石田 卓士Takashi Ishida
NIKKOR Z100-400mm f/4.5-5.6 VR S
「操り撮る歓びが深まる」
シーンを切り取ることで生まれる美しさがある。このレンズの幅広いズーム域が構図と被写体選択をより自由にし、0.75mの最短撮影距離で被写体の異なる表情も捉えられる。段階的に絞り込まれたボディーはコンパクトにまとまっており、また、焦点距離を変えても常に重心が安定しバランスがよい。フォーカスリングやボタン配置も秀逸で、手持ちでホールドしたままでも操作でき、一瞬のチャンスを逃さない。さらに、フレアやゴーストを気にせず撮影できる優れた逆光耐性。それらすべてが、構図を決めシーンを切り取ることへの集中を高めてくれる。そして写し出される画は、動体も風景も高精細で立体感のある印象的な描写となる。操ること、撮ることが限りなく愉しいレンズだ。
雪化粧の妙高・苗名滝。その雄大な姿をスローシャッターで撮影した。シルキーな水の流れとは対照的に、雪を纏った木々の細やかな描写が美しい。吊り橋のワイヤーや複雑に入り組む小枝一本一本の表情が画面四隅までしっかり解像され、小雪に霞む午後の光の中でも立体感のある一枚となった。
雪の舞う冬日に何を想うのか。遠くを見つめる親猿を320mmで狙う。ズームリングの位置が適切なため、手持ちでも構えを崩さずに構図を決めることができる。高い手ブレ補正効果と絞り開放でも驚くほどの解像力で、体に乗った雪やうぶ毛まで克明に描写され、物憂い表情に深みを与えてくれた。
早暁の霧ヶ峰高原から遥かに望む富士山を240mmで撮影。ファインダーに映し出された山体は壮大でかつ美しく、唯一無二の存在感を放っていた。薄明のため絞り開放で撮影したが、山肌はもちろん前景の木々までしっかりと描き出され、その神々しい姿をより印象的に表現できた。
日本海沿岸の信越本線。空が美しい表情を見せる夕刻に、秋の穏やかな日本海と一両編成の電車を収めようと、駅舎を見下ろす高台から220mmで撮影。手前の架線から数十キロ先の山々までしっかりと解像し、圧縮効果による構図の妙と淡い色合いが郷愁を誘う一枚になった。
クルミを持って駆け回るリスをファインダー越しに狙う。高い手ブレ補正効果により400mmの望遠端でも容易に手持ちで追うことができる。重量バランスがよいためか、さほど重さは感じない。リスが突然止まってクルミをかじり始める。俊敏なAFがその姿をしっかりと捕捉していた。
目にとまった枯草を、日本海に沈む夕陽を背に光の花道に立たせてみた。幅広いズーム域を活かして理想の構図を探り真逆光で撮影する。優れたコーティングによりゴーストやフレアを気にすることもない。茜色の情景に生けた一輪、そのシルエットが鮮明に浮かび上がる。何を被写体にしても楽しいレンズだ。
冬の志賀高原、田ノ原湿原。よく晴れた朝、前夜からの冷え込みによる霧氷も陽が昇るとともに解けていった。枝に付いた蕾のような水滴を前ボケにし、まだ霧氷が残る日陰の木々にフォーカスを合わせ、絞り開放で撮る。光を反射する水滴が無数の綺麗な玉ボケの花を咲かせ、幻想的な一枚になった。
100mm~140mmあたりの中望遠は好きな画角だ。しっかり主題をクローズアップしながらも、自然のさまざまな表情を写し込むことができる。朝日に染まった冬の北アルプスから眼下の雲海までを、絞り開放でも透明感のある高精細な描写で捉え、柔らかな色合いで寒暁の美しい瞬間を表現できた。凍えた手でスムーズに操作できたことも印象に残る。
温泉にダイブする子猿をキャッチ。岩に登るところを発見し、ジャンプする姿を想像しつつズームリングを回し適切な画角を決める。あっ、飛んだ!その瞬間シャッターをきる。このレンズは素早いAFでそのチャンスを逃さなかった。絞り開放で得られる美しいボケが、小さな主役の躍動感を際立てる。
医師・写真家
石田 卓士(いしだ たかし)
1971年生まれ、新潟県上越市在住。地元の棚田の美しさに惹かれ、総合病院で内科医として働きつつ、2016年から風景写真を撮り始める。その土地に対する想いと独自性を大切にしている。東京カメラ部10選2017。著書に「感動!ナイトフォトの撮り方ガイド」(玄光社)などがある。