古性 のちnoci kosho
NIKKOR Z24-120mm f/4 S
「そう、どんなときでも
安心できる」
「これってどんなレンズなの?」と、もし誰かに聞かれたら「このズームさえあれば『どんな状況でも大体の事は大丈夫』って安心できるレンズだよ」と答えるだろう。広い風景も目の前の情景も、心の動くままにきり取れる。これまで逃してしまっていたあの瞬間を、ベストな画角で捉えることができる。そして細部までの鮮明な描写や、柔らかく美しいボケ味で表現することができる。 私の場合、常に“旅”が暮らしの中にある生活なので、このレンズ一本だけでどこへでも気軽に移動できることがとても嬉しい。そうそう、こんな標準ズームレンズがずっと欲しかった。
真冬に訪れた沖縄、宮古島の日暮れ前。刻一刻と変化する海のブルーも冬特有の柔らかな空の色も、なんだか見ているだけですべてが幸せで、裸足で過ごせるあたたかな心地よさをそのまま写真に閉じ込めたくなり、24mmの広角でシャッターをきる。画面の隅々まで歪みなく、とても美しい画になった。
佐賀県の宿に飾られていた花。朝の光を受けて輝く姿にうっとりしながら、何枚もシャッターをきった。黒い壁とピンクの花のコントラストもいい。小さな花が重なって『近くで見ると、なんだか雲みたい』と思い、120mmの絞り開放で思いきり寄って撮る。狙い通りの美しいボケを演出でき、お気に入りの一枚になった。
抜けるような青空が好きなので曇り空は避けてしまいがち。でも、看板のグレーと空の色のバランスがちょうどよく感じたので、思わずシャッターをきった。手前と背景の自然で柔らかいボケが彼女の存在感を引き立ててくれた。誰かの帰りを待ち侘びているような、そんな空気感を感じてもらえたら嬉しい。
食べ物を撮るとき『なんてセクシー!』と思うことが多い。このクロックムッシュの場合は、左からの朝日と右からの室内照明を受け、それが絶妙なバランスでとてもキュートだった。お皿の周りの余白とつま先を入れ真俯瞰から絞り開放で撮影。チーズたっぷりのシズルを柔らかい背景ボケが際立ててくれた。
早朝の部屋に差し込んでいた冬の陽があまりにも柔らかくて、飛び起きてレンズを向けた。ほわっとした光のあたたかさや、冬特有のにぶい輝きを表現したかったので絞りは開放とする。光を主役に、あえて逆光で撮ったがゴーストやフレアが抑えられ、ふわりと美しいボケを得られたお気に入りの一枚である。
お土産にもらったりんごジュース。絞りは開放にして120mmで目の前の世界だけを切り取る。『いまからいただきます』という思いを伝えたくてグラスを少し傾けて撮影。このレンズは、私が見つめる情景のままに、ジュースとキューブアイスをリアルに描写し、柔らかなボケでその美味しさを包み込んだ。
昔から『月』が愛しくて、いつも空を見上げてしまう。このときの三日月は、なんだか空のくすんだ水色と溶け合い、その姿を枯れ枝たちが額縁のように大切に囲んでいた。なんとも言えない美しさに思わずレンズを向け、手前は思いっきりぼかしフォーカスは月へ。ゆるぎない解像力でその感動を写真に閉じ込めた。
部屋に差し込む光で目を覚ますと外には美しい朝日。その光景に急いでホテルのバルコニーに出た友人。彼女の世界に入り込みすぎないよう少し離れたところから92mmで撮影。このレンズならちょうどよい距離感を探すことができる。絞りは開放だが、寝ぐせのついた髪の毛や、ぐるぐる巻きにしたマフラーの質感までしっかりと描写されていた。
写真家・コラムニスト
古性 のち(こしょう のち)
1989年、横浜生まれ。飾らない日々をドラマチックに表現することを得意とする。インスタグラムなどSNSで作品を数多く発表し、また、コラムニストとしても幅広く活躍。現在、東京と岡山の二ヵ所を拠点とするデュアルライフを実践している。共著に「Instagramあたらしい商品写真のレシピ」(玄光社)。愛機はNikon Z 6II。企業などのコミュニケーションをプロデュースする、BRIGHTLOGG,INC.の取締役も務める。