をZ 6の多重露出機能を使って重ねた。濃い生活感の漂う街と煌びやかなビル群によって、異なる表情を持つ香港を表現したかった。このレンズは、その高い解像感と優れた点像再現性で応えている。
Interview
写真家
クキモトノリコ
旅をしながら写真を撮ることを目指して学生時代に一眼レフカメラを手に入れて以来、欧米・アジア・豪州を中心に海外を訪れ旅写真を撮り続けている。いくつかの職業を経て写真家へ転身。現在は旅以外にも日々の出来事を撮りながら、写真を楽しむためのさまざまなセミナー講師を務めている。ニコンカレッジ大阪 講師。(公社)日本写真家協会(JPS)会員。